〈転載〉「慰安婦」問題の解決は「被害者中心アプローチ」から外れてはならない ~2015年日韓合意を前提にした提言「共同論文 慰安婦問題の解決に向けて」をめぐって~ 위안부 문제 해결은 피해자 중심 접근 에서 벗어나서는 안 된다 ~2015년 한일 합의를 전제로 한 제언 공동논문 위안부 문제 해결을 향해 에 관하여 한국어 버전은 여기를보세요.
- 2021年 7月 17日
- 評論・紹介・意見
- 「ピースフィロソフィー」
日本軍「慰安婦」問題解決全国行動 のページから許可の下に転載します。私はこの投稿に全面的に賛同します。(ピース・フィロソフィー・センター代表 乗松聡子)
2021年3月24日、日韓関係や戦後補償問題に取り組む研究者や弁護士ら8名が「慰安婦問題の解決に向けて」と題する論文を発表しました。
この共同論文は長年市民運動にも関わってきた著名な研究者、弁護士、ジャーナリスト、市民活動家が呼びかけているため、日本社会において人権を尊重する市民を代表する意見として韓国でも紹介されています。
私たち、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動は、日本軍「慰安婦」問題解決のために全国各地で活動してきた団体と個人が集まって結成したネットワークとして、日本の市民社会にこの共同論文とは異なる意見があることを訴えるともに、「慰安婦」問題解決のために日韓両政府が被害者の意思を尊重した施策をとるよう、日韓の市民社会の対話を促していきたいと考えます。
■共同論文の矛盾点
この共同論文では、被害者の「心に届く誠実な謝罪」が最も大切であり、具体的には、①加害者が加害の事実と責任を認めて誠実に謝罪し、②その証として何らかの金銭的補償を行い、③過ちを繰り返さないために問題を後世に伝えることだとしています。
とりわけ、①②とともに、③を誠実に継続実行することによって①②の謝罪が真摯なものであることが被害者・遺族に理解されるようになると主張しています。
これは、私たちが2014年に日本政府に提出した「提言」の内容と合致しており、この部分について全く異論はありません。
しかし、この共同論文が解決案の基盤としている2015年の日韓合意はまさに、③「過ちを繰り返さないために問題を後世に伝えること」を否定しています。2015年の日韓合意の核心は「最終的不可逆的に解決されることを確認する」という文言にあり、日本政府はこの合意を根拠に韓国側に「慰安婦」問題を二度と蒸し返すことがないよう求めたことが、その後の調査でも明らかになっています。
日韓合意のプロセスを検証した韓国外務省・作業部会の報告によると、合意には「非公開部分」があり、この合意に被害者支援団体が抗議しても韓国政府が説得に当たること、日本大使館前の「慰安婦」像を移転すること、第三国での「慰安婦」関係の像や碑の設置を控えること、今後、「性奴隷」という言葉を使用しないことを日本政府が韓国政府に要請していました。
日本政府の要請を韓国政府が丸ごと承認したわけではないですが、日本側がこうした要請をしたこと自体に日韓合意の本質が現れています。
日本政府にとっては、過ちを繰り返さないために記憶し継承するのではなく、加害の事実をなかったことにするための合意でした。
したがって、被害者の「心に届く誠実な謝罪」を日韓合意の延長上に行うことは不可能だと思います。
■政府間の公式合意の扱い方について
共同論文を発表した方々は、日韓合意を仕切り直すことなど非現実的であるという認識に立ち、日韓合意を前提とした解決案を提案されているのではないでしょうか。しかし、それは日本は変われない、これが限界だ、韓国側に妥協して欲しいということを意味します。
加害国が被害者、被害国に寛容を強いて良いのでしょうか。
私たちは、日韓合意の存在を否定しているわけではありません。
韓国の文在寅大統領も日韓合意は政府間の公式合意であったと述べています。
しかし、政府間の合意であっても、政権交代で見直しが迫られることはあります。TPP(環太平洋経済連携協定)を推進してきた米国がトランプ政権に代わって、いきなりTPPからの離脱を表明したとき、日本は米国を約束を守らない国だと批判しませんでした。
日韓合意はその後の検証で様々な問題が明らかになり、国連の拷問禁止条約委員会からも「被害者中心アプローチを取るべきである」と勧告を受けています。韓国政府が一方的に破棄するのではなく、日韓両政府が合意のプロセスに問題があったことを認め、新たな合意を結び直せば良いはずです。
■日韓合意という暴力
日韓合意を仕切り直すことは非常に困難で、非現実的だと感じるのは日本社会に暮らす市民のリアリティだと思います。
しかし、韓国社会から見ると、日韓合意を継承することを前提に対話することの方が非現実的なのではないでしょうか?
日韓合意が被害者にとって、韓国の市民にとって、どれだけ屈辱的なものであったのかということを日本の市民は想像してみるべきだと思います。
謝罪と引き換えに、平和の碑(「慰安婦」被害者の少女像)の撤去を求めたり、「慰安婦」問題の関連資料をユネスコの記憶遺産に申請することを取り下げるよう求めることがどのようなことを意味するかを考えてみるべきだと思います。
ドイツの首相がホロコーストについて謝罪する代わりに、ポーランド政府に対して、アウシュビッツ収容所を撤去しろと言うでしょうか?
アメリカの大統領が広島・長崎への原爆投下を謝罪する(まだしていませんが)代わりに、日本政府に二度とヒロシマ・ナガサキと口にするな、原爆ドームを撤去しろと言ったら日本人はどう思うでしょうか?
そのようなことを口にしたら、どのような謝罪の言葉があっても、被害者と被害国の市民が謝罪を謝罪として受け止めることは出来ません。まったく反省はしていないけれども、二度と蒸し返して欲しくないので、謝ってみせたんだと受け止め、怒りが湧いてくるのではないでしょうか?
日本政府が日韓合意で韓国に対して行ったことはそのようなことです。
したがって、日韓合意の延長上に対話を進めようとすることは、日韓合意が暴力的なものであったという自覚が日本の市民にないことを意味します。
この共同論文の呼びかけ人の方々に再考を求めます。
日本軍「慰安婦」問題解決全国行動
<2021.3.24共同論文>
「慰安婦問題の解決に向けて ーー 私たちはこう考える」は以下から読めます(2021.3.24共同論文までスクロールしてください)。
https://peace3appeal.jimdofree.com/
(以上 日本軍「慰安婦」問題解決全国行動 から転載)
初出:「ピースフィロソフィー」2021.7.16より許可を得て転載
http://peacephilosophy.blogspot.com/2021/07/2015-2015.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion11115:210717〕
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