緊張緩和を望む中国?
- 2023年 5月 1日
- 評論・紹介・意見
- 中国米中阿部治平
――八ヶ岳山麓から(423)――
G7広島サミットを前にして人民日報の国際版「環球時報」は、公式的ではあるが比較的冷静、穏健な調子のアメリカ批判の評論を掲載した。鄭帰初著「アメリカ、対中国政策の五つの『迷い』」という。筆者は、「国際情勢監察員」というだけで正体不明である(2023・04・14)。
鄭氏は前言でこういう。
――現在、中米関係は「暗黒の時期」にあり、対話と協力はまれな言葉になっている。 これは、アメリカの対中政策が完全に合理的かつ健全な軌道から外れているからだ。 アメリカは五つの「神話」を払拭し、中国に対する認識を正すことで、失敗や災害の深淵に陥ることを防ぐ必要がある――
そのアメリカの不合理かつ不健全な認識とはどんなものか、以下その「迷い」5項目のおおまかなところを記す。
第一、増殖する「中国脅威論」
アメリカの要人は、一致して米中間の「民主主義対専制主義」の争いを提唱し、中国を「最も重要な地政学的挑戦者」としている。中国の発展がアメリカに挑戦するものではないにもかかわらず、こういう言い方をするのは「戦略的パニック」に陥っているからである。
アメリカは中国に対して敵意を持ち、国家安全保障を拡大し、経済・貿易問題を政治化した。また脅威が存在しなければ、無人気球やTikTokのように、わざわざ脅威を作り出す。まさに「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」に等しい。
第二、独善的な「政治的正確論」
米中関係悪化の主な原因は、中国が何か悪事を働いたからではない。アメリカは国内の政治的困難が解決できないものだから、もっとも安易な方法として中国という「スケープゴート」を見つけたにすぎない。 民主・共和両党は、奇しくも一致して反中国に邁進しているのである。
トランプはまず貿易問題で、ついでコロナ感染症の蔓延を隠すために中国を利用した。バイデン政権は、中間層の衰退を中国のせいにし、「中国の脅威」を楯に国内投資を促し、外交問題を国内問題へと転化した。
第三、居丈高の「実力地位論」
アメリカの高官は中国を見下し、常に「強者の立場」を口にしてきた。中国は、アメリカ側に「強者の立場から中国に対処する資格はない」と、さまざまな場面で繰り返し警告してきた。今日までアメリカは他国と対等に付き合う方法を学んでいないのであれば、国際社会とともに、アメリカに良い教訓を与えるのが我々の責務である。
第四、破滅的な「投資同盟論」
バイデン政権は同盟国との協力を優先し、中国とは具体的な問題についての対話は行わないという方針である。アメリカはいわゆる「民主主義国連合」を結成し、中国を封じ込めようとしているが、この戦略は長続きしない。
アメリカの「デカップリング(分離政策)とサプライチェーンの切断」政策は、「世界二分」のリスクを高めている。アメリカの親しい同盟国でさえ、経済上の「脱中国化」はしたくない。フランスのマクロン大統領は、中国訪問から帰国する特別便の中で、「欧州は戦略的自律性を強化し、アメリカの追従者に成り下がることを避けなければならない」と公言した。
第五、衝突防止の「ガードレール構築」論
中国とアメリカという両大国が、対立や衝突を避けることは、両国と世界の利益となる。 (アメリカの)専門家や学者のなかにも、中国とアメリカは少なくとも台湾や海洋問題に関しては、危機管理の方法を見つけ、衝突のリスクを軽減する必要があると考えているひとがいる。こうした中、バイデン政権は最近偶発的な事故を未然に防止するために、米中関係に「ガードレール」を追加するよう頻繁に言及するようになった。
しかし、米中関係の真の「ガードレール」とは、ひとつの中国の原則と(1970年代80年代の国交回復時の)三つの米中共同コミュニケの規定を堅持することである。ところが、アメリカは中国の利益を害する行動を続けている。これ以上「ガードレール」を設置することに何の意味があろうか。
おわりに
中国外交部報道官は、4月18日のG7外相会議の東シナ海・南シナ海と台湾海峡問題についての共同声明に、「声明は傲慢と偏見、対中抑制のための悪辣な下心にみちたものだ。中国はこれに強烈な不満と断固たる反対を表し、会合の主催国である日本側に厳正な申し入れを行った」と発言した。
鄭氏の論評は4月14日に環球時報に掲載したが、数日後のG7外相会議の共同声明と、これに対する中国が激しく反発することを十分予期しながら書いたものであろう。だから緊張の焦点である台湾と海洋問題については意図的に論議を避け、あっさりと触れただけである。
鄭氏の言いたいことは、第四項目に現れる。アメリカの対中国「デカップリングとサプライチェーンの切断」政策である。直接「半導体」にはふれていないが、この背後には産業のコメといわれる半導体チップ市場がある。これこそ米中覇権争いの主戦場である。
中国は2015年の「中国製造2025」を発表し、そのなかで14/16ナノチップを量産化して2020年までに自給率を49%、世界シェアを43%に上げ、さらに2030年までに自給率、世界シェアをそれぞれ75%、46%にし、産業全体を国際先進水準に引き上げるという高い目標を掲げた。
それで中国は、これから本格的にやってくる高性能半導体の不足に備えて、巨額の投資を行ったのだが、2020年の目標は実現せず、2022年末で自給率は20%前後だった。計画発表から7年、まだ世界の先端技術をものにできたとはいえない。やみくもな投資とそれに付きまとう腐敗(すでに高官が摘発されている)、技術を習得できる人材の不足が原因である。
さらに2022年10月バイデン大統領は、中国に対する回線幅14/16ナノ以下のロジックやメモリーなど最先端半導体およびその製造設備と、スーパーコンピューターの開発・製造に必要な製品および技術などの輸出禁止を決定した。アメリカ、オランダ、日本の3カ国がこれに合意したから先端チップ、スーパーコンピューター技術の中国移転はほとんど不可能となった(東洋経済ONLINE 2023・02・21)。
すでに半導体不足はファーウェイ(華為)などの大企業の方向転換に表れている。時の経過とともに問題は拡大する。半導体サプライチェーンの構築は喫緊の課題である。そのために鄭氏は「対話と協力」を回復し、現状よりはましな対米関係をもとめて「ひとつの中国の原則と三つの米中共同コミュニケ」をもちだし、アメリカにシグナルを送ったのであろう。
第五項目のおわりに鄭氏はこういう。
「中国は、習近平主席が提唱した相互尊重、平和共存、ウインウィンの原則に基づき、米中関係の健全で安定した発展を常に推進していく。 この原則は、今後の米中関係の発展の輪郭となり、両国関係の発展の一般的な方向性を示し、双方が相違を解決し協力を拡大するための基本的な指針となり、両国関係の安定性、建設性、予測可能性を高めるものだ」
そして最後に「しかし、アメリカはどう動く気だろうか? 」と不安をあらわにするのである。
(2023・04・21)
「お詫びと訂正」
わたくしこと、「八ヶ岳山麓から(421)」において、大塚茂樹著『「日本左翼史」に挑む――私の日本共産党論』の出版社を「かもがわ出版」としましたが、これは「あけび書房」の間違いでした。お詫びして訂正します。またご指摘くださった読者の方にお礼申し上げます。
阿部治平
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