中国のNATO批判が意味するもの
- 2022年 4月 22日
- 評論・紹介・意見
- NATO中国阿部治平
――八ヶ岳山麓から(371)――
ウクライナ戦争勃発以来、中国はアメリカ批判を繰り返していたが、4月に入ってからこれにNATO(北大西洋条約機構)批判が加わるようになった。
4月11日の「人民日報」の国際版「環球時報」の陳暘論文「NATOの中国に対する怪しげな議論は典型的な戦略的焦りである」は、NATO事務総長ストルテンベルグの発言を槍玉に挙げた。陳暘氏は中国現代国際関係系研究院欧州所副研究員である。氏のストルテンベルグ氏非難の要点は次のようなものである。以下( )内は阿部。
さるNATO外相会議において事務総長ストルテンベルグは、「中国はいまだロシアがウクライナに侵攻したことを批判していない」とか、また「(ウクライナなど)各国が独自の外交路線を選択する権利を持つことにロシアは反対しているが、このことも中国は批判していない」とかといい、さらに「これはNATOに対する重大な挑戦である」と発言した。
またこれ以前にもストルテンベルグは記者会見で、「中国はロシアにどんな形でも援助してはならない」と発言している。
同じ日「人民日報日本語版」も「ウクライナ問題で米国とNATOが善悪逆転の対中非難を繰り返す目的とは?」という題で、ストルテンベルグ氏の発言を強く批判した。米国とNATOが、ウクライナ問題について善悪を逆転させた中国非難を繰り返す背後には、悪意ある目的があるという。
その悪意とは、第一に、ロシアのウクライナ侵攻の責任を中国に転嫁することで、ロシア・ウクライナ関係において自らが演じた不名誉な役割を覆い隠し、誤魔化し、真実を見極めようとする人々の視線を逸らすことである。実際に、ウクライナ問題を作り出したのはアメリカであり、現在のロシア・ウクライナ情勢を裏で動かしているのもアメリカだ。アメリカは緊張した雰囲気をさらに拡大することで、ウクライナ問題の政治的解決を著しく妨害している。
第二に、中国のイメージをぶち壊し、いわゆる「中国の脅威」を誇張することで、中国をさらに叩く余地を作り出すためだ。今年6月開催のNATOの新戦略では、中国を念頭に置くことが重要な方針となる可能性が高い。現在の中国に対するデマと中傷は、NATOの(新しい)戦略調整を正当化するための事前の世論醸成のためだ。
第三に、中国に圧力をかけることで対立を作り出してこれをエスカレートさせ、世界を陣営間の紛争と対立という誤った道へ引き込み、アメリカに漁夫の利を得させることだ。すなわち、ストルテンベルグの誤った発言はアメリカの覇権的利益を代弁しているのである。
人民日報は「NATOの際限なき東への拡大こそが、ロシアとウクライナの対立を噴火口へと一歩一歩追いやってきたのだ」とし、「中国は一貫して、主権・独立・領土的一体性はいかなる時においても尊重されるべきだ」とウクライナ戦争勃発以来の主張をくりかえしている。
そのうえで、「(中国は)見解が異なるからといって、敵か味方か、黒か白かのように扱うべきではないことを強調してきた」といい、ストルテンベルグ氏が「中国はプーチンを批判すべきだ」といったことに対して、「中国は、各国には自主独立的に対外政策を決定する権利がある。どちらの側につくのかの決定を強制されるべきではない」と主張する。
中国は、すでに3月のうちに、中国はどこの味方もしないし、軍事支援はやらないと言明したではないか。そして、中国は冷静さと理性を保ち、積極的に和平交渉を促進しており、その建設的役割は誰の目にも明らかだと主張している。
中国にだれからも干渉されずにロシアに対する態度を決する権利があるならば、ウクライナにもNATO参加を決する権利があり、ロシアがウクライナを侵略する理由はないはずだが、人民日報はそれは言わない。
以上の論調から、中国はロシアに傾きながらも、中間的な立場を固く守ろうとしていることがわかる。わかってみると、中国は2014年のプーチンによるクリミア略奪も、プーチンが捏造したウクライナ東部の二つの「人民共和国」もいまだ承認していないことに気づく。それに、ロシアの侵略行為を批判はしていないけれども、ウクライナ侵攻をもろ手を挙げて支持したこともない。
中露両国は1996年以来、戦略的パートナーシップの関係にあるが、これを同盟関係同然とする見方に対しては、「この関係は第三者(すなわちNATO)に対するものではない」と抗弁している。
今日、ロシアの市場に中国産の消費物資があふれたとしても、それは援助ではない、西側の経済封鎖がもたらした経済の論理のなせるわざだというわけである。だから、ニューヨークタイムスなどが、中国がロシアを軍事的に支援する可能性があるといった憶測報道をすると激しく反論するのである。
中国政府は西側のロシアに対する経済制裁を非難しているが、自国の企業に対しては、ロシアから距離をおいて西側による経済制裁を避けるよう指導している。
3月25日付ロイター通信によれば、石油ガスの大手である国有の中国石油化工(CINOPEC)グループは、ロシアへの大規模な石油化学投資とガス販売事業に関する協議を打ち切ったという。これは提携相手であるロシアのシブール社の株主の中に、制裁措置の対象に指定された人物がいることを受けての結果だという。
さらに中国外交部(外務省)は、中国国有の3大エネルギー企業である中国石油化工、中国石油天然気(PETROCHINA)、中国海洋石油集団(CNOOC)の3社の幹部に対し、ロシア側パートナーとの事業関係や現地事業を見直すとともに、ロシアの資産を購入するような軽率な行動をとらないよう勧告したと報道されている。
こうなると、ロシアと直接間接に取引する他の中国企業も外交部の意向に従うであろうことは目に見えている。
習近平政権はアメリカに対抗するために、心情的にロシアに傾斜する。だが西側のロシアに対する経済制裁のとばっちりを食らいたくはない。経済制裁が中国に向いた場合、それによる経済不振は中国社会の不安定化をもたらすからである。
それはこの秋の習近平中国共産党総書記の任期延長の是非を問う党代表大会に影響する。だからどうしても、アメリカとストルテンベルクのNATOを批判しながら、自分たちは中立だと主張し、ロシアと交渉のある企業に慎重な取引を促すのである。
もしかしたら、習近平政権はプーチンの軍事行動を向こう見ずなものとして持て余しているのかもしれない。 (2022・04・19)
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