朴大統領、安倍首相と日韓関係(上)
- 2014年 5月 24日
- 評論・紹介・意見
- 坂井定雄韓国
―平井久志氏の分析に納得
右翼サイトや週刊誌で、嫌韓キャンペーンと朴大統領への悪口雑言が荒れ狂うなか、朝鮮半島問題と日韓関係の専門家、平井久志氏(立命館大学客員教授・共同通信社客員論説委員)が、「メディア展望」(新聞通信調査会)5月号に書いた「朴槿恵(パク・クネ)氏を分析する―歴史修正主義批判は『反日』なのか―慰安婦問題で真逆走った安倍政権―来年が日韓正常化50周年」は、“よくここまで、しっかり書いてくれた”と納得できる内容だ。同誌は会員制で、入手しにくいかもしれないので、平井氏の了解を得て、全体のごく一部になるが要所を選んで原文のまま紹介しよう。(「」内が原文のままの引用、一部読点を加えた)。
▽朴大統領の基本理念は『信頼』
平井氏はまず、3月25日にオバマ米大統領の仲介で実現した、日米韓首脳会談の光景から書き始める―
「安倍晋三首相が韓国語で『朴槿恵(パク・クネ)大統領、お会いできてうれしく思います』と声をかけたが、朴大統領は安倍首相とほとんど顔を合わせず、笑顔も見せなかった。このシーンが冷え切った日韓関係の象徴として、テレビなどでも繰り返し放映された。安倍首相のこうしたパフォーマンスは今回が初めてでない。」
「大統領は『信頼』という価値観をきわめて重要視する。父朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は18年間にわたって独裁政治を行い、朴槿恵氏は、多くの人々が父の権力の下に集まった姿を見て来た。
しかし父が暗殺されると、手のひらを反すように背信した人々の姿も目のあたりにした。そういう人々への不信感が、ことし62歳となった朴大統領の人生哲学をつくってきた。」
「朴槿恵大統領によって最大の価値観は『相手を信頼できるかどうか』なのである。」
「朴大統領は口先できれい事を言いながら、背信行為をするというスタイルを嫌う。朴大統領のこの姿勢は国内世論向けというよりは、彼女の人生哲学である。」
「ここで注目されるのは、朴大統領の外交優先度が『韓日中』ではなく『韓中日』になっていることだ。スタート時から、中国が日本より優先されている。第二に、アジア外交の基礎は『正しい歴史認識定着』にあるという認識だ。第三に竹島(韓国名・独島)などで主権侵害があれば、断固とした対応をとるという強い姿勢だ。」
▽血筋に期待した日本側の「誤解」
「李明博前大統領は大統領として初めて竹島に上陸し、日韓関係は急速に悪化した。日本は朴大統領に期待した。大統領は日韓国交正常化を実現した朴正煕大統領の長女である。その血筋からして、対日関係を重視するだろうという期待が日本の政府・財界などで先行した。しかし、日本に『正しい歴史認識』を求める対日外交姿勢は保守、進歩の理念を超えた韓国社会全体の要求である。日本側は自らが歴史に向かい合うことを否定しながら、
朴政権に期待した。
ちょっと考えてみれば、韓国初の女性大統領が、従軍慰安婦問題で日本側に譲歩できるはずがないのは明らかだ。逆に言えば、韓国で初の女性大統領が誕生する可能性が見えた段階から、日本政府が従軍慰安婦問題での前向きな姿勢を準備しておけば、日韓関係は好スタートを切れたかもしれなかった。しかし、安倍政権はその真逆を走った。」
▽日韓不信拡大の経過
そして平井氏は朴クネ政権誕生から日韓の「不信拡大」の経過を、次のように追う―
最初にボタンのかけ損じを演じたのは、麻生副総理兼財務相。「韓国の中央日報が複数の消息筋の話を引用して報じたところによると」「まず朴大統領が『韓日間の真の友好関係構築のために歴史を直視し、過去の傷がこれ以上悪化せず治癒するようお互いが努力しましょう』と口を切った。これに対して麻生副総理は米国の南北戦争を取り上げ、「同じ国、民族でも歴史認識は一致しないものだ。異なる国の間では、なおさらそうだ。日韓関係も同じだ。それを前提に歴史認識を論じるべきではないだろうか」と述べた。「同紙によると、朴大統領は『特に両国の指導者が慎重な言葉と行動を通じて信頼を構築することが重要だ』と短く応酬したという。朴大統領の立場からは、麻生副総理は大統領就任の『祝賀使節』というよりは『挑発使節』と映った。」
「朴槿恵大統領の対日姿勢はより強硬になった。大統領は就任5日目の『3.1独立運動』を記念する式典演説で、日韓がパートナーになるためには『日本が歴史を正しく直視し、責任を取る姿勢を持たねばならない』と訴え、日本が竹島領有権や歴史問題で対応を取るよう求めた。さらに『加害者と被害者の立場は千年の歴史が流れても変わらない』とし、時間の経過だけでは問題が解決しないと訴えた。」朴大統領のこの「強烈な言葉は、日韓関係を米国の南北戦争と同じように例える、麻生副総理の歴史認識への回答だった。」
「しかし、日本側はさらに韓国側を刺激した。安倍首相は昨年の靖国神社の春季大祭に合わせ『真榊』と呼ばれる供物を『内閣総理大臣』名で奉納し、麻生副総理は4月21日に靖国神社を参拝した。尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は4月下旬で予定を進めていた訪日と日韓外相会談を中止した。」
「安倍首相は国会でこれに追い打ちをかけるような発言を続けた。首相は4月23日、参議院予算委員会で『侵略という定義は国際的にも定まっていない。国と国との関係で、どちらから見るかということにおいて違う』と述べた。」
「さらに24日靖国参拝について『国のために命を落とした尊い英霊に尊崇の念を表するのは当たり前だ、わが閣僚はどんな脅しにも屈しない』...と言い切った」(続く)
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