反中感情を煽る外務省とメディア -「呼びつけた」「無礼だ」の手口-
- 2010年 9月 21日
- 時代をみる
- 中国坂井定雄尖閣諸島
海上保安庁巡視船と中国漁船の接触問題で、菅政権は比較的冷静だが、外務省とメディアの一部が反中感情を煽っている。
この問題で12日午前零時、中国政府は外相より格上の戴国務委員が丹羽大使を呼び「中国側の『重大な関心と厳正な立場』を表明した」(北京共同)。これについて13日のNHKニュースは中国外務省が丹羽大使を「呼びつけた」と報道し続けた。14日になって「呼び」に変わった。13日のNHKニュースを見て“日本大使を深夜に呼びつけるとはなんだ”と怒った人がわたしの周辺にもいた。読売新聞の見出しは「未明の大使呼び出し」「外務省『非常に無礼』」。
外交上、二国間で問題がある時に、その国の外務省が相手国の駐在大使を呼んで、抗議したり、懸念を表明することは決して珍しいことではなく、日本外務省もしばしばやっていることだ。それを「呼ぶ」というのと「呼びつける」というのでは、大違いだ。「呼びつける」は上位のものが下位の者に対する行為で、上下関係を示さない「呼ぶ」とは重要な違いがある。「呼び出す」は対等な関係か、上位の者が下位の者「呼ぶ」時に使うが「呼びつける」ほど露骨ではない。このことを発表した外務省の担当者か記事をまとめた記者が、反中感情のあまり、あるいは反中感情を煽ろうとして、「呼びつけ」をわざわざ使ったのだと思う。
このニュースは、日本外務省と北京大使館の両方で発表したが、北京では丹羽大使も報道担当者も、中国側に対する反感を煽るような発言はなく、丹羽大使は「あらためて日本の方針を説明、中国側に冷静な対応を求めた」と大使館は説明した。その一方で、東京の外務省ではどうだったのか。「外務省幹部は『未明に大使を呼びだすのは外交上、非常に無礼だ』と指摘」(読売新聞)したという。無礼とは相手を見下した言葉だ。普天間問題では、アメリカ側はゲーツ国防長官はじめ、ずいぶん無礼な発言をしたが、外務官僚が「無礼だ」と言ったのを聞いたことがない。
午前零時という時間はたしかに異例、異常に思えるが、中国政府・外務省がわざわざ国内向けと日本に抗議の意思を示すために、この時間に大使を呼んだのかどうか。北京でも「外交上、無礼」なら、朝まで延期してくれ、ということも外交上は当然許される。民間出身で、中国に知人が多く、中国を良く知っている丹羽大使は、気楽に載国務委員に会いに出かけたのではないか。あるいは日の丸をはためかせた大使公用車が目立つ昼間を、双方が避けた可能性もある。大使は決して「無礼だ」とは思わなかったのだろう。それをわざわざ「無礼だ」というのは、反中感情むき出し、あるいは反中感情をメディアを通じて煽ろうとしたとしか思えない。
外務官僚は、彼らの言葉で「国益になる」となれば、国民とメディアに対して平然と嘘をつき続ける。核持ち込み密約の重大な嘘についてはいうまでもない。昨年12月22日、外務省は「クリントン米国務長官が藤崎大使を呼んで、普天間基地の新たな移転先を探す鳩山政権の動きに不快感を表明し」(朝日新聞)と各紙、NHKに報道させた。しかし、クリントンが呼んだというのは真っ赤な嘘で、翌日米側が否定。事実は藤崎大使の方から会いに行ったのだった。鳩山政権に圧力をかけるための外務省親米派の広報作戦だった。
外務省の中国外交は、チャイナ・スクールと呼ばれる知中派、親中派が主導権を持っていたが、小泉政権以来、外務省主流の親米派によってその勢力が殺がれ、大使人事でも知中派が外された。最近、再び知中派が影響力を回復しつつあり、丹羽大使の任命はその表れだったが、省内の主流が親米派であることに変わりはなく、主要ポストには反中意識が強い官僚が多い。今回のケースでも、「呼びつけた」「無礼だ」と書かせた背景には、このような背景が見える。丹羽大使任命への反感、中国との良好な関係維持・強化の方針を常に表明している大使の足を引っ張る動きだ、とも感じる。
中国側に抗議するような事態もいろいろと起こるだろうが、今回の「呼びつけた」「無礼だ」の手口によって、反中国感情を煽られないように注意しなければなるまい。
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