19期六中全会の概略はどんなものか
- 2021年 11月 18日
- 時代をみる
- 中国中国共産党阿部治平
――八ヶ岳山麓から(349)――
中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議(19期六中全会)は、2021年11月8日から11日まで北京で開催された。ここで新たな毛沢東と鄧小平の時代につぐ「歴史決議」が40年ぶりに採択された。中国共産党史上3番目の「歴史決議」である。「歴史決議」の全文は未発表だが、「6中全会公報(コミュニケ)」によって概略がわかる。以下11月12日の人民日報で発表された「6中全会コミュニケ」の概略を記す。
「コミュニケ」は今日までの中国共産党百年史を、次のように6期に分けて記述している。
第1期、1921年の共産党結党から1949年の中共政権樹立まで。抗日戦争と国民党との内戦、いわゆる「新民主主義革命」時期である。この段階は、「毛沢東同志を主要代表とする中国の共産主義者」は、帝国主義・封建主義・官僚資本主義に反対し、民族の独立と人民の解放を勝ち取ったという。
第2期は革命の成功から1978年末の中共第11期中央委員会3中全会までの期間。毛沢東が主導して、反右派闘争・チベット叛乱・大躍進・人民公社・数千万の餓死、そして文化大革命が起こった、およそ30年間である。
だが「コミュニケ」はこの時期の党の任務を「社会主義建設を推し進め、中華民族の偉大な復興の実現に向けて根本的な政治的前提と制度的基盤をうち固めることだった」とし、毛沢東思想は、マルクス・レーニン主義の中国における創造的な運用と発展であり、実践によってその正しさが立証された中国革命と建設の正しい理論的原則と経験の総括であるという。
第3期は、文革からの脱却を目指した「共産党第11期中央委員会3中全会」から江沢民の登場まで。いわゆる鄧小平時代である。改革開放という市場経済への転換がはかられ、中国人民が長いトンネルから抜け出した時期である。1989年には天安門事件があった。
コミュニケは「党の11期三中全会以降、鄧小平同志を主な代表とする中国の共産主義者は、……実事求是の態度をとり、党と国家の活動の中心を経済建設に移して改革開放を実行するという歴史的な政策決定を行った」「21世紀の半ばまで三つの段階に分けて社会主義現代化を基本的に実現するという発展戦略を確立し、中国の特色ある社会主義を創始した」という。
第4期は、1989年13期4中全会で成立した江沢民の時代である。この時期中国のテレビには清帝国の帝王が登場し「大国の復興」がうたわれた。江沢民は「三つの代表」重要思想を形成した人物とされる。「三つの代表」とは、労農人民の共産党に経営者層を加えるという政治方針である。
第5期は、2002年の第16回党大会以降の胡錦涛の時代である。SARSの流行に始まり、2010年中国のGDPが日本を追い抜き世界第二位に躍進した時期である。
胡錦涛は、「科学的発展観を形成した」とされる。また「中華民族が『立ち上がる』ことから『豊かになる』ことへの偉大な飛躍を推進した」と評価されている。
第6期は、2012年の中共第18回全国大会習近平政権成立から今日までの評価である。「習近平同志を主な代表とする中国の共産主義者は、……一連の独創的な国政運営の新理念・新思想・新戦略を打ち出し……『習近平による新時代の中国の特色ある社会主義』思想は現代中国のマルクス主義、21世紀のマルクス主義であり、中華文化と中国精神の時代的精華であり、マルクス主義の中国化における新たな飛躍を遂げた」
メディアや北京ウォッチャーのなかには、19期六中全会は、習近平氏を毛沢東・鄧小平と並べて、彼の権威を高めることにあると考えたと思う。メディアによっては、習主席が毛沢東・鄧小平にならぶ偉大な指導者として称賛されたといわんばかりの記事がかなりあった。もっとおとなしく「結党以来の歴史を振り返りながら、習指導部の業績に重点を置く内容となった。メディアを動員し、習氏が傑出した指導者だと礼賛する宣伝活動を展開している」(毎日ネット2021・11・15社説)というものもあり、さまざまだった。
コミュニケ原文で見ると、指導者それぞれに割り当てられた文章は、新民主主義時代16行、毛沢東15行、鄧小平12行、江沢民9行、胡錦涛7行、習近平24行で、確かに習近平への礼賛はとびぬけてはいる。だが内容は各時代の指導者を並列し、江沢民や胡錦涛が軽視されているわけではない。
コミュニケの特徴は、5人の指導者を同列に並べて評価したところにあるとわたしは考える。なぜなら指導者の思想として、毛沢東思想、鄧小平理論、江沢民の「三つの代表思想」、胡錦濤の「科学的発展観」と比べて、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義」思想が突出して評価されているわけではない。また「習近平同志を主な代表とする中国の共産主義者は……」という文言は、習氏だけが中国共産党を領導しているわけではないことを示している。
もし習氏のねらいが、「歴史決議」において、自らの地位を毛沢東並みにあげるところにあったとすれば、それに対するかなり強い抵抗があり、成功しなかったと言えよう。だが、習氏は無理をしなかったと考えるほうが自然である。江沢民・胡錦涛をはじめとする過去の領袖、彼らによって引き揚げられた最高幹部経験者はまだまだ多い。これから習近平氏は自派有利のために、これという人物を政治拠点に据えるであろう。
ただ今日、習氏が江沢民や胡錦涛とまったく同じ程度の指導者だと判断することも間違いであると思う。彼が集中する権力は前任の二人よりもはるかに上である。
習近平主席が歴的英雄の地位を求めて挑まなければならないのは台湾統一である。これは中共最大の課題であり、これを成功裏に勝ち取れば、習氏は間違いなく毛沢東・鄧小平に並ぶことができる。以後、どんな戦略が展開されるか注視したい。
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