大山鳴動の背後で進行しているもの
- 2010年 11月 16日
- 評論・紹介・意見
- APEC三上治
時折、新聞には重大なことが小さな囲み記事で報道されることがある。だから割と丁寧に新聞は読んでいる方だが先頃のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でいえば「警備中の警官がトイレに拳銃を置き忘れた」というのがあった。テロ対策と称した過剰警備以外の何物でもないことを象徴するような出来事である。近畿地方では何の関係もない人が予備拘束のように逮捕される事件も伝えられたが、身体検査などの不愉快な思いをさせられた人も多かったはずだ。海上保安官の情報露漏事件では逮捕を見送りながら、予備拘束めいたことを公然とやる権力の動きに嫌な感じを持ったのは僕だけではなかったと思う。権力の振舞いは法治国家に程遠いしどこかかつての光景を想起させる。
この会議は各国の首脳の協力ぶりを国内向けに演出するものであり、一種の儀式であってさして重要なことが決められるわけではない。そこでの声明や会談などとして報じられるものは詮索してもさして意味はないと思う。しかし、この会議を射程においての各国の政治的な関係をめぐる動きは背後の事柄であるが重要なものがある。この会議において日本と中国の首脳会談が開かれるかどうかが関心を集めていたが、これは刺身のツマであり一番大事なことは日米関係であった。アメリカはここを射程に政権交代をした日本の民主党との支配的関係の構築を進めてきたのであり、見事にしてやられたというのが正直な感想である。「アメリカとの関係の見直し、東アジアでの共同体構想」を掲げた民主党の公約の解体とその推進者(鳩山・小沢)の政権中枢からの排除がアメリカ民主党の戦略であり、これは日本の旧勢力(保守政党、官僚。メディア)の欲求と一致していたのである。こう書くと如何にも図式的な分析をしていると思うかもしれないが、大山鳴動の背後にありことを進めてきた動きとして理解して欲しいと思う。小さな連鎖の動きの中でその渦中にある人は「なぜこんなことがおきるのか、どうなって行くのか」見にくいものだが、事の動きの見える場所もあるのだ。アメリカは中国を管理通貨としてのドルの維持を主眼とした枠内に取り込むことを戦略としている。アメリカと中国の経済摩擦(不均衡な経済関係)をかつての日米摩擦の教訓を踏まえて処理しようとしている。この過程で日本は「第二の敗戦」と呼ばれる事態を経験し、中国はそれを回避しようとしている。第二の敗戦から脱し、日本とアメリカの関係を見直すことは、アメリカと中国の関係に大きな影響を与える。だから、日本の再度の支配確認がアメリカは切実なのだ。その戦略に見事に嵌めこまれたのが日本政府だ。
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