キッシンジャーも池田大作も、宮本顕治の亡霊もいなくなった!
- 2023年 12月 4日
- 時代をみる
- 加藤哲郎閉塞閉鎖
2024. 12.1 ● アメリカの元国務長官、ヘンリー・キッシンジャーが亡くなりました。100歳でした。歴代アメリカ大統領のブレーンで、もともとは国際政治学のパワー・ポリティクスの大家、中曽根康弘より年下なのに、中曽根の政治外交師範としても知られました。1971年の電撃訪中で、米中国交回復の立役者となり、20世紀冷戦の枠組みの再編に、大きな役割を果たしました。思えば米中接近は、ベトナム戦争の米敗北、米ドル基軸国際金融の再編、それに中東産油国の自立による石油危機と一緒でした。20世紀の最後の4半世紀は、東欧革命・東西冷戦終焉・ソ連崩壊・EU拡大のなかで、「リベラリズムの勝利」などとされましたが、同時に、西側世界におけるアメリカ一極支配の終焉をともなっていました。来年に迫った米国大統領選の有力候補者、民主党バイデン81歳、共和党トランプ77歳という老人支配が、この国の行く末を暗示しています。
● 湾岸戦争のころ、一時的にソ連崩壊によるアメリカ覇権の再興がいわれましたが、21世紀は、9.11米国同時多発テロから始まり、経済的には中国とアジアが世界の工場になり、BRICSとよばれる新興勢力が台頭し、リーマンショック後は世界の多極化・多層化・多元化が明らかになってきました。欧州内部も多元化しましたが、衰退するアメリカに最後までつきそってきたのは、アジアの経済大国だった日本。アメリカ自身が、トランプ大統領を生み出すまでに分裂を深めたのに、日本は、時々のアメリカの政策に従うだけで、いつの間にやら経済衰退国・政治的従属国・米軍中古武器購入国へと、「喪われた30年」を独走してきました。発展途上とは反対の、衰退途上国になっていました。キッシンジャーは、そのすべてを見てきました。 中国には100回以上訪問し最後まで注目してきましたが、日本に対しては、冷徹でした。ウクライナ戦争が二度目の越冬に入ろうとし、イスラエルのパレスチナ侵攻が泥沼化しようとしているとき、「強いアメリカ」の象徴が、静かに息をひきとりました。地球社会の温暖化・気候変動という、21世紀的問題が噴出しているというのに。
● キッシンジャーの活躍した時代は、地球社会の急速な近代化・工業化・都市化の時代でした。日本はその先頭に立った典型で、一時は高度経済成長と自動車や半導体の生産・輸出で、経済大国を謳歌しました。その時代の日本政治には、自民党の田中角栄や中曽根康弘ばかりでなく、野党を率いるカリスマ的指導者がいました。公明党を創設した創価学会の池田大作、日本共産党の一時代を作った宮本顕治です。田中角栄の『日本列島改造論』が新幹線や高速道路による日本の一体化・平準化を進めたとすれば、池田大作の創価学会や宮本顕治の「大衆的前衛党」は、その近代化に同調しきれない農村出身の労働者や貧困層、環境や健康を気にする中間層、それに学歴競争や対米従属文化に反発する若者たちを拾い上げた面がありました。キッシンジャーと共に亡くなった、創価学会の池田大作は、1960年に創価学会第3代会長に就任し、185万世帯を会員にし、1964年には公明党を結成、公称827万人の信者をかかえて政界にも大きな影響力を持ちました。日本国外にも280万人の会員がいるとされ、池田の中国への友好姿勢は、日中両国政府間の貴重なつなぎとなりました。当初は「人間性社会主義」や「恒久平和主義」を唱え「中道政党」としていましたが、初期の指導者竹入義勝や矢野絢也とは袂を分けて、経済成長の再分配に寄生する現世利益を求めて自民党に接近、21世紀には、自公連立政権が定着しました。しかし、宗教的にも政治的にも後継者にめぐまれず、池田が生きている限りで有効であったそのカリスマ性による政治や選挙への動員力は、初期会員の高齢化や二世問題もあって、これから減退して行くでしょう。
● 池田大作に対抗し、一時は「共創協定」という相互不可侵協定まで結んだ宮本顕治の共産党は、宮本のカリスマ性によって登用された不破哲三・志位和夫という小粒のリーダーに引き継がれましたが、2007年の宮本顕治の死をまつまでもなく、共産党という党名や民主集中制という組織を共有したソ連・東欧諸国の崩壊と、「友党」であった中国共産党や朝鮮労働党の独裁支配が、日本の民衆にとっての現実的脅威になるにつれて、創価学会よりも先に衰退し、政治的・組織的影響力を喪失していきました。宮本顕治のカリスマ性は、民主集中制というコミンテルン由来の閉鎖的組織によりかろうじて継承されましたが、マルクス解釈学のみの不破哲三や、内部反対派摘発の実務家である志位和夫によっては、もはや有効性をもたなくなり、党員構成も著しく高齢化しました。若者に無視され、「100年史」という作文さえまともにできずに、史実をゆがめる半宗教的セクトになりさがりました。2023年は、「除名」問題や老幹部たちの「赤い貴族」生活で一部の関心をよびましたが、政局では蚊帳の外。現実政治のうえでは、公明党よりも早く、泡沫政党化していくことでしょう。もっとも2世どころか、3世・4世議員だらけになりそうな自民党に将来があるわけではなく、日本政治は、深い混迷期に入っていきそうです。
● 政治の閉鎖性、時代閉塞は、「失われた30年」の社会の閉塞性の反映でもあるでしょう。もともと危険性が知られていた米軍機オスプレイの墜落に、「不時着」と言ったり公式抗議も無視された日本政府、少年たちをむしばんだジャニーズ事務所、少女たちを搾取した宝塚歌劇団、それらを報じることができなかったメディア、東京オリンピックに懲りない大阪万博の公金私消、日大アメリカンフットボール部の薬物汚染、学問の府としての大学を株式会社のようにする国立大学法人法改正案、20世紀末からのツケが、いたるところでほころび、腐敗してきています。2023年は、昨年の心臓病手術・入院の後遺症で、リハビリを重ねながら、少しづつ仕事をしてきました。 コロナに感染したほか、前立腺や肺炎など身体のあちこちに不具合がみつかり、今回更新が遅れたのも、消化器系の内視鏡検査によるものでした。この状態は、おそらく来年も続き、多くの皆さんにご迷惑をかけ、またご無沙汰することになろうと思いますが、よろしくご了解ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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