安全きれいなアルプス処理水をわざわざ汚して海洋放出する謎――識者に問ふ――
- 2023年 12月 7日
- 評論・紹介・意見
- アルプス処理水岩田昌征
米英仏日韓等22ヶ国が「世界全体の原発設備容量を2050年までに三倍に増す」との宣言を発したと言う(『朝日』朝刊、12月3日)。炭素燃料発電による温室効果ガス増大を阻止する為だとされる。
しかしながら、原発事故発生件数も亦三倍化するだろう。要するに新しい「スリーマイル」事故が2件、新しい「チェルノブイリ」事故が2件、新しい「福島第一」事故が2件、2050年以後に予想される事になる。
11月22日参議院会館で開かれたある研究会で「福島第一」事故の「ALPS処理水海洋放出の状況について」信頼できる情報通の説明を聞くチャンスがあった。
処理水放出先の漁場を自分達の仕事の場とし、生活の場とする人々が聞けば、かなり違和感があったであろうが、私=岩田のような東京都内で生活し、東電が供給する良質な電力サービスを享受する者の耳には、放出処理水の安全性に関する説明はかなり納得の行くものであった。例えば、ALPS多核種除去設備(三重水素=トリチウムと炭素14を除く62核種を除去できる装置)が除去できないトリチウムを含むアルプス処理水は、大量の海水で薄められ、放出時のトリチウム濃度が1リットル当たり200ベクレルとなっている。それに対して、世界保健機構WHOの飲料水水質許容ガイドラインは1リットル当たり10000ベクレルである。
配布された資料にある他の核種に関する記述も不自然に安全性を誇張しているように思われない。
私=岩田が都内に住む理系人間であれば、ここで思考を止めてもよいのであるが、たまたま人間社会の表裏を探求する文系人間である。情報通の説明テーマは、「ALPS処理水海洋放出」でありながら、処理水の安全性のみを説明し、安全なのに捨てる不自然、しかも海への必然(要)性については全く論究してない。
安全な処理水に50倍~100倍の海水を追加すれば、もはや海水であって、トリチウム濃度に関しても、あるいは他の諸核種すべてに関しても、WHO飲料水水質基準をクリアしていながら、決して飲料水にならない。海に流すより他に使い道がない。
真水・淡水で50倍~100倍に希釈すれば、飲料水にも、生活用水にも、病院清掃用水にも、工場用水にも活用可能のはずである。また、あえて活用しないで捨てる場合でも、発電用の人造湖、観光業の盛んな自然湖、そして東京の下水網でもアルプス処理水放出先になり得たはずだ。
最近は、原発事故汚染土でさえ、未処理のまま半減期頼みで寝かしただけで、再利用が日程に登っている。
それなのに、官・産・学が多数の有能な研究者・技術者・技能者を動員し、高額の費用をかけ高度技術を開発使用して、「汚染水」を原材料にして「生産した」と言える安全な「新製品」「アルプス処理水」を社会的に有効活用しようと努力しないで、わざわざ海水を大量に混合して、新汚染水にして、海に捨てる道しかないようにするのは何故か。私=岩田は、その理由が知りたい。識者に問ふ。
令和5年12月5日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13423:231207〕
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