行方不明43人とメキシコ社会
- 2014年 10月 25日
- 交流の広場
- メキシコ山端伸英
9月27日以来、メキシコ社会は異様な、しかし正常な、とはいえ切羽詰まった雰囲気のなかにいる。前日に、ゲレーロ州イグアラ郊外で教育課程大学の学生の乗っていたバスを市警察が襲撃した。警察が市民を襲うのがメキシコの警察であることは常識の範囲内なのでだれも驚かず、人々は二か月前に起こった国軍のメキシコ州トゥラッラヤTLATLAYA(カタカナ表記というのは難しい)における「麻薬組織との偽装銃撃戦」の報道に震えあがっていた。国軍は銃撃戦をでっち上げ、トゥラッラヤに若者たちの死体を武器と一緒にばらまいたのである。もっともそれは現場写真の不整合からドイツのZEITなどヨーロッパのメディアから事実が暴かれはじめ、事件から一か月半以上たってから国内左派メディアに取り上げられ始めていた。
その状況に油を注いだのがこのバス襲撃事件だった、というわけではない。その際、43人の学生が誘拐され行方不明となって今日10月24日(日本ではすでに25日)まで、さっぱりどこにいるのかあるのかわからないことが国民の不安と憤りとメキシコ・システムへの怒りに結びつき始めたのだ。そのうえ、いつものように(アグアス・ブランカやチアパスのように)カトリック神父が登場し「生きたままガソリンをかけて焼かれた」とかいう証言をしたが、彼は情報源を明かせず時間に翻弄され始めている。政府検察当局はあちこちに巨大墓穴を発見し、たくさんの死体を発見したが、それらは当該の学生たちではなかった。なんと今日24日の報道では他にも5個の巨大墓穴を発見したという報道がある。墓穴掘りは頑張ってほしいところ!
だ。
他方、特に若者を中心とした市民社会は、またもや立ち上がっている。自体は全くわけのわからない事態なのだが、どこかに「現存システム」の破綻とそのシステム自体への絶望を感じているのかもしれない。スローガンは「43人の学生たちを生きたまま返せ」ということに尽きる。この件については既に昨日23日、イタリアの「リパブリック」フランスの「ル・モンド」ドイツの「ユンゲベルト」などが特殊に見えるメキシコの状況の何か本質に迫った市民行動をそのまま報道している。
かれら43人の学生たちを生きたまま返せ「現存システム」よ。
ところで90年代に東京でラテンアメリカ研究者(つまりは日本語の正しい現存システム用語ではラテンアメリカ関係の大学教授たち)が集まり、「ラテンアメリカの免責体質」に関する公開講演会が行われた。日本の現状を見て、連中は何か感じないだろうか。ま、ともかく、そういった暇と「地位」のある連中をたたき出して、ここに詳報を書かせるのは左派編集者やちきゅう座の偉い人たちの役割であろう。小生は現在奴隷修行中。
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