中国さん、そんなに威張って大丈夫? ―日本の原発処理水排水計画を足蹴にするのはいいが・・・
- 2023年 7月 24日
- 評論・紹介・意見
- 原発処理水田畑光永
東日本大震災による福島原発事故後の炉心冷却で大量にたまった処理水について、日本はトリチウムを希釈して太平洋に放出する計画を進めているが、近隣諸国がその結果を危惧するのは当然である。
私個人としては、できれば処理水を海洋に流したりせず、国内のどこか周辺に影響を及ぼさないような土地を選んで、汚染水の「湖」をつくり、長い年月をかけての「蒸発」と「地中への浸透」といった解決方法はないものだろうかと思うが、所詮、素人の浅知恵、専門家による「トリチウムを希釈して太平洋へ」という方法を国際原子力機関(IAEA)も承認したとなれば、それもやむを得ないか、と考えている。
しかし、原発の恐ろしさを自ら身に染みて感じ、周辺諸国にも不安を抱かせたとなれば、原発そのものを廃棄する方向へ国として舵を切るのが当然の選択肢のはずなのに、その方向へ議論が進まないのがなんとも歯がゆい。ドイツはすでに「脱原発」への道を歩んでいる。大事故を起こした日本がなお原発に執着するのは、根本的なところでこの国は判断力が弱いのではないかと心配になる。
というわけで、この問題に関しては、わが国は他国、特に近隣諸国に対しては、可能な限り迷惑をかけないように振舞わなければならない立場なのだが、そのご近所さんの中で、とくに中国が居丈高に日本の非を鳴らす態度をとり続けているのが目に付く。何とも大人げないと思うのだが。
日本はまだ処理水を海洋へ流し始めたわけではないのに、中国の税関総署は今月7日に日本からの水産物に対して「100%検査を実施する」方針を打ち出し、すでに日本からの水産物の通関に時間がかかるようになっているという。そして岸田首相は18日、訪問先のカタールで「中国側には科学的根拠に基づいた議論を行うよう強く求める」と語った。
すると中国共産党機関紙『人民日報』系列の国際問題紙『環球時報』は21日、「日本は“協議”を隠れ蓑にするが、中國には付き合う義務はない」という社説を掲げて、反論を加えている。それに耳を傾けてみよう。
社説は言うー「日本は中國に協議のメカニズムをつくろうと提案しているが、何を協議したいのか?汚染水の処理方式について相談し、協調しようというのか? それとも海に排水する方法を中国に無条件で受け入れさせようというのか? 前者ならわれわれは勿論、歓迎するが、後者なら話は別だ。中国は協議は拒まないが、協議を隠れ蓑にすることは拒絶する。」
「本当に有意義な協議なら、日本は一方的に海に排出すると決める前に行われなければならなかったはずだ。しかし、日本は利害関係のある周辺国と十分な協議を行わず、多くの心配と反対とを顧みず、いきなり海に排出する案を持ち出してきた。本当の有意義な協議にはことなる選択肢がなければならず、協議の結果、決定が下されるべきなのだ。」
さらにこう言うー「ところが日本の公的機関および米国は地政学的なエゴイズムから、いくつかの米国の同盟国政府および関連国際機関に曖昧な態度をとらせ、この問題で終始一貫した態度の中国を孤立させようとしているのだ。」
「中国の態度は一貫しており、明確である。すなわち日本は科学に基づき、歴史に対し、全地球の海洋環境、全人類の健康、子々孫々に対して責任ある態度で、海に排水するという誤った決定を取り消し、科学的かつ安全かつ透明な方式で核汚染水を処理し、国際的にも厳格な監督を受けなければならない。」
どうだ、参ったか!という、筆者の得意げな顔が目に浮かぶ。ロシアのウクライナ侵攻を習近平が支持したばっかりに、このところ国際問題では肝心なところで曖昧に、言い訳のような文章を書かざるをえない中国の新聞としては、相手の逃げ道をふさいで思い切り張り倒すような胸のすく文章は久しぶりのことであろう。
勿論、この問題での日本政府、そしてとりわけ東京電力の態度には、前述したように私にも大いに不満がある。しかし、ことが人類の運命に関わる問題だけに、相手を罵倒すれば正義を貫いたような思い上がりが目に付く文章には嫌悪感を覚えるのも正直なところである。
中国の検索サイト「百度」によれば、本(2023)年6月24日現在、中國には17 個所の原子力発電所があり、稼働中の発電炉は55基とある。そして建設中の原発が29基、計画中はなんと229基を数えるという。下の地図で明らかなように、それらは東部沿海地区に集中している。
もしこれらの原発で万一の事態が発生すれば、地理的に見て内外に及ぼす影響は福島をはるかに上回ることは確かだろう。とすれば、中國には福島を他山の石として真剣に勉強してほしい。相手の弱みに付け込んで、相手をただやりこめて留飲を下げるような態度は百害あって一利なしである、と私は思う。
勿論、学者と記者は違うから、『環球時報』の態度をもって中国全体を推測することは正しくないだろう。しかし、2年前、「コロナ禍」の始まりのころ、オーストラリア政府がその発生源について、武漢市のウイルス研究所を含めて再検証してはどうかと提言したところ、中國政府は激怒してオーストラリアからの輸入の多くをストップした。それが原状に戻ったのはつい最近のことである。
「人を呪わば穴二つ」という格言は中国にはないのだろうか。
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