理路整然としたウソ
- 2022年 5月 10日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
どんなに正直な人でも十歳になるまでには、ウソの一つや二つはついているだろうし、不惑の年も過ぎるころには百や二百じゃきかないだろう。それなりの社会生活をおくるには、程度の差こそあれウソまみれになるのを避けられない。ウソとわかっていてつくウソもあれば、聞いたウソを真に受けてウソの拡散に一役かってしまうこともある。事実と思い込んでか、事実を知らずしてついてしまうウソもある。ときには自分をだますようなウソをついてしまうことすらある。一生ウソと縁のない生活を送れる人はいない。どんなに清廉潔白な人も例外じゃない。ウソはいつでもどこにでもあるが、毎日巷に吐き出される山のようなウソにも性格というのか種類に違いがある。
聞いている人どころか言っている本人ですら、真っ赤なウソだと分かってつくウソはウソに違いないが、なかにはウソと呼んでいいのかちょっと悩むウソがある。物理的に言葉は聞こえても、何も何を言っているのか分からないゴタクや全く整合性のない、ただの文字列のような話しは真実じゃないということからすればウソといっていいかもしれない。それが横丁のオヤジさんやおばさんの世間話でもなく、仮にも宰相や大企業の社長の話や労働運動の役員の長口上などは世間の常識に照らし合わせてウソと言われてもしょうがないことがある。
こんなどうでもいいこと思いだしたのは、ウクライナに侵攻する直前から流れて来たロシアのプロガンダにうんざりしたからだった。そこそこの組織になれば、前に言ったことと整合性のないことを言うのを躊躇う。前のウソが次のウソを必要として、その次もまたウソになって、そこからまたウソが続いていく。教条的なというのか無誤謬性を固持しなければならない社会はそんなウソで充満している。言っていることには、これほどはないという整合性があるが、始めから終わりまでウソしかないというニュースまである。
ロシアがウクライナとの国境に十万人を超える軍を集結して、二月二十四日にはウクライナへの侵略戦争を始めた。毎日ウクライナ情勢のニュースで溢れかえっている。アメリカやイギリスの主だったメディアもあれば、ウクライナの通信社からのものもある。イスラエルやカタールからのものもあれば香港やドイツやフランスからのものもある。一つのニュースから幾つもの知らなかったニュースサイトが見つかるから、あれもこれもと読んでいると朝になってしまう。ロシアのプロパンダサイトには、よくもまあしゃあしゃとそんなバカげたことをというのがある。
日本語と英語までしか分からないから、ロシア語で書かれたロシアの地のニュースは読めない。どこまで事実なのか確認のしようがないのが口惜しいが、かなりの数のニュースサイトからの記事と照らし合わせると、どう見てもウソとしか思えないニュースがある。それもその場しのぎのウソではなく、しっかりと考えられた理路整然としたウソだけに、こういうことを平然と言ってのける人たちはいったいどういう人たちなのか、そしてその人たちによって営まれている社会とはどんな社会なのかと想像すると、その社会の存在自体がウソであってほしいと思いだしてしまう。
三月十一日Yahooが興味深いニュースを伝えてきた。
「ウクライナ出身の政治学者 ロシア外相の発言に『ウソを堂々と語る教育を受けているんです』」
今日、五月八日、メモしておいた下記urlからサイトを探したが、出てこない。なんらかの理由で消去されたようだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c2e5e6b7d76f83e1888f2f2e94f3ff461102b84e
キーとなる言葉から探したら、下記が見つかった。
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/03/11/kiji/20220311s00041000318000c.html
ニュースを解説つもりはない。概略は下記の通り。
ウクライナ出身の政治学者グレンコ・アンドリー氏が11日、日本テレビ系「情報ライブミヤネ屋」(月~金曜1・55)に生出演。ロシアのラブロフ外相が「我々はウクライナを攻撃していない」と主張したことに言及した。
「ロシアの外交官の育成過程で非常に大事な点は、自分が明らかにウソだと分かっていても、それを堂々と語る話術。それと同時に、周りのみんなもウソだと分かっていることを本人が分かりながら、それでも堂々と語る技術」と指摘。これを踏まえ、「なので“本人はこんなことを言って何とも思わないのか!?”と思っちゃうんですけど、思わないんです。そういう教育を受けているんですね。ロシアの外交官はいかにもっともらしくウソを語るかということを教わっているわけであって、それは誰かを騙したいという目的はもはやないんです。誰も騙されないことは分かってるんです」
ラブロフ外相が虚偽の主張を続ける理由について、「ロシアの今までの主張と整合性をとるためだけに言ってるんです」と断言。「誰も信じないことは分かってるんだけど、今までのロシアの立場を覆すことはダメなので、プーチンが言ってたことと整合性をとるために、荒唐無稽なことを言うんです」
巷にはウソを真に受けて穏やかな生活に安住できる人と、ウソに隠された事実を知ろうと落ち着かない二通りの人たちがいる。トランプのウソのほうがここちよい人たちもいれば、ウソを糾弾し続ける人たちもいる。ウソを完全にではないにせよ、それがウソだと公に批判できる社会と公にすることを犯罪とする社会がある。どちらの社会の方が人々の生活を豊かにしてゆく可能性が高いか、そして多くの人々が住みたいと思うか。問うまでのこともない。
ウクライナで焦土作戦のような侵略戦争をしていて、戦争はしていない。Special Operationsだと言い張る。歴史上防衛のためとはいっても、侵略といって侵略したヤツはいない。言葉の誤魔化しやウソが過ぎれば、たとえ事実を言ってもウソとしか思われなくなる。もうロシアから発信されるニュースを真に受けることはないと思う。英語まで出てゆけば、それなりに信頼できるニュースサイトはいくらでもある。
p.s.
もう四十年近く前の話になるが、技術翻訳で禄を食んでいたとき営業マンがちょっと変わった和文英訳の仕事をもってきた。今のようにインターネットで調べられる時代じゃないから、その世界の人たち以外には知り得ない用語が頻出するだけで翻訳に四苦八苦する。文脈から想像して戦車としか考えられないのだが、その書類では「特車」と呼んでいた。戦争とSpecial operationと似たような発想のような気がする。
2022/3/20
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12019:220510〕
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