和訳:WSWS記事 スペイン政府、「テロ」を利用して民主的権利を抑圧
- 2015年 1月 20日
- 時代をみる
- 童子丸開
バルセロナの童子丸です。
WSWS紙に「我が意を得たり」というような記事が出ましたので、和訳してお送りします。
ご拡散いただければ幸いです。
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和訳:WSWS記事
スペイン政府、「テロ」を利用して民主的権利を抑圧
私は1月11日にアップした「和訳:アジア・タイムズ「シャーリー殺しで誰が得をするのか」の中で次のように書きました。
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別に、ここに書かれているような見解に誰でも全て賛同してほしいなどとは思いません。ただ、 全体主義・警察国家化が着々と進められる国に住んでいる者の一人として、現代という時の本当の危機の在り方を分かってもらいたいだけです。現在、警察国家化・管理社会化、すなわち、困窮する「99%」の、「1%」の支配階級に対するあらゆる反対や反乱を、金輪際不可能にする体制作りが、一歩一歩、その度を強めているのです。そしてそれを危惧する声は「自由!」「自由!」の愚かな轟音の中でかき消されてしまう…。
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どうやらスペインの国内情勢を同じように見ている人が他にもいたようです。WSWS(World Socialist Web Site)に次の記事が出ましたので和訳(仮訳)してみました。著者のAlejandro Lópezはスペイン人(あるいはスペイン在住のラテンアメリカ人)でしょう。
http://www.wsws.org/en/articles/2015/01/17/spai-j17.html
Spanish government uses Paris terror attack to clamp down on democratic rights
By Alejandro López 17 January 2015
しかし記事本文の翻訳の前に、この記事に対する的確なコメントを紹介しておきます。ここにある「エル・パイス」はスペイン最大の日刊紙で、一般的には「進歩派」として認識されている新聞(日本でいえば朝日新聞に当たるかな?)ですが…。
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エル・パイスの編集副部長ルイス・プラドスは、フランスでの(シャーリー・エブド)襲撃についての連帯の大規模抗議活動が(スペインで)起こらなかった事実を嘆いている。彼は次のように結論付ける。「結局、スペイン人たちが自由にあまりにも小さい価値を置いているらしいことは、劇的なまでに衝撃的だ」。プラドスは「自由」という言葉を「ファシズム」に置き換えるべきだ。これはきっとフロイド的失言(潜在意識にある願望を露呈するような失言)ではないだろうか。明らかなことだが、そのような「抗議」は、政府が「既成の政党や労働組合の官僚主義によってはコントロールできない大規模なデモを予防し抑圧する」企みをすすめるための「さるぐつわ法」に対する抗議に現われるものだろう。
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実際にスペインでは、連日のようなマスコミの猛烈な「表現の自由」アジテーションにもかかわらず、エル・パイス紙のプラドスが嘆くように、フランスや他の一部の欧州諸国で行われたような「私はシャーリー」デモや「イスラムくたばれ」デモは全く起こりませんでした。この「進歩派新聞」は2004年の3・11マドリッド列車爆破事件でも露骨なネオコン新聞の本性をむき出しにした前例があります。このスペインを襲った「イスラム・テロ」でも、国民の3分の2はスペイン政府と裁判所の公式の説明に納得していません。(この事件に対する私の見方は当翻訳にあるWSWSの見解とは異なっていますが。)その意味でスペイン国民は、時間感覚の欠如した超いい加減でチャランポランな連中なのですが、健全な精神と視点を持っているように思えます。
大多数のスペイン国民にとっては「イスラム・テロ」よりも自国の支配者たちによる「経済テロ」の方が圧倒的に重大なのです。ラホイ政権は「テロの恐怖からの解放!」を大声で叫ぶのですが、「ノンストップ:下層階級の生活崩壊」に曝されている一般国民にとっては、「失業の恐怖」「貧困の恐怖」「飢えの恐怖」からの解放はどうなっているのか?といったところでしょう。
また、以下の記事(和訳)でも紹介されますが、いまスペイン政府は、当サイトのこちらの記事で紹介された「スペイン版治安維持法」とも言うべき「国民保安法」、俗に「さるぐつわ法」と呼ばれる法律を、最終的に成立させようとしています。そして今回の「イスラム・テロ」のために欧州中で警察と軍による圧倒的な監視強化が為される中、スペイン内務相のフェルナンデス・ディアスは大慌てで「我々は民主国家をビッグ・ブラザー国家に変えることはできない」とコメントしました。国民の疑惑の目をよほど恐れているのでしょうが、そんな白々しい言葉、いったい誰に信用されると思っているのでしょうかね?
ちなみに、この連中の言う「民主国家」とは当サイト「シリーズ スペイン:崩壊する主権国家」にあるような「1%のための《民主》国家」です。そりゃ、「変えることはできない」よ、ディアスさん! スペイン政府が「1%」の支配階級を見張るビッグ・ブラザー国家なんか作るわけがない!
なお、WSWS紙については「マスコミに載らない海外記事」様の翻訳による次の記事もあります。(この「エルボ」は「エブド」の間違いではないかと思われます。)
『シャルリー・エルボ襲撃後の“言論の自由”という偽善』 (Word Sosialist Web Site)
2015年1月19日 バルセロナにて 童子丸開
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スペイン政府は民主的権利を弾圧するためにパリのテロ攻撃を利用
アレハンドロ・ロペス 2015年1月17日
先週の日知曜日、スペイン首相のマリアノ・ラホイは、パリで行われたシャーリー・エブドへの襲撃に続く「言論の自由」防衛の官制デモに、他の政府閣僚たちと共に参加した。
彼の参加は偽善の極みであった。ラホイは、ホセ・マリア・アスナール首相(1996-2004)の下で法務大臣としてバスクの二つの新聞を発行禁止にした。いま彼は、民主的権利を弾圧するためにあらゆる機会を利用している右翼国民党(PP)政府を率いる。
PPは最近のシャーリー・エブド襲撃を利用して、二つの法規、国民保安法と刑事訴訟法に新たな修正を加え議会で通そうとしている。ラホイは野党第一党である社会労働党(PSOE)との「トップ会談」を呼びかけて、その修正への合意に達した。
刑事訴訟法573条に対する修正は、「日常的にあるいは定期的に、他の者に対して、結果としてテロ組織あるいはテロ・グループへの参加の決意を促すことを目的とする、あるいはその内容によってその結果を得る文書について、そのオンライン・コミュニケーション・サービスにアクセスしたり、それを要求したり、あるいはそれ所有している者に対して、1年から8年の懲役刑を科する」ことを目的としている。
言い換えると、テロを支持しているというように見なされたウエッブ・サイトにアクセスする者は誰でも刑務所送りになりうるわけだ。
これはPP政府によって刑事訴訟法に加えられる新たな修正の一つにすぎない。他には、襲撃に前もって備えるためのものだが、大規模捜査の合法化がある。警察と治安部隊は、携帯電話とインターネット・コミュニケーションを裁判所の許可なしに傍受すること、インターネットで偽の身分証明を使うこと、盗聴・盗視用電子機器を設置すること、裁判官の同意無しにあるいは弁護士の立会無しに逮捕者のDNAを採取すること、および誰かのコンピューターから情報を取り出すためのソフトウエアをインストールすることが可能になる。このようなことが許される状況は、全ての者に適用されるほどに幅広いものである。
政府はいま、1939から1977まで続いたフランシスコ・フランコ将軍の独裁時代以来で最大の民主主義的権利への攻撃を表わす、一般的に「さるぐつわ法」と呼ばれる国民保安法を通過させつつある。(“Spain passes police state measures”を見よ)
この法はスペイン人の82%から反対されているのだが、既成の政党や労働組合の官僚主義によってはコントロールできない大規模なデモを予防し抑圧するための企みである。
政府はまた、パリの襲撃を利用してこの法律に新たな条項を盛り込もうとしているが、それは内務省が航空機の乗客のデータベースをまとめることを許すものだ。スペインは他の欧州各国と協議しながら、すでに米国やカナダやオーストラリアに存在するものと同様のデータベースを作り上げようとしている。
スペインは2013年以来この法制度を準備しつつあるのだが、欧州議会とつながる市民的自由・司法・内務委員会(the Committee of Civil Liberties, Justice and Home Affairs)の反対のために遅らされていた。この委員会はその法を航空機の乗客の市民的権利に対する侵害と見なしたのである。
新たなデータベースは他の多くの欧州諸国でも取り入れられつつあるが、フライトが予約された日付という現行のパスポート情報より多くのものを含む。乗客の全旅行日程、住所、電話番号とeメール・アドレス、チケットをどのように支払ったのか(現金かカードか)。彼らがどれくらいの頻度で旅行するのか、一人でなのか同伴者がいるのか、預け入れ荷物があるのか無いのか。どの業者がチケットを販売したのか、乗客の搭乗に関する情報、旅行のキャンセル、その飛行機の総座席数。警察はこういったあらゆるデータにアクセスするだろう。
ラホイが言論の自由防衛とかいうことでパリを歩いていたその同じ日に、上級裁判所の判事ハビエル・ゴメス・ベルムデスはスペインの風刺表現者ファク・ディアスに対する刑事告訴を受理したのだが、この告発は国民党の強硬派と密接につながるテロ被害者団体によって為されたものである。
10月に放送された彼のコメディにある3分半の寸劇の中でディアスはバラクラバを被ったバスク分離主義過激派ETAメンバーに扮装したが、その背景にはPP(国民党)のロゴがあった。そうしてその風刺作家は、党が関与する関する何百もの政治腐敗のためにPPが自己崩壊するだろうと告げたのである。
政府はメディアによって助けられまたそそのかされているが、メディアはイスラム嫌悪の雰囲気を煽ぎ立ててこういった反民主主義的な措置の遂行を援助しているのだ。
エブド襲撃犯であるサイードとシェリフ・クアシが立てこもって殺された次の日に、右翼新聞ABCの表紙の大見出しには次のように書かれていた。「フランスは復讐を果たす」。
社会労働党寄りの新聞エル・パイスはこの人種主義キャンペーンに深く関わっている。歴史家のアントニオ・エロルサの書いた記事の中で、彼はパリの襲撃は「帝国主義、侮辱など」とはいっさい関係無かったと述べた。そしてむしろ「我々は、聖戦主義テロリズムはイスラムの聖典に基づくイデオロギーに呼応するものだと認めなければならない」と。
もう一つの論評、作家のバレンティ・プッチによる「イマム(イスラム教聖職者)たちの下にあるカタルーニャの南端」は、イスラム教徒たちを、スペインにその家族を連れて来て公共医療と教育を「過荷重」にしたことと、住宅と学校給食への助成金での過度の肯定的差別(優遇措置)要求で非難した。プッチは語る。「カタルーニャ州政府は、カタルーニャがスペインや大部分の欧州と共有するジレンマを解決するよりは、イスラム教徒移民のカタルーニャ化に精を出してきたということができる。…これは、イスラムの西側世界に対する実質的な宣戦布告であるがゆえに、貧困や社会的な憤りを超えるものである」と。
エル・パイス紙の編集部副部長ルイス・プラドスは、フランスでの襲撃について連帯の大規模抗議活動が(スペインで)起こらなかった事実を嘆いているのだが、彼が言うには、スペインは、昨年エボラ出血熱ウイルスに感染した看護婦の飼い犬の殺害に何千人もの人々が自主的に抗議行動をした国だが、同時にまたテロ攻撃と独裁政治に見舞われた国でもある。彼は次のように結論付ける。「結局、スペイン人たちが自由にあまりにも小さい価値を置いているらしいことは、劇的なまでに衝撃的だ」。
プラドスの主張とは逆に、労働者と若者たちは、いま問題になっている国民保安法に対する大規模抗議行動のような、民主的権利に対する攻撃に反対する積極的な意思を、繰り返して提示してきたのだ。
スペインの労働者たちは、首相ホセ・マリア・アスナールの下でPPが、いかに2004年3月11日のアルカイダの襲撃を利用しようと試みたのかを覚えている。それをETAのせいにすることによって、多くの人々が2003年の米国主導のイラク戦争を支持したアスナールの決定の結果であると見なしたものから注意をそらさせようとしたのである。そのイラク戦争には国民の90%が反対していたのだ。
スペインの外交政策に密接なつながりを持つエルカノ研究所による調査では、中東でのISISに対する戦争にスペインが参加することにはわずか45%が支持するのみである。この研究所の主任アナリストであるフェリックス・アルテアガは、この支持の主張ですら「スペインの戦術的文化の特異性を極めて強く念頭に置くもの」であると認めざるを得ない。その特異性とはすなわち広汎な反‐軍事主義の感情である。
特にエル・パイスは、フランコによるファシズムの独裁時代からブルジョア民主主義への移行期以来の何十年間に自らを進歩主義的な新聞として打ち出したのだが、それを含むメディアによる現行のイスラム嫌悪の 推奨は、資本主義による支配の深刻な危機と、スペインおよび欧州の政治の右傾化を示すものである。
スペインの政治的支配階層は、大規模な排外主義的感情の扇動と、労働者階級に広がる資本主義の危機に対して移民たちをスケープゴートに仕立て上げることに失敗したのだが、この状況を逆転させようと狙っている。24%(若年層では53%)もの失業率と人口の4分の1におよぶ貧困率にがんじがらめにされ、スペイン政府は、労働者階級に更なる緊縮財政を押しつけるための警察国家の手段を合法化する目的で、パリでの襲撃を強引に利用しつつあるのだ。
【翻訳、引用、ここまで】
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2874:150120〕
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