書評「戦争報道論」(永井浩著)─「戦争報道」の在り方を問う力作
- 2015年 2月 2日
- 評論・紹介・意見
- 池田龍夫
「戦争報道論 平和をめざすメディアリテラシー」と題する大著が明石書房から刊行された(定価4000円+税)。著者は、毎日新聞外信部を経て、神田外国語大学で教鞭をとった永井浩氏。ベトナム戦争、イラク戦争を中心に650㌻を超す労作で、既存メディアの問題点を実証的に分析している。
「日本の新聞とテレビがイラク戦争報道に熱中しているとき、世界はグローバル化の進展とともに、既存のメディアが発信するニュースにあきたらないさまざまな情報が国境を超えて駆けめぐる時代になっていた。情報発信の主役は市民であり、武器はインターネットである。世界60カ国で1000万人の市民が同時多発的にイラク反戦デモを繰り広げたのは、この最新メディアのおかげで人類史上はじめて国民を超えて個人同士が自由に、しかも瞬時に情報をやりとりすることが可能となったからである」。
米国の手のひらで踊る日本メディア
「米国中枢部で同時テロが起きた翌朝(日本時間)1991年9月12日付の日本の朝刊各紙には『テロは許さない』を合言葉にした社説が並んだ。・・・ホワイトハウスの手のひらの上で、基本的には米国メディアがお膳立てした曲目とメロディーにあわせて踊る日本のメディアは、米国のアフガン攻撃が必至となるにつれてその軍楽隊の一員となっていく。リチャード・アーミテージ元米国務副長官の『ショー・ザ・フラッグ』(旗を見せろ)発言が報じられると、最も強く太鼓を叩き、勇壮なラッパを吹いたのは、1000万部という世界最大の発行部数を誇る読売である」など、日本メディアの米国追随の姿勢を糾弾している。
規制メディアにあきたらず、永井氏が「日刊ベリタ」を立ち上げたのは2002年6月。以後10余年の「市民メディア」の問題提起は素晴らしい。
大森実氏の「泥と炎のインドシナ」を高く評価
永井氏が、ベトナム戦争報道で活躍した2人の先輩ジャーナリストを称賛しているのが、印象に残る。1人は「泥と炎のインドシナ」で国際報道に新風を吹きこんだ元毎日新聞外信部長の大森実氏。もう1人は日本電波ニュースを創設した柳澤恭雄氏で、北ベトナムからの貴重な映像を送り続けた。大森氏らをベトナム戦場に駆り立てたのは、自分たちの目と耳と嗅覚で戦争現場を確かめたいとの熱意だった。日本の報道のなかで最も光彩を放った活躍だったが、米国側の猛反発によって、大森氏は退職に追い込まれてしまった。毎日側が彼を守りきれなかったことは、日本ジャーナリズムにとって恥ずかしい汚点である。現場主義に徹した大森氏の心意気はさすがで、退職後は米国に移り住み、一ジャーナリストとして多くの著作を残した生涯に一層感銘を深めた。
永井氏が多くのページを割いて大森氏らのジャーナリスト魂を振り返ったのは、現在のイラク戦戦争、アフガン戦争報道の姿勢が気がかりだったからに違いない。米国報道に追随している日本は、一刻も早く独自の姿勢を世界に表明すべきではないか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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