岸田大軍拡批判の方法について
- 2023年 1月 25日
- 評論・紹介・意見
- キシダ国防軍拡防衛阿部治平
--八ヶ岳山麓から(413)--
今年4月の統一地方選挙は、地方自治体議会・首長の3割しか改選しないということだが、岸田内閣の防衛3文書が予定する大軍拡・基地攻撃能力の保有などが、争点の一つになることは確かだ。ところが残念なことに、世論調査では、国民の過半は日米両国首脳同様に,ロシアによるウクライナ侵略をみて、中国軍の台湾への武力侵攻を警戒し、軍拡容認の方向に動いている。これでは先の衆院選につづいて護憲革新勢力が地方選挙でも負け戦となるのではないか。
岸田軍拡反対の論理については、昨年12月30日の本ブログで発言したので、繰り返しになってまことに恐縮だが、もう一度記しておきたい。
ウクライナ戦争の悲惨を毎日テレビで見ている人々は、尖閣諸島を中国が占領できないのは日米安保体制があるからだ、ウクライナが持ちこたえているのはNATO諸国が軍事援助をしているからだ、だから敵基地攻撃であれ何であれ、(増税はいやだが)日本が軍事予算を増やし防衛力を増強するのはやむを得ないと思っている。
この感情を軍拡反対にもっていくためには、「軍事力によって平和を実現することは不可能だ」とか、「外交によって台湾有事を避ける努力を」とか、「敵基地攻撃能力を持つことは先制攻撃の危険がある」といった「正しい」主張をするだけでは説得力がないことは明らかである。
軍拡反対を唱える識者・政党に共通する主張は、「武力紛争に至らないような外交」である。外交の相手は主に中国とアメリカだが、いまのところ岸田政権にアメリカの対中国外交をたしなめるような自主性を期待することはできない。護憲革新勢力も「平和外交を」というだけで、具体的に何をどうやるかは明らかにしていない。
保守派は外交を展開するには、しかるべき軍備がまず必要だという。だが、元外務審議官田中均氏は日米安保体制と自衛隊を抑止力と考える人だが、外交ビジョンなしの岸田軍拡を危険視している。
氏はブログで、「世界3番目の経済規模を持つ国がGDPの2%の防衛費を持つわけで、日本は世界3位の軍事大国になっていくという認識を持つ国は増えるだろう」「もちろん、日本の防衛能力は周辺の脅威に対応するものであり、あまり他国の意向を気にすべきでもないが、防衛能力の拡大とともに、日本がどういう外交を進め平和に貢献するのかというビジョンを合わせ示すべきではないのか」という。
氏は、遠回しに周辺諸国の対日警戒心に配慮した外交ビジョンが必要だというのである。
元防衛省高級官僚の柳沢恭二氏も「台湾有事は宿命のように捉えられているが、防ぐための外交戦略が議論されていない。巻き込まれて迷惑を被るのは日本なのだから、米中が衝突しないよう双方に協議をうながす立場で動くべきだ」という。
ところがこの2人の外交と防衛の専門家も、あるべき外交政策を具体的に示していないのである。護憲革新勢力の中で中国を含めた、ASEAN中心の平和地域の設定策を提案しているのは共産党だけである(これには大いに敬意を表するが、すでに空想的だという批判をしたことがあるのでくりかえさない)。
もちろん岸田軍拡に反対する人の中には、田岡俊次氏のように台湾有事はあり得ないとする見解もある。
「中国の輸入相手の第1位は台湾で、半導体の供給を依存し、台湾の輸出の44%は大陸向け、台湾の海外投資の6割以上は大陸にあるといわれ、台湾人約100万人が中国で経営者、技術者などとして勤務している。中台の経済関係は一体化し、中国が台湾に攻め込めば自分の足を打つ結果になる(AERA 2022・06・13)」
だが、習近平主席は台湾の統一を実現して歴史に名を残そうとしている。損得抜きで武力侵攻を試みる可能性は存在する。彼が「我々が武力の放棄を約束することは決してない。
我々は必要なあらゆる手段をとる選択肢を保持する」と繰返すうちは、日本人が台湾有事の不安と緊張から解放されることはない。
去年12月の人民日報日本語版に掲載された岸田軍拡批判を見ると、中国はそれまでの柔軟な対日態度をやめ、緊張し身構えたことがわかる。岸田内閣の対中国新型コロナ対策に対抗して春節期の日本への旅行を制限した。これから対日外交はより一層硬化するだろう。
岸田軍拡に反対する人が、個人として「非武装中立」や「自衛隊の解消」といった信条をもつのはもちろん自由である。わたしも憲法の論理は「非武装中立」に至るものだと考えてきた。だが、岸田軍拡批判を大きな運動にしたいというならば、革新勢力はまず「武力紛争に至らない外交」とはどんなものか具体的に明らかにするしかない。
そして、専守防衛の自衛隊の軍事力が十分か否かを明らかにし、不足ならば増強を認めなくてはならない。それを上回る軍事力を持とうとすれば、これは軍拡として批判の対象になる。とくに共産党は、従来の安保条約廃棄と自衛隊解消という主張を一時棚上げして、侵略に対しては自衛隊を活用するとしたし、場合によっては日米安保条約第5条の発動も認めるようになったのだから、ぜひこの点を考えてもらいたい。
米中対立を緩和し、中国による台湾への武力侵攻をやめさせるにはどのような外交をすればよいか、また日本の専守防衛の軍事力はどの程度であるべきか、この二点わかりやすくなれば、軍拡に反対する世論はもっと大きくなるだろうと思うが、これは的外れであろうか。 (2023・01・15)
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