イラク、「イスラム国」掃討に挙国体制へ―カギ握るスンニ派武装勢力(上)
- 2014年 9月 10日
- 評論・紹介・意見
- イスラム坂井定雄
イラク連邦議会が8日、穏健なシーア派のアバディ首相の新政権を承認したことで、イラク、シリアで支配地域を拡大している偏狭・暴虐なイスラム過激派「イスラム国(IS)」に反撃、掃討するする政治体制がほぼ整った。同首相は、「イスラム国」との戦いで最も重要な閣僚である軍と警察を統括する国防相と内務相の指名・承認を、各派の最終的一致を求めて、この日に強行せずに次週まで伸ばし、それ以外の閣僚は一人ずつ議会の承認を求める慎重さだった。
2006年以来、首相の座にあり、出身のシーア派(人口の約6割)を偏重する独裁的な行政を強行して、スンニ派(人口の約2割)、クルド人(約15%)の強い不満を生み、国を分裂状態にしたマリキ前首相がやっと辞任してから1か月近く経っている。
6月からイラクで本格的な攻勢を開始したISが、1万人にも満たない兵力で、米軍が育成した政府軍と警察を追い散らし、2か月もたたないうち第2の都市モスルをはじめ北、中部の大部分を電撃的に攻略できた主な理由は、マリキ前政権に強い不満を持つスンニ派の武装勢力や部族勢力がISに協力したからだった。
2003年のイラク戦争で米軍の攻撃から素早く逃げ散った、フセイン政権の政府軍と治安警察、支配政党バース党の残党は、故郷の町や村で地元の部族勢力の保護の下で潜伏して反米武装闘争を展開した。その後には、逆に中部のファルージャなどで米軍の懐柔工作を受け入れて、アルカイダ直系のテロ組織を攻撃して大きな成果を上げていた。
一方、アルカイダ直系のテロ組織の重要幹部だったバグダディが組織を離脱し、新たな武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」を結成した。まずシリア北部に越境して、アサド政権の支配が弱まった町や村を攻略して支配地域を拡げ、一部湾岸諸国からの資金援助や支配地域で産出する原油の販売代金で武装を強化。外国からの志願者も加えて兵力を増やし、今年6月から本国イラクに攻め込んだ。バグダディらは、結成当初からイラク中部の町ファルージャなどのスンニ派部族勢力の保護を受けていたが、シリアから戻ってきたISIS(ISと改称)の新たな攻勢に、スンニ派の部族勢力とフセイン政権残党の武装勢力が協力した。モスルはじめ各所で、ISが攻略に成功したしたのち、これら地元勢力がその維持を引き受け、ISは次の目標に転戦した。米軍が育成に努めた政府軍にはスンニ派の将兵もいるため、これまでIS、スンニ派武装勢力と全面的に戦えず、主にシーア派とクルド人の民兵がISと戦うだけだった。モスルや石油都市テクリートなどでは、ISの残虐なシーア派兵士の集団虐殺を恐れ、政府軍は戦わずして逃亡した。
しかし、マリキ前首相が遂に辞任し、スンニ派にも配慮した穏健シーア派のアバディ新政権がスタートしたことによって、スンニ派全体がISに対する挙国体制に加わり、ISとの協力関係を断つ可能性が強まった。じつは、スンニ派内部でも、“マリキが辞めればISとの協力を打ち切ろう”という機運が強まりつつあったという。
「イスラム国」部隊に対する米軍の空爆は拡大し、効果をあげつつあるが、あくまで補助的な役割に過ぎない。イラク政府と国際社会が、「イスラム国」をすくなくともイラクから駆逐できるかどうかのカギは、スンニ派が握っているのだ。
それを裏付けた、スンニ派武装勢力の指導者の詳細な発言を、次回に紹介しよう。(続く)
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