「核なき世界」への貢献こそ、本当の積極的平和主義!
- 2013年 10月 2日
- 時代をみる
- 中国加藤哲郎原発安倍政権
◆2013.10.1 連日30度の日本を離れて、中国に2週間ほど滞在しました。西安から敦煌、トルファン、ウルムチと、西域新疆ウィグル自治区で目前に天山山脈の雪を見るところまで入って、上海経由で帰国したら、酷暑だった日本も、秋の気配でした。尖閣問題から始まり、日中関係が厳しい折、9月18日の国恥記念日(日本の「満州事変」開始日)を挟んだ中国訪問に、当初はいろいろ懸念がありましたが、上海での国際会議でも、その後の日本側出席者の西域旅行でも、特に「反日」を感じる場面はありませんでした。確かにホテルで見るテレビの地方チャンネルでは、「抗日戦争ドラマ」がたびたび放映されていますし、「尖閣=釣魚島」問題のニュースもないわけではありません。しかし、アフリカ・中南米等首脳の訪中経済協力の話や、国内経済開発の進展が、連日のトップニュースです。日本で特に注目されたらしい元中国重慶市共産党委員会書記・薄煕来(ボーシーライ)被告への無期懲役判決言い渡しは、当日夜の北京中央電視台ニュースの4番目でした。公判模様と判決文は詳しく放映され、むしろ裁判所にカメラが入れない日本からはうらやましいほど。無論、両脇に大男の看守を配して180センチの被告を小さくみせて手錠をクローズアップする映像操作や、被告の妻の犯罪を認める証言を繰り返し流すなどの背景説明もありましたが、時折笑みをうかべてまっすぐ裁判長を見つめる被告の映像は、かつての文革4人組裁判公判廷で泣き叫んだ江青等の反抗的姿勢とは正反対で、政治的には両義的な効果と思われました。国際会議での中国側参加者は、外交的・政治的困難のもとでの日中文化交流・経済協力の必要を繰り返しのべ、西安、敦煌、ウルムチなど西域で接した人々も、日本からのビジネス・観光客が少なくなったことを嘆く声が圧倒的でした。国際法にもない「固有の領土」を述べるだけの日本政府のかたくなな姿勢こそ、米国を含む海外の憂慮する、現在の日中関係の困難の主因と思われます。
◆中国西域の訪問は今回が初めてで、いまやG2の一極となった中国資本主義の国民経済統合の度合いを確かめるためでした。旧都西安から敦煌、ウルムチにいたるシルクロードの起点、新疆ウィグル自治区の経済発展は、予想以上でした。「さばく」とは、日本語の「砂漠」では石の少ない砂地ですが、中国語の「沙漠」とは、水の少ない土地の意味で、別に砂の海があることが要件ではないそうです。でも日本語で「ゴビ砂漠」とよばれる平原は、もともとは海の底で塩分が多く、ラクダ草とよばれる雑草くらいで、農業には適しません。それでもブドウ、メロン、スイカなどを栽培し、ドライ・フルーツ(乾燥果物)として商品化し、農業で生活を支える人々が大多数。そんな平原の地下に、近年大きな石油・石炭鉱床が見つかり、「改革開放」経済下で猛烈な開発が始まっています。高速道路で出会うのは、乗用車は滅多になく、商品運搬と石油と土木工事の大型トラックが大半ですが、新疆・ウィグル自治区の貿易の半分を占めるカザフスタン・中央アジアとの交易の大動脈で、西へと続く現代のシルクロードです。それをもういちど中国国民経済に統合するためか、北京から西安を経てウルムチにいたる新幹線が急ピッチで建設中です。何より21世紀に入ってのウルムチの高度成長が印象的でした。人口300万人近くで高層ビルが林立し、いたるところが工事中で、観光客向けの施設・設備も充実してきています。近代化から取り残されたイスラム教徒の多いわびしい街という先入観は、まったくあてはまりませんでした。たしかにウィグル族、回族、カザフ族など肌を隠した女性や帽子をかぶった男性が目立ちますが、漢族も半分近くいて「中国化」が進行中です。数年前に暴動があったというモスク(イスラム寺院)前のバザールは、さまざまな顔つき・衣装の人々で賑わっていました。大気汚染は進み、オアシスも綺麗とはいえませんが、当面の近代化・工業化に必要な電力の3分の1は、沙漠に林立する風力発電でまかなっているとか。石炭・石油の鉱脈の上に風力ですから、原発は不要でしょう。ところがウルムチ市の放射能は、上海や西安の5倍以上、昨年の福島駅周辺と同じくらいでした。理由ははっきりしません。隣国カザフスタンのセミパラチンスクでは、1949ー89年に456回の旧ソ連核実験が行われ、新疆ウィグル自治区内のロプノールでは、1964−96年に46回の中国核実験が行われたことを考えると、その影響とも考えられます。国境を越えてすぐのセミパラチンスクは、いまもヒバクシャを産み続けています。
◆8月アメリカ、9月中国で、この夏は半分、日本を外から見てきました。安倍首相の海外向け英語発信は、どうやら有能なスピーチライターがいるようで、中国に比べて存在感のなくなった日本を、ニュースに仕立てる方向では成功しています。しかしその内容は、IOC総会でフクシマ原発事故が「アンダー・コントロール」とか、地球の裏側まで自衛隊を派遣する集団的自衛権行使が「積極的平和主義」とか、国内では言えないような大問題を、国際公約の既成事実にしていきます。はては国際的問題である従軍慰安婦=戦時性奴隷には触れずに、国連総会演説では女性支援を柱にする厚顔さ。汚染水問題が深刻で、多核種除去装置(ALPS=アルプス)はタンク内にゴムシートを置き忘れた人為ミスで作動できないお粗末。それなのに、実質的に経営破綻している東京電力にも柏崎原発の再稼働を申請させ、再生エネルギーへのシフト、発送電分離も、核燃サイクル、使用済み燃料処理も先送りにしたまま、原発再稼働と原発輸出に突っ走っています。これは、国連核廃絶決議への日本政府の消極的態度とならんで、被爆国日本が、「核なき世界」への先頭にたつどころか、20世紀の遺物となりつつある核兵器と原子力発電の存続に「国際貢献」している姿です。本当の「積極的平和主義」とは、日本国憲法第9条の思想を世界に広めることなのに、憲法解釈を強引に変えて集団的自衛権を認めたり、ヒロシマ・ナガサキの被爆体験があるのにアメリカの「核の傘」に隠れて核兵器廃絶に不熱心だったり、フクシマ原発事故で明らかになった「原子力の平和利用」の困難を認めず、むしろ潜在的核保有である原発に固執して、フクシマ廃炉や核廃棄物最終処理の人類史的困難を隠蔽することではありません。日本の採るべき「積極的平和主義」とは、核兵器も原発も含む「核なき世界」への道を、国際社会で率先していくことです。参議院選挙後、日本の立法府はほとんど機能せず、安倍内閣の独断・独走が目立ちます。フクシマのコントロール、原発再稼働も、「積極的平和主義」の中身も、本来国会での徹底的議論が必要な、この国の未来を決める重要問題です。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2399:1301002〕
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