同性婚をめぐる札幌地裁判決の意義と限界
- 2021年 3月 24日
- 評論・紹介・意見
- 同性婚森田成也
2021年3月17日、札幌地裁で、同性間の法的婚姻を保障していない現行法体系は憲法違反であると提訴した原告の請求を退けつつも、婚姻制度による法的効果のいっさいを同性カップルに対して法的に排除していることは憲法14条1項に反するという画期的な判決が下された。多くの人は違憲判決が出るとは思っていなかったので、この違憲判決に大喜びしている。
原告側は、同性婚を法的に保障していない現行法体系は、幸福追求権を保障した13条、婚姻の自由を規定した(この解釈は独特のものだが)24条、そして平等原則を定めた14条1項の違反であると訴えたのに対して、札幌地裁は、13条違反、24条違反という訴えを退けつつ、法律婚による法的効果の一部でさえも拒否している現行法体系は、平等権を定めた憲法14条1項に違反しているとの判断を下した。またしても今回、憲法14条の平等権規定が持つ憲法規範の強力さが証明された。ちなみに私の最新著『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論』(慶応大学出版会)の第2章はまさにこの平等権の持つ憲法上および現実的な意義を確認しているので、ぜひ参照願いたい。
しかしながら、この札幌地裁の判決(https://www.call4.jp/file/pdf/202103/533e3260db61a96e84711d1f0c02d5d6.pdf)をよく読めば、これは同性間の法律婚を認めていないことをただちに憲法違反だとしているのではないことに注意が必要である。多くの報道や識者たち、運動団体や野党の指導者たちがこのような誤解を与える言い方を(おそらくは悪意なく)しているが、そうではなく、あくまでも、同性カップルに対して、婚姻によって生じる法的効果の一部ですら享受する法的手段を提供していないことが、立法裁量の範囲を超えた差別的扱いであると言っているに過ぎない。「一部ですら拒否している」ことが問題だというのが本判決の主張である。このことは判決で念を押すように何度も何度も繰り返されている。とくに、その結論部分において、以下のように述べている。
「本件規定が,異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことは、立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても,その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない。したがって,本件規定は,上記の限度で憲法14条1項に違反すると認めるのが相当である。」(32頁)
わざわざ「その限度で」「上記の限度で」と「限度」を2回も繰り返しており、あくまでも「婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないこと」が憲法14条1項違反であると、きわめて限定的に述べている。
一度でも判決文を読めばこの点の誤解の余地はないはずなのだが、多くの人が(原告側の弁護団を含めて)、あたかも、同性婚を認めていないこと自体が憲法違反であるとの判決が下されたかのように解釈している。しかし、地裁判決は明確かつ繰り返し、「婚姻によって生じる法的効果の一部ですら、これを享受する法的手段を提供していない」ことが問題だとしており、そのことが立法裁量を超えた差別的取り扱いだとしているので、たとえ立法府が同性婚を認めなくても、パートナーシップ制度のような何らかの代替手段を法的に提供しさえすれば、この違憲状態は解消することになる。
札幌地裁判決を書いた裁判長もそうした法的措置を念頭に置いていると思われる。というのは、判決には以下のように書かれているからだ。
「同性間の婚姻や家族に関する制度は、その内容が一義的ではなく、同性間であるがゆえに必然的に異性間の婚姻や家族に関する制度とまったく同じ制度とはならない(全く同じ制度にはできない)……」(31頁)。
「我が国には、同性婚に対する否定的な意見や価値観を有する国民が少なからずおり……立法府が、同性間の婚姻や家族に関する事項を定めるについて有する広範な立法裁量の中で上記のような事情を考慮し,本件規定を同性間にも適用するには至らないのであれば,そのことが直ちに合理的根拠を欠くものと解することはできない」(同頁)。
このような文章からうかがえるのは、たしかに同性カップルにも法律婚から得られる法的効果ないし法的利益を享受せしめるべきであるが、異性間に認められている制度とまったく同じであることは難しいとの認識である。
ちなみに、右派の中には、憲法を改正しないと同性婚は認められないという判決だという解釈をしている人もいるが、それは逆の行きすぎた解釈であろう。判決はそこまでは言っていない。法律婚による法的効果の一部さえ保証していないことが違憲だと言っているにすぎないので、その解消の仕方は多様でありうるし、それこそ立法裁量の範囲内なのである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10676:210324〕
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