ソフトウェアのサポート終了
- 2014年 4月 26日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
一時は国内PC市場を制覇した感のあったメーカの一部門としてスタートしたインターネットサービスプロバイダのメルマガを受信して驚いた。4月9日発行のメルマガのSubject が「XPを使い続けると危険!4月9日でサポート終了」だった。記事として情報処理推進機構(IPA)からの4月の呼びかけとして下記まであった。
『「XPのサポート終了!あなたのパソコンは4月9日以降、大丈夫?」
早急に最新版のWindowsにする必要があります。新パソコン購入のご検討を』
素直に読めば、Windows XPを搭載したPCを使い続けるのが怖くなる。即OSをWindows XPから後継OSに載せ替えなければならない。多くの場合載せ替えるというよりPC買い換えを意味する。
IT系の人間ではない。詳しい人たちには何をあたり前のことをタラタラ言っているのだと、あるいは何を勘違いしているのかとお叱りを頂戴しかねないと心配している。心配はあるがとんでもない勘違いも誤りはないだろうと思って書いた。誤解や至らない点をご指摘頂ければと思う。ソフトウェアのサポート終了の捉え方がそれだけでなく、ある意味一般常識の範疇のことも示唆しているようにも見える。ソフトウェアのサポート終了を一つの例として常識の視点の話も無駄にはならないだろうという気持ちがある。
Windows XPのサポートが終了するということで、それではとPC合わせて新しいものに買い換えよう。PCもちょっと古くなってきたし、消費税も上がる、ちょうどいい機会かもという話を耳にした。MicrosoftのOS Windows XPのサポート終了のおかげでPC業界は一瞬の特需に潤ったのかもしれない。
デザイン系でMacでなければという人たちや市販のPCの構成ではいくらオプションを追加しても機能や性能が足りないのでモジュールベースでPC(というよりカスタムコンピュータ)を構築しなければならないという人たち以外の一般のユーザはPCにMicrosoft のOS、その上でアプリケーションソフトを使って業務か趣味の作業をしている。ここでいうアプリケーションソフトとはMicrosoft WordやMicrosoft Excelなどを想像して頂ければいい。グラフィック系やデータベース、あるいは経理処理などPCを使って何をするかで使うアプリケーションソフトが違う。また、アプリケーションソフトがなければ、そのアプリケーションソフトを使って作られたファイルを受け取っても開けない。Microsoft OfficeのHome EditionにはPowerPointが含まれていない(ことがある)。そのため会社のPCで作ったPowerPointファイルを家に持ち帰って仕事をしようとしたら、家のPCにはPowerPointが搭載されていなかった。ファイルも開けなかったということになる。
サポート終了と聞いて、どうしようと思う人たちの多くは個人でPCを使っている人たち、ソフトウェアに多少なりとも詳しい人のいない事務所で働いている人たちだろうと想像している。今まで使用してきたOSも含めたソフトウェアが非常に希にしか使われていないものでもない限り、同じ状況の人たちが日本中に数えきれないほどいるはずと考えれば多少気が楽になるかもしれない。サポートが終了して万が一のことがあったらどうしようと、同じように思う人たちがいっぱいいて、自分だけじゃない。
MicrosoftのWindows OSを搭載したPCは事務所や個人用だけでなく、日本中のほとんど全ての製造業の工場の製造装置やサービス業の現場の設備の制御や監視に、重厚長大産業の基幹装置にも使用されている。そのような業界では一度製造設備を導入したら十年、二十年に渡って使用し続ける。PC上で業務に必要なアプリケーションソフトを使って様々な作業が日々遂行されている。そこで使われるアプリケーションソフト(群)の多くが特殊用途でMicrosoft Officeのような汎用ソフトウェアではない。そのためライセンス数(販売量)も少ない。ライセンス数が少ない上にソフトウェアとしての信頼性に対する要求は厳しい。想像して頂きたいのだが、重厚長大産業の生産現場でソフトウェアに障害が発生すれば最悪の場合人身事故や大きな産業災害につながる危険性がある。売れる本数は少ないし開発には膨大な工数がかかる。その結果新しいOSがリリースされたとしてもそのOS上で動くアプリケーションソフトが市場にでるまでにはかなりの時間がかかる。
新しいOS上で動くアプリケーションソフトウェアが出てきたとして、では以前のアプリケーションソフトウェア上で実行されているアプリケーションプログラム(WordやExcelのファイルに相当すると思えばいい)を新しいアプリケーションソフトウェア上で実行するアプリケーションプログラムに書き換えるか?書き換える能力のあるのは装置メーカで、その装置を使用して生産活動をしているメーカではない。一台二台の話でもない、PCもネットワークから切り離されたスタンドアローンでもない。生産ラインからその上位系コンピュータシステムとの情報のやりとりをするインタフェースまで含めてMicrosoftのサポートが終了しますから新しいOSに切り替えましょうかというわけにはゆかない。ゆかないというより不可能に近い。
ソフトウェア会社の営業政策やテクニカルサポート政策にもよるが、サポートを終了するというのは、“もうこれ以上新しい機能の開発はしません。性能向上の改善もしません。未解決のバグや新たにバグが見つかったとしてもバグ潰しはしません。”ということに過ぎない。今まで使ってきたのであれば、そのままお使いください。今までたまに変な不具合が出て困るとしても、解決にお金も時間もかけません。我慢してそのままお使いくださいということに過ぎない。
サポートが終了するからといって新しいOSの乗り換えできない人たちが数えきれないほどいる。その多くが製造業や社会インフラの根幹に使用されている。事務処理に使ってのもし万が一も大変だが、その大変ではすまないところに今まで通りで使い続けるしかないのが数えきれないほどある。そう思えば、Microsoftのサポート終了のアナウンスで慌てることもないだろう。
小さな事務所や個人でサポート契約は受ける側の知識とコストを考えれば現実的でもなし、インターネットなどのインフラに大きな障害でも起きない限りあるがままなりで使用し続けたとして、たいした問題があるとも思えないし、非常に希にしか問題になるとも思えない。しなければならない、あるいはできるのは、強力なウィルス対策ソフトウェアと定期的なデータ(ファイル)のバックアップくらいで、これはOSも含めたソフトウェアのサポート終了には関係ない。
ps.
英Economist April 12 2014に関連記事があった。Windows XPは世界のPCの28%で使用されている。英国とオランダ両政府は行政のIT部門で使用しているWindows XPの延長サポート契約する。世界のATMの95%がWindows XPベースで銀行などの民間企業でもサポート契約をしている。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4828:140426〕
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