青山森人の東チモールだより 第222号(2012年10月24日)
- 2012年 10月 25日
- 評論・紹介・意見
- 東チモール石油青山森人
チモール海の攻防
孤軍奮闘ではなく、団結を
「共同開発区域」の天然資源開発をめぐる問題について、もう少し話を続けたいと思います。
東チモールの国家経費の90%以上をチモール海からの収入に依存しています。つまり東チモールが国としてすることほとんどが“オイルマネー”に依存しているという財政状態になっているのです。
いまのところこの“オイルマネー”とは、石油・ガス関連事業が東チモール国内で展開されて得られる収入を意味しません。「共同開発区域」の採掘権から得られる収入を意味します。つまり、“印税”のようなものです。一人の人間ならば印税で人生を送ることもよいかもしれませんが、国家が発展していくには産業がほしい。ガス田「グレーターサンライズ」からパイプラインが自国にひかれるとなると、産業の発展と雇用拡大につながり、健全な財政態勢への道が拓けると東チモールは考えています。
パイプラインについてはオーストラリアのウッドサイド社との交渉期限が来年2月までといわれているので、近々、なんらかの結論が出されることでしょう。
そして最近話題になっているのは、“印税”のことです。「共同開発区域」で採掘する諸会社は、知ってか知らずか、契約どおり“印税”を東チモールに支払っていないといわれています。知っていながらわざと税金を低目に払っているとなると、契約違反ということになります。東チモールの市民調査団体「ラオ ハムトゥック」(共に歩く)は、石油会社は「欺いている」と表現しています。
東チモール側は2010年から採掘権や税金について本格的に監査に取り組みだしました。例えば2010年11月、東チモールは2005年の「共同開発区域」「バユ=ウダン」開発関連として3240万ドルをコノコ=フィリップス社やサントス社(Santos)・インペンクス社(Inpex)に請求しました。石油会社からの追徴金の総額は30億ドルにのぼるだろうといわれています。「ラオ ハムトゥック」の報告によれば、現在進行中である額面は20億ドルで、企業への罰金も含まれるとのことです。コノコ=フリップス社は今年7月12日、自分たちは課税をちゃんと払っていると反論しています。
武装闘争をして自由を獲得した東チモールはいま、会計監査や法律の専門家を外国から雇いながら、採掘権や税金を複雑な書類にだまされることなく徴収しようと、多国籍企業や大石油会社を相手に「契約」や「交渉」などの分野で奮闘をしています。しかし職のない若者たちであふれる東チモールの日常風景からは、国家のこのような奮闘ぶりを想像することはなかなか難しい。この「奮闘」とは抵抗運動時代のような民衆と一体となった闘いではなく、一部エリートたちによる孤軍奮闘といえます。ここに海外の大企業が東チモールにつけ入るスキが生じます。
石油会社からの追徴金の問題はオーストラリアでよく報じられていますが、どれだけの東チモール人が知っているのか、疑問に思います。東チモール人が興味を抱く問題とは東チモール政府の汚職であり、「共同開発区域」からの採掘権を徴収する東チモール側の組織であるANP(国家石油機関)の市民にたいする高飛車的な態度です。ANPは職員とその家族が東チモールで有名な民間医療機関にかかる経費を計上しているのです。ジョゼ=ラモス=オルタが大統領の在職中に病気になったとき、大統領でも国立病院で診てもらうのにANP職員と家族が国家予算を使って高額な民間医療機関で診てもらうとは何事だと新聞に叩かれたことがあります。ANPはこの批判にたいし、国家のために重要な仕事をしているのだから職員とその家族の健康を守るのは大切なことと反論しています。この話は日本の東京電力専用病院の存在を想起させます。
シャナナ=グズマン首相が、抵抗運動時代のように団結しパイプラインをひっぱってくるように闘おうと呼びかけても、政府や職員が民衆と自ら切り離してエリート層を形成していくのであれば、狡猾な大企業を相手に苦戦することは必至でしょう。
図 「共同開発区域」。破線は1972年に引かれたインドネシアとオーストラリアの境界線
ジョゼ=ラモス=オルタ前大統領、中国の影響力を否定する
10月18日、ジョゼ=ラモス=オルタ前大統領はオーストラリアのニュース番組に出演し、インタビューを受けました。この前の大統領選挙に出馬するかしないか、さかんにインタビューを受けていたときは、引退してパリに滞在して本でも書きたいと述べていましたが、前大統領になっても精力的に言論活動をしているようです。
ラモス=オルタ前大統領は、オーストラリアが国連安保理の非常任理事国になることを支持している理由を、この地域でのオーストラリアが発言力をもつことは東チモールにとっても大切であるからと答えました。なおその後、オーストラリアは国連安保理の非常任理事国に選ばれています。
ガス田のウッドサイド社との交渉について、政府を代表する立場にないことを述べつつも、東チモールにパイプラインをひくことが双方にとって最大の利益が得られる最善の選択であることが、アメリカ・ヨーロッパ・アジアの専門家の研究によって結論がでていると強調し、洋上の液化天然ガス生産工場は実績がないのでリスクも資金も高くつくので認められないと、東チモール政府を代弁しました。
また、東チモールはウッドサイド社のほかに開発パートナーを探すのは容易なことだといわれているが、中国も含まれるのか、という質問には、「中国もおそらく含まれているかもしれないし、サウジアラビア・カタール・クウェート、そしてドイツも含まれている、話し合いが実際に行われたのはカタールだけだが」と答えます。これにたいし、中国が含まれているとなるとアメリカとの関係が懸念されるのではありませんか、この前、ヒラリー=クリントン国務長官が東チモールを訪問したのは、中国の影響力を考慮してのことではありませんかと問われると、「クリントン長官の訪問は、2~3年前、自分と約束したことなので中国は関係ない」と答えます。そして、「何かといえばすぐに中国の影響力が話題になるが、東チモールの貿易相手はまずインドネシアで次にオーストラリアだ、中国とはわずかだ。それなのに、中国が東チモールに二つや三つのビルを建てればオーストラリアの知識人はすぐ東チモールでの中国の影響力の高まりだという。中国経済の影響力は世界的なもので、とくに東チモールがどうのこうのということではないはずだ」と中国の東チモールへの影響力については煙に巻きました。
このニュース番組から、オーストラリアでは東チモールとウッドサイド社との交渉の結果と、東チモールにおける中国の影響力が注目されていることがわかります。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion1047:121025〕
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