中国の防空識別圏設定 危険回避の話合いを急げ -「不作為」による事故は共同責任だ-
- 2013年 12月 16日
- 時代をみる
- 中国田畑光永防空識別圏
暴論珍説メモ(127)
尖閣問題は打開の道が見えないどころか、ますます危険の度を増して年を越すことになりそうだ。危険が増したのは中国による防空識別圏設定と言う新たな要因が加わったためである。
これが発表された11月23日以来、さまざまな動きがあったが、やはり注目されたのは12月初めの米バイデン副大統領の日中韓3国歴訪であった。この人の旅程につれて4国のこの問題への姿勢が明らかになった。われわれとしては日本政府が日米協調を演出しようとした努力とは裏腹に、日米間の「温度差」がはっきりしたことを自覚しなければなるまい。
とくに日本が中国に識別圏の「撤回」を要求しているのに対して、米は「(中国の決定は)認めない」と言い、「深い懸念」を伝えながらも、「撤回」は口にしない。米の真意は「根回しもなしに、突然、設定を発表し、領空以外にまで一方的に管理を広げたそのやり方は認められないが、識別圏くらいは中国だって持ちたいだろう。それはやむを得まい」、というところではないか。
「一方的な現状変更は認めない」としながらも、米は注意深く「尖閣」を名指しすることも避けている。日本にとっては「偶然」の衝突はさし迫った危険だが、米は組織的な「攻撃」でないかぎり、「自分とは関わりがない、当事者同士で解決しろ」ということであろう。この姿勢は6月のオバマ・習近平会談で明確にされ、それは識別圏設定でも変わらない。
そこで、中国がなぜ今、防空識別圏設定という挙に出たのか、その背景を考えてみたい。しかし、その手がかりとなる情報は少ない。これまでのところ香港誌『亜洲週間』が11月30日までに、中国の中央軍事委に近い筋の話として「習近平国家主席が4カ月前に東シナ海での防空識別圏の設定を決断していた」と伝えた(11月30日香港発共同電)というのが唯一の報道である。それによると、同筋は「識別圏の設定は以前から軍が提案していたが、共産党指導部は取り上げてこなかった。習氏が4カ月前に設定を決断した際、日中関係が資源争いから、戦略的争いへ変わった」との見解を示したという。
中国は昨年秋以来、尖閣諸島は中国領という前提の下に同諸島周辺に公船を頻繁に派遣して、それを「通常の巡視任務の遂行」と主張しているから、防空識別圏を同諸島上空に設定することは論理的にはおかしくない。
ただ、ここで解せないのは、習氏が4カ月前に決断していたとしても、日本との対立をさらに激化し、またこのところ朴新政権と対日同盟を結成したかのような雰囲気にある韓国との友好関係に波紋を起すような決定を、選りに選って米バイデン副大統領の三国歴訪が目と鼻の先に迫った時点であえて実施に移すだろうか、という疑問である。
国内的にも先の18期3中全会で60項目にも及ぶ長大な「改革の前面深化」についての決定を採択して、そのキャンペーンが始まったところであり、識別圏設定当日の11月23日には習氏は山東省を視察中であった。また設定は国防部から発表されたが、これまでのところ、同部や外交部のスポークスマンの発言を除けば、『人民日報』社説とか党政府首脳の言葉として、この決定を宣揚する発言は聞かれない。
これらは何を意味するか。あえて推測すれば、決定の発表は国防部独自の判断でおこなわれたのではないか。それは中国首脳部内の何らかの対立によるものかもしれないし、たんに習近平政権の統制がゆるんでいるせいかもしれない。
いずれにしろこういう軍部独走(とまで言えるかどうかは別として)とも思える事態は極めて危険である。われわれは海上保安庁の巡視船と中国の海警船がともに「領海内」で舷側を接するばかりに併走する場面を見ているが、同じことが空で起こったらと想像すれば肌に粟が立つ。しかし、その危険は現実のものとなった。
中国は安全メカニズムの構築のための話合いを求めている。それが「日本を交渉の場に引き出すための手段」にしても、それを承知の上で話合いをするべきである。それが大人の態度というものではないか。取り返しのつかないことが起こった後になってまで、「相手が悪い」と言い募ってみても「不作為」の責任は免れないのだ。
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