統一教会の解散命令に向けて歯車が回り始めた。これを止めてはならない。
- 2022年 10月 19日
- 評論・紹介・意見
- 政教分離・靖国澤藤統一郎
(2022年10月18日)
昨日消費者庁に設置された『霊感商法等の悪質商法への対策検討会』が、7回の審議を終えて報告書を発表した。意外にも、関心の焦点である統一教会の解散命令請求問題に踏み込んだものとなった。
「旧統一教会については、社会的に看過できない深刻な問題が指摘されているところ、解散命令請求も視野に入れ、宗教法人法第78条の2に基づく報告徴収及び質問の権限を行使する必要がある」という結論。
さらに意外なことに、同日岸田首相が永岡桂子文科相に、上記の報告に従った「質問権の行使」を指示した。こうして、事態は急進展の兆しを見せている。うまく行けば、以下の工程が回り始めたのだ。
宗教法人審議会の開催と答申⇒文科省職員の調査⇒文科大臣の解散命令請求⇒裁判所の解散命令⇒法人格剥奪と清算人による清算手続
岸田首相が、この工程を回し始めた政治責任は重い。途中で翻意することも、失敗することも許されない。
さて、馴染みの薄い宗教法人法第78条の2である。その第1項を、本件の事例に当て嵌めて書き出してみるとこうなる。
「文科大臣は、統一教会について、解散命令の要件(「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」)に該当する疑いがあると認めるときは、〈統一教会の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し〉報告を求め、または担当職員に統一教会の代表役員その他の関係者に対し質問させることができる」。但し、その調査の強制力はない。
なお、同条の第2項以下も書き出しておこう。
第2項 前項の規定により報告を求めまたは担当職員に質問させようとする場合においては、文科大臣は、あらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見を聞かなければならない。
第3項 前項の場合においては、文科大臣は、報告を求めまたは当該職員に質問させる事項及び理由を宗教法人審議会に示して、その意見を聞かなければならない。
第4項 文科大臣は、第1項の規定により報告を求めまたは担当職員に質問させる場合には、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。
第5項 第1項の規定により質問する担当職員は、その身分を示す証明書を携帯し、統一教会の代表役員その他の関係者に提示しなければならない。
第6項 第1項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
信教の自由に配慮し、軽々に宗教団体に対する不当な弾圧とならないように制度設計ができているのだ。検討会の報告書は、この点をこう言っている。
「宗教法人法第81条に基づく解散命令については、団体としての存続は許容されるとはいえ、法人格を剥奪するという重い対応であり、信教の自由を保障する観点から、裁判例にみられる同条の趣旨や要件についての考え方も踏まえ、慎重に判断する必要がある。
また、宗教法人法第78条の2に規定する報告及び質問に関する権限は、解散命令の事由等に該当する疑いがあると認められるときに、宗教法人法の規定に従って行使すべきものとされ、これまで行使した例はない。しかし、これらの消極的な対応には問題があり、運用の改善を図る必要があるとの指摘があった。
旧統一教会については、旧統一教会を被告とする民事裁判において、旧統一教会自身の組織的な不法行為に基づき損害賠償を認める裁判例が複数積み重なっており、その他これまでに明らかになっている問題を踏まえると、宗教法人法における『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした』又は『宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をした』宗教法人に該当する疑いがあるので、所轄庁において、解散命令請求も視野に入れ、宗教法人法第78条の2第1項に基づく報告徴収及び質問の権限を行使する必要がある。」
なお、同報告書はこの点に関する高裁判例を引用して次のように解説している。
「東京高等裁判所決定(1995年12月19日)において、解散命令制度が設けられた理由に関し、『同法が宗教団体に法人格を取得する道を開くときは、これにより法人格を取得した宗教団体が、法人格を利用して取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を濫用して、法の定める禁止規範もしくは命令規範に違反し、公共の福祉を害する行為に出る等の犯罪的、反道徳的・反社会的存在に化することがありうるところから、これを防止するための措置及び宗教法人がかかる存在となったときにこれに対処するための措置を設ける必要があるとされ、かかる措置の一つとして、右のような存在となった宗教法人の法人格を剥奪し、その世俗的な財産関係を清算するための制度を設けることが必要不可欠であるとされたからにほかならない』との考え方が示されている。
あわせて同決定においては、オウム真理教の解散命令に関し、
①法人の代表役員等が、法人の人的・物的組織等を用いて行ったものであること、
②社会通念に照らして、当該宗教法人の行為といえること、
③刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反すること、
といった要件を満たす必要があるとの考え方が示されている。」
解散命令が確定すればどうなるか。宗教法人法49条その手続は、宗教法人法49条3項の規定に従い、「文科相の請求により又は裁判所の職権で、清算人を選任」して、清算手続が開始されることになる。
こうして統一教会の法人格は剥奪され、その財産は清算される。しかし、教義が断罪されることはなく、宗教団体としての存続は可能である。布教活動も制約を受けることはない。しかし、もちろん税制上の優遇措置を受ける資格は失う。なによりも、行政と司法から、『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした』との烙印を押されることの不利益を甘受せざるを得ない。
権力の暴走は恐ろしい。憲法20条の理念を承けた宗教法人法は、再びの宗教弾圧の時代を繰り返さぬよう十分な配慮をもって宗教団体を遇している。それでも例外的な措置として宗教法人に対する解散命令の制度を設けざるを得ない。長期間にわたっての統一教会の反人権的・反社会的な行為は、例外的な措置の適用を必然としている。解散命令に向けて回り始めた歯車の回転が止められることにならぬよう多くの目で、監視を続けなければならない。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.10.18より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=20153
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12469:221019〕
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