本間宗究の「ちきゅうブッタ斬り」(58)
- 2014年 7月 10日
- 評論・紹介・意見
- 本間宗究金融
ECBのマイナス金利
6月5日に「ECBのマイナス金利」が発表されたが、この点には「大きな注意」が必要なようである。つまり、今回は、「民間銀行が、中央銀行に預け入れる法定準備預金」の「超過分」に対して「マイナス0.1%の金利」を付加するというものであり、「個人や企業の預金」に関しては、従来通りに、「金利が付く」という状況でもあるからだ。別の言葉では、「ECB」が、今回、「衝撃的な言葉」を使うことにより、「金融緩和」を強調したかったようにも思われるのだが、実際には、「瓢箪から駒」という言葉のとおりに、「全く正反対の効果」が生まれる可能性もあるものと考えている。
つまり、「世界中の人々」が、「マイナス金利」という言葉に過剰反応する可能性のことだが、具体的には、「1000万円の預金」に対して「1万円のマイナス金利」が徴収された場合には、「誰も、資金を民間銀行に預け入れなくなる」というような事態も想定されるのである。そして、この時には、「タンス預金の増加」や「実物資産への交換」が起きることが予想されるのだが、現時点では、まだ、「個人や企業へのマイナス金利は、具体的には実施されない状況」とも言えるのである。
ただし、この時の注目点としては、「日本人」を始めとして、「世界中の人々」が「実質的なマイナス金利の状態」に気付く可能性とも言えるのである。具体的には、「1000万円の預金」に関して、「2%のインフレ率」が発生すると、「自分の預金は、実質的に、目減りを始めている」ということである。つまり、「1000万円で買えた商品」が、「一年後には、1020万円にまで価格上昇する」という事態のことであり、この時には、「預金」の価値が減少するために、「換物運動」が起きる可能性が存在するのである。
そして、このことが、本当の「インフレ(通貨価値の下落)」を意味するのだが、現在では、いまだに「預金神話」が存在し、多くの人々が、「預金が、一番、安全である」と誤解しているようにも感じられるのである。つまり、「デフレ」という言葉に惑わされ、「自分の預金が、実質的に価値を減少させている」ということに気付かない状態が継続しているようにも思われるのである。
しかし、今回の「マイナス金利」については、この点を、人々に、再認識させる効果があるとともに、「預金に対する信頼感」を減少させる効果も存在するようだが、当面は、「景気回復」や「株価の上昇」などにより、「預金を持っているよりも、株式を持っていた方が得である」と考える人が急増するものと考えている。(2014.6.9)
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アベノミクスの成長戦略
現在、「アベノミクスの成長戦略」が、徐々に明らかになり始めているが、私自身としては、「某プロ野球球団」と同様に、「監督の顔だけが見えて、選手の顔が見えない状況」のようにも感じている。つまり、「安倍首相」だけが元気であり、いろいろと「アベノミクスの成果」が誇示されるのだが、「日本全体」としては、「ますます、悪化の方向に向かっている可能性のことである。換言すると、「大企業」や「富裕層」などは、「より富める状態」となっているようだが、一方で、多くの「国民」は、「増税」や「物価上昇」などにより、「より厳しい生活」を余儀なくされているのである。
そして、この理由としては、きわめて異常な「金融政策」が指摘できるようだが、具体的には、「ゼロ金利政策」を堅持しながら、「日銀だけが、国債を買い付けている状況」のことである。つまり、「資金の流れ」としては、依然として、「大企業」や「国家」へ資金が移動している状況でありながら、反対に、「一般大衆」は、「給料の増加分」を上回る「税金の増加」などにより、「資産の吸い上げ」が行われているようにも思われるのである。
別の言葉では、多くの国民が「預金神話」に縛られているために、依然として、「株式への資金移動」が起きていないようだが、実際には、「外国人投資家」を中心にして、「割安な日本株」が、大量に買い付けられているのである。その結果として、「日本人が、一所懸命に稼いだ利益」については、多くの部分が「外国の株式保有者」へ流れているのだが、現時点でも、この点を指摘する専門家が、ほとんど存在しないようである。
また、この理由としては、「リーマンショックの再来」などが、大々的に宣伝されることにより、「株式にはリスクがあり、リスクの無い安全資産は、国債や預金である」という考え方が、依然として、主流になっている点が指摘できるようである。しかも、現在では、「国債を保有するリスク」については、ほとんど忘れ去られた可能性があるようだが、この点が、「アベノミクスの成長戦略」における「最大のリスク」とも言えるようである。
具体的には、「株価の上昇」や「景気の好転」が起きると、当然のことながら、「金利の上昇」が予想されるのだが、現在では、「この時に、どのような事が起きるのか?」が、ほとんど考慮されていないのである。そして、「日銀が国債を買い付けるから、国債価格の暴落は起きない」という意見が主流になっているようだが、間もなく、この点に関する「結論」が、見えてくるものと考えており、実際には、「6月から9月」の動きが、たいへん気になる状況とも言えるようである。(2014.6.16)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion4904:140710〕
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