原発再稼働の陥穽
- 2014年 7月 23日
- 評論・紹介・意見
- ブルマン!だよね
いや陥穽などというものではなくって、明白で過大な危険性だろうと言われそうだが、キョービ川内原発再稼働を巡る論争に重大な落とし穴=陥穽があることを指摘しないでは済まされない。
そもそも新規制基準が「世界一厳しい」から何だというのだ。この国は人口密度の高さ、地震+津波、台風、火山噴火、ちょっと他にないような自然環境の厳しさを少しでも顧慮すれば「世界一」などというのは当たり前でなくてはならない。「世界一」だから安全余裕度も世界一だとでも言わんばかりだが、「世界一の危険地帯」から「世界一厳しい規制基準」を差っ引いてナンボのものが残るというのだろうか。それをまず言っておこう。
それからだな、原子力規制委員会の田中俊一委員長が「安全を保証しているのではない」と仰られているのは、理屈からいえばその通り、新基準に照らして審査しているだけ、工学的には全く正しい。正しいついでにどういうリスクが依然として残るのか、それも理屈に徹して明敏にすべきでしょう。どうせ居直るなら清々しく行きましょうや。
しかし再稼働反対陣営の論点もいささか的外れ。
まずもって指摘される火山地帯という立地でありながら大噴火の想定がされていない、というもの。この批判論点自体当然のものなんですが、福島第一原発事故に発想がある意味縛られてしまっている。なにか自然災害が過酷事故の引き金になる最重大原因と思い込んではないないか。スリーマイルもチェルノブイリもちょっとした稼働試験やメインテナンス中のトラブルが引き金となって次々と動作異変の連鎖を拡大し、重大事故につながっており、そこにはヒューマンファクタが必ず介在していること、このことを忘れてはいけない。川内原発の事故履歴見ると小事故が開所以来断続的に続いている。なにか大事故が起きる場合大体において小さな事故が先行的に継起しているものです。
でヒューマンファクタの介在を出来るだけ排除しましょうと、自動フェールセーフの比重を高めたシステム設計になってくるのだが、この自動というやつが曲者で、そこには必ずソフトウェアが協調動作を司っている。この世にバグのないソフトはない、こんなのは少しでも現代的なシステム工学をかじった者には常識でしかない。しかも原発のような巨大システムでは動作異変のモードなどというのはそれこそ無数にあってそれをすべてカバーできるシステムなどあるはずがないのである。コンピュータシミュレーションで解析し尽くしましたと言いたいんだろうが、0-1のデジタル論理回路ならいざ知らず、ヤクザな金物尽くしの実システムのシミュレーションが完全にできるわけがない。
まあ原発というのは超巨大複雑なコンピュータとネットワークのシステムだと思えばよろしい。バグの話は今しがたました。コンピュータとネットワークとくればピンと来るものがあるでしょう。そうハッキングやらウィルスですね。規制委員会のメンバーもそれから原子力ギョーカイの主だった面々は、はっきり言って純ハード屋さんの集まり。ハッカーから見れば原発のシステムに侵入なんてお茶の子さいさいなのかもしれない。でどこかのシステムソフトを改変してしまったらどうなるんだろう。外部だけではない。内部でちょっとどこかのポートにスマホをつないでみたいなどこかで聞いた話、あり得なくないですね。はっきり言ってそういう点では実に脆弱性を抱え込んだシステムでしょう。
それから避難計画の不備を指摘されていますが、もう避難ということになったら、終わりです。周辺の住民の方どこまでというのがありますが、鹿児島、熊本併せて340万の人口、そのうち20万人が避難対象となったとして、どこにという問題を棚に上げても、それだけの人数が家を捨てて避難するだけで、1000人や2000人の死者はすぐ出てしまう。20万人というのはそれだけの大きな数字なのです。変な話、チェルノブイリ級の放射性物質放出でない限り、じっとしていた方がまだしも犠牲が少ないかもしれない。これもこの国の人口密度の高さに起因しているともいえます。
だから避難計画というよりは事故が起きても避難しないで済ませられるような、防曝態勢を構築すべしと観点を変えるべきでしょう。そう思っていると、7月22日のニュースで原発から半径5キロの住民に対してヨードの配布説明会があったと伝えていましたね。確かにこれもそういう趣旨の一環に連なるかもしれないが、半径5キロってのはいかにも狭いし現地の風向きのパターンを考慮していないでしょう。それ以上離れたところの住人へはプルームは希薄になって健康影響が無視できるのか、どういう根拠で決めたのでしょうね。防毒マスク、各家屋のシェルター化、公共のシェルター設置などなど。避難計画というのは最悪の最悪に備えてのものでしょう。
最初に戻りますが、原発再稼働への批判的視点は、福島の辛い教訓から学ぶと同時にそれだけを学ぶのではないという複眼的接近によって導き出されるべきではないでしょうか。ブラックスワンは一見平凡な光景から突如現れるのです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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