青山森人の東チモールだより 第236号(2013年5月7日)
- 2013年 5月 18日
- 評論・紹介・意見
- 東チモール青山森人
道路工事、道路工事、しかし「道路に質はない」
訂正:前号の「東チモールだより」で、「『みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会』の閣僚3名を含む168人が……」と書きましたが、「閣僚3名と『みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会』の168人が……」の間違いでした。お詫びして訂正させていただきます。
雨不足で稲作が不調
日本の大型連休が後半に入ったころから、東チモールでは湿気がじわりと上昇し、曇りのち雨の天候が続きました。明け方の室温が28℃前後と低いほうであっても、70%の湿度があるのでひんやりとした涼しい朝を迎えられません。同じ気温でも60%切るか切らないかの湿度ならば長袖に腕を通したくなるほどひんやり感を楽しむことができるのです。
今年ももう5月です。小降りの雨はべつとして大雨が降る回数は例年ならばあと3回程度です。徐々に季節は乾季へと移っていきます。
この『東チモールだより』(第230号)で今年は去年と比べ雨が少ないような気がすると書きましたが、少なくともバウカウ地方ではそれは事実のようです。『インデペンデンテ』紙(2013年4月29日)で、バウカウ地方・ベニラレ準地方のバドゥ=ホオとウアイ=ラハという村で、去年と比べ今年は雨が少ないため田んぼ10ヘクタールが干あがってしまったと報じています。水源はあるにはあるが農家だけでは力不足で灌漑ができず、米の不作が懸念されるとのことです。
10分程度の雨にも対処できない首都の道路
4月30日午後、10~15分間ほど雨がやや強く降りました。わたしはそのとき首都デリ(Dili、ディリ)市内中心地のコルメラと呼ばれる地区を歩いていました。コルメラは交差点に、なんと、大型画面(東京に比べれば小さい画面だが)が設置され広告が流れる繁華街です。賑やかな商店街ともいえるこの一帯も、わずか10分程度の雨で車道の路肩は水浸しになり歩道は大きな水溜りに阻まれ歩行困難になります。雨が降らずとも、そもそも歩道は凸凹の穴ぼこだらけ、日陰を提供してくれる歩道内の植木は障害物として立ちはだかり歩行者を車道に押しやり(植木全部が全部そういうわけではないが)、ゴミ集積場からのはみ出たゴミの山は歩行者を通せんぼするなど、障害物が一杯です。お年寄りはたいへんな難儀に直面するし、ましてや身障者にとって歩道とは危険過ぎて歩く道を意味しません。
雨が降ると水はけの悪さからすぐ水浸し状態になり、雨が降らなくとも路肩が崩れてくる道路について、最近の各新聞にはもっぱら「道路に質はない」と常套文句のように見出しが踊ります。
質がおぼつかない車道からだけでなく、とりわけ身障者を排除するかのような障害物だらけの歩道からも、政府・官僚による行政の運営管理の貧弱さが浮き彫りになります。この視線でみれば、6000万ドルの円借款によって整備されるデリ~バカカウ(第二の都市)間の道路にもおおいなる不安を抱いてしまいます。質のない幹線道路をつくられたらたまったものではない、巨額の工事費用は適切に使われるのだろうか……と。工事費用が汚職に使われるのではないかという懸念は、毎日毎日、公用車が私的に利用されている光景を否が応でも目にする庶民にとっては当然の思いなのです。
10分程度の雨でこのありさまだ。この歩道を歩く者はどうすればよいのか。「道路に質がない」と新聞に書きたてられても政府は文句は言えまい。
コルメラにて、2013年4月30日。ⒸAoyama Morito
ついでに「質のない」道路の例をもう一つ。ベコラからデリ中心部へ繋がる主要道路である。舗装された車道の路肩と土の歩道との間は大きな段差があり危険な状態にある。これは首都に概ね共通する道路の質である。写真の右側にみえるのは、もはや段差とは呼べない。深い落とし穴だ。堕ちれば大ケガをする。この近くにASSERTと呼ばれる身障者のためのリハビリセンターがあり、この施設から白い杖をつきながら目の不自由な人や義足をつけた人がこの界隈を歩くときがある。身障者のための施設が近くにあるのに、このような道路の状態が放置されているのは悲しい。
ベコラにて、2013年4月26日。ⒸAoyama Morito
非現実的に映る巨大開発計画
去年3月、道路工事のために東チモールが初めて日本から受けた円借款にかんする日本の外務省はホームページのなかでその道路工事をこう説明しています。
(1)背景
ア.東ティモールにおける交通機関は、限られた区間の海上航路があるほかは、道路輸送が唯一の交通手段となっています。急峻な山地地形や脆弱な地質条件のため土砂災害が多く、雨期には道路が完全に遮断されて数時間の立ち往生を強いられるほど、舗装状況が脆弱です。
イ.2011年7月に発表された同国の戦略開発計画(2011-2030)では、年間を通じて走行可能な舗装道路の整備、全県の道路網構築が最重要課題とされており、国道1号線整備計画は、同計画において国家最優先事業に位置付けられています。
(2)事業概要
ア.この計画は、首都ディリと第二の都市バウカウ間(約116キロ)を結び、同国で最も交通量の多い幹線道路である国道1号線を整備することを通じて、同国の道路網の構築を図り、もって同国の経済発展に寄与することを目的として供与するものです。
イ.この計画の実施により、同国の交通事情の改善及び地場産業の活性化に寄与するとともに、今後の雇用創出及び経済発展にも寄与することが期待されます。
ウ.また、この計画を通じ、道路整備事業での実績と技術面での優位性を有する日系企業の同国への進出も期待されます。
(外務省のホームページのプレスリリース、東ティモールに対する円借款「国道1号線整備計画」に関する交換公文の署名式、2012年3月19日、より)
デリ~バウカウ間の道路整備は、「戦略開発計画」において国家最優先事業に位置付けられているのはたしかにそのとおりでしょう。しかしそもそも「戦略開発計画」に現実性のありやなしやはもっぱら議論の対象とされるのが実態なのです。「戦略開発計画」が発表された2011年当時の威勢の良さはいまのシャナナ=グズマン首相にはありません。それなのに円借款はその「戦略開発計画」を背景としてデリ~バウカウ間の道路整備の重要性を述べているところに、上記の文章にわたしは懐疑的にならざるをえないのです。これを作文した官僚や、「同国への進出が期待され」る「日系企業」の幹部には、旅行者として自分の足で東チモールを観光することを勧めたい。そしてこの文章が現実を反映しているかを判断してほしい。
さて「戦略開発計画」ですが、その目玉が「タシマネ計画」です(『東チモールだより第221号』参照)。「タシマネ計画」とは、チモール海の「グレーターサンライズ」ガス田から東チモール南部にパイプラインをひき、南部を高速道路で結び一大工業地帯とする巨大開発計画です。知識人や民間団体からこの巨大開発について疑問が発せられていますが、政府は沈黙を保っているのがなんとも不気味です。
5月2日、オーストラリアのABC局のラジオニュース番組のなかで東チモールの民間調査団体「ラオ ハムトゥク」(共に歩む)の人が、「タシマネ計画」が実現しそうもない根拠の一つとして土地問題をあげました。土地所有権をめぐって住民同士の争いが絶えないこの国の現状を鑑みれば、巨大開発にともなう土地買収がうまくいくとはとても思えないのです。デリ~バウカウ間の道路整備にしても、もしややこしい土地問題が絡んだら工事が捗らないことは想像に難くありません。巨大開発のまえに政府がすべきことがあることがこのことからもわかります。
ところで『チモールポスト』(2013年5月3日)は、首都の国際空港の建設(拡張工事のことか?)で周辺地域の四つの村、全1114世帯、約1万人の住民が影響をうけ、立ち退き料や慰謝料、新しい住処の提供などの問題が生じると伝えています。開発に伴う土地問題を政府はいかに円満に解決していくか、国際空港の工事にも注目しなければなりません。
ウッドサイド社との開発交渉、結論はいつ出る
「タシマネ計画」に話を戻します。この計画は「グレーターサンライズ」からパイプラインを東チモールにひくことで成立します。「グレーターサンライズ」をめぐる東チモール政府とオーストラリア・ウッドサイド社(東チモールにパイプラインをひきたくない)との開発交渉は今年2月で期限切れになったのにもかかわらず、暗礁に乗り上げたままの状態で両者の駆け引きがつづいています。ウッドサイド社がダメなら、開発パートナーは他にもいるという去年までの東チモール政府の勇ましさはなぜか影を潜めています。
交渉決裂だ!と啖呵をきれない事情が東チモール側にあるのだろうか……と思っていたところ、5月3日オーストラリアのABC局は、東チモールは2004年にオーストラリアが交渉中にスパイ行為をしたとしてチモール海の天然資源から得られる利益配分の取り決めを破棄しようとしているとオーストラリア政府が述べていると報じました。もしこの報道が本当だとしたら、つまり東チモール政府がオーストラリアのスパイ行為を理由に条約破棄を言い出しているとしたら、逆にそれは、東チモール政府がオーストラリア側に譲歩を引き出そうとしつつも依然としてオーストラリアを頼りにしていることを意味するのだろうか……?それとも東チモールの現政権はフレテリン政権がオーストラリアと結んだ条約から根本的な見直しを図るという戦略をとろうとしているのか……?などなどと考えたりもします。交渉期限が過ぎたのにもかかわらず、ウッドサイド社よ、さようなら、別の開発会社よ、こんにちは、と歯切れのよい言葉が出ないのは、ともかくそれなりの理由があるはずです。
いずれにしても「戦略開発計画」と、その目玉である「タシマネ計画」や国内を結ぶ道路網計画には、「グレーターサンライズ」からパイプラインをひくことを前提条件としている対外要素と行政の運営管理や法整備の貧弱さなどの国内要素において、不確定要素が多過ぎます。
~次号へ続く~
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