青山森人の東チモールだより 第227号(2012年12月31日)
- 2013年 1月 1日
- 評論・紹介・意見
- 東チモール汚職青山森人
エミリア=ピレス財務大臣、疑惑に対しノーコメント
医療機器購入をめぐる疑惑
前号の「東チモールだより」で、エミリア=ピレス財務大臣が縁故主義の批判をうけていることについて「病院への設備事業(ベッド購入)が大臣の夫が経営する会社に発注された」と大雑把に書いてしまいましたが、今回はこの件についてちゃんと書きたいと思います。
ピレス財務大臣の疑惑については「反汚職委員会」や政府内部の調査がまだされず、財務大臣本人はこの件について黙して語らずの姿勢をとっているので、いまのところ新聞報道で浮きぼりにされていることしかわかりません。それは以下のようなことです。
東チモールで唯一の国立病院である「グイド=バラダレス国立病院」(グイド=バラダレス・Guido Valadaresとは1975年当時のフレテリン政府で労働社会福祉省の副大臣を務め、1976年8月30日に死去した人物の名前。2003年、フレテリン政権時代に国立病院がこう命名された)のオデテ=ダ=シルバ=ビエガス院長が必要な設備や装置を導入したく保健省のマダレナ=ハンジャン副大臣(当時)宛てに申請書を送りました。これは今年の3月、まだ第一次シャナナ連立政権時代のことです。この申請の内容は人工透析装置とその周辺機器が緊急に必要だというものでした。この申請書に保健省の前副大臣や医療機器管理局長などの署名入りの書類とともにエミリア=ピレス財務大臣に提出されました。その添付された書類には17項目の医療装置・機器の購入リストが記されて、予算は200万4100ドルにも及びます。その購入リストの5項目が財務大臣の夫の経営する会社「マクス・メタルクラフト社」によって購入されたことから疑惑が湧き出てきました。これだけでも財務大臣とその夫の利益相反(相思相愛?)の関係が問題となり、辞任やむなしと批判を受けるのは当然のことですが、疑惑には渦がまかれています。
医療機器購入のための追加予算が正しく使われず
国立病院から人工透析装置の購入にかんする申請がされる前の今年2月、ピレス財務大臣はマダレナ=ハンジャン保健省副大臣の提案による追加予算にすでに承認を与え、それからすぐ「マクス・メタルクラフト社」は保健省に見積書を提出しているのです。その後の3月、当時の保健省副大臣は医療設備購入を緊急事項として同社を唯一の供給業者とする提案をシャナナ=グズマン首相にしています。2月の時点でマダレナ=ハンジャン保健省副大臣は国立病院からの申請を追加予算に緊急性を付随する根拠としていましたが、結局、「マクス・メタルクラフト社」が購入した80台のベッドの一部は病院の倉庫に眠っており緊急性のないものだったのです。
『テンポ=セマナル』はシャナナ首相にこの件について質問したところ、当時の保健省副大臣による上記の提案について承知していないようだと報じています。
また国立病院のビエガス院長は同紙によるインタビューのなかで、80台のベッドは受け取ったが、それを請求した覚えもないし書類も存在しないと語っています。つまり国立病院が要請する人工透析装置購入の緊急性は、大臣や官僚によって医療購入のための追加予算全体の緊急性にすりかえられ、その追加予算は身内の業者に緊急性のない物資供給事業を通して利権を与えてるために利用されたのではないかという疑惑が生じるわけです。
東チモールの医療状況を考えればベッドが必要な患者は大勢いるはずですが、贅沢にも医療ベッドが倉庫に眠る(何台かは知らないが)という管理・運営の拙さに悲しくもなってしまいます。倉庫に眠るくらいなら貴重なベッドをともかく活かそうとしてほしいものですが……。
現場を知らない高級(高給)官僚の能力の低さによって、必要なお金や物資が本当に必要な人びとに使われず届けられないという悲しい現状は東日本大震災でわたしたちも観ていることなので、貧しい新興独立で起こっていることだと嗤うことはできません。
さきに5年の刑を下されたルシア=ロバト前法務大臣も夫の経営する会社へ便宜を図るために権力濫用をしてしまいました。今回またしても女性大臣と夫の会社の、あまりにもわかりやすい疑惑です。「汚職の道に損はなし」といわんばかりの風土が東チモールにできあがっている観さえあります。「汚職は文化」だとインドネシアだけでなく東チモールも揶揄されるようになるかもしれません。市民調査団体「ラオ ハムトゥク」(共に歩む)のメルシオ=アカラさんは『テンポ=セマナル』の記事の中で、「最近、物資調達事業の30%は単独の業者に任せられている」と癒着の実態を語っています。
このような政府が巨額の資金を要する巨大プロジェクト「タシマネ計画」に足を踏み出したらどうなるか? ちょっと、ぞっとします。とにもかくにもこの疑惑を解明する調査が待たれます。シャナナ=グズマンが大統領だったとき、自分たちはまだ棚からボタ餅のようなオイルマネーを手にする準備は整っていないという趣旨のことを述べ、チモール海の天然資源から得られるであろう富への渇望に自制を求めたことがありますが、依然として自制は必要なようです。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion1128:130101〕
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