官邸、事前の約束に反し、翁長知事の発言の公開を途中打ち切り
- 2015年 4月 20日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2015年4月19日
突然、「はい、報道は退出」
4月17日に首相官邸で安倍晋三首相と沖縄の翁長雄志知事の初の会談が行われた。そのうち、両者の冒頭発言の模様が当日のテレビ・ニュースで映像入りで伝えられた。しかし、そのうち、翁長知事の発言は伝えられたのがすべてではなかったことが明らかになった。
官邸と沖縄県側の事前の打ち合わせでは、沖縄県側が会談のすべてを公開するよう求めたが、調整の結果、双方の5分ずつの冒頭発言を報道陣に公開することになったという。ところが、当日、安倍首相の発言(2分50秒)に続いて、翁長知事が発言を始めて3分13秒が経過したところで、突然、官邸スタッフが「報道、退出」と指示、以後の翁長知事の発言は非公開になってしまったというのだ。
私が知る限り、NHKも民放全国キー局もこのような事情に一切触れなかったが、沖縄の2紙はこの点をはっきり伝えている。
「知事発言が突然非公開に 官邸が3分で打ち切る」
(『沖縄タイムス プラス』2015年4月18日 07:18)
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=112125
(以下、記事からの抜粋)
「翁長雄志知事と安倍晋三首相の初会談で、官邸側は沖縄県側と約束した知事の冒頭5分の発言時間を打ち切る形で切り上げ、知事の発言途中で報道陣を退室させた。県側は事前に5分ずつと約束しており「あれはルール違反」(県幹部)と不満の声も出ている。
報道陣に公開された会談冒頭は約6分。・・・・知事が発言メモ4枚のうち2枚目を読み上げたところで、官邸スタッフが「報道、退室」と指示。公開された知事の発言時間は3分13秒だった。
県幹部によると、会談の事前調整で県は会談を全部公開するよう求めたが、調整の上、会談は30分で冒頭5分ずつの発言を公開すると約束。発言順は知事が先だったが、17日朝に官邸側が「総理から」と変更を申し入れ、発言時間は「5分ですよ」と念押しがあったという。 ・・・・・
発言を事実上阻まれた格好になった知事は会談後、非公開になった発言内容を記者団に紹介、発言メモも報道各社に配るよう県職員へ指示した。辺野古新基地反対の知事メッセージを警戒し、メディアに「画」を撮られないよう官邸側が意識したのではないかとの指摘も上がっている。」
『琉球新報』は18日の紙面で、双方の冒頭発言の全文を掲載し、翁長知事の発言の途中で、「はい、報道は退室-と官邸スタッフが打ち切る」という説明書きを挿入したうえで、「非公開部分」と断って、それ以降の翁長知事の発言も掲載した。
翁長知事・安倍首相会談全文(冒頭発言)
(『琉球新報』2015年4月18日 07:00)
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=112136
(以下、一部、抜粋)
「翁長雄志知事(3分13秒)
・・・・そして政府は今、普天間飛行場の県外移設という公約を、失礼な言い方かも知れませんが、かなぐり捨てた前知事が、埋め立てを承認したことを錦の御旗として、辺野古移設を進めておられますが、昨年の名護市長選挙、沖縄県知事選挙、衆議院選挙は前知事の埋め立て承認が争点でありました。
全ての選挙で辺野古新基地反対という圧倒的な民意が示されたわけであります。沖縄は自ら基地を提供したことは一度もございません。普天間飛行場もそれ以外の基地も戦後県民が(捕虜)収容所に収容されている間に、(土地が)接収された。または居住場所をはじめ銃剣とブルドーザーで強制接収され、基地造りがなされたわけであります。
自ら土地を奪っておきながら老朽化したから、世界一危険だから沖縄が負担しなさい。嫌なら代替案を出せと言われる。こんな理不尽なことはないと思います。
(はい、報道は退室-と官邸スタッフが打ち切る)
■非公開部分
翁長雄志知事 安倍総理が2度目の政権を担ったとき「日本を取り戻す」という言葉がありました。私はとっさにそこに沖縄が入っているのだろうかと思いました。戦後レジームからの脱却ともおっしゃってましたが、沖縄に関しては戦後レジームの死守をしているかのようであります。
安倍総理にお聞きしたいと思います。ラムズフェルド米国防長官が12年前、普天間基地は世界一危険な基地だと発言し、菅官房長官も普天間の危険性除去のために辺野古が唯一の解決策とおっしゃっております。辺野古基地ができない場合、本当に普天間基地は固定化されるのかお聞かせ願いたいと思います。
普天間飛行場の5年以内の運用停止について、仲井真弘多知事は県民に対し「一国の総理および官房長官を含めて政府としっかりやるとおっしゃっている。それが最高の担保である」と説明していました。
5年以内の運用停止は、きょうまでの状況を見ますと、辺野古埋め立て承認というハードルを越えるための空手形ではないかと危惧しているところです。総理ご自身から5年以内運用停止を約束できるかお聞きしたいと思います。
私は沖縄にある米軍基地や米国政府の責任者から、辺野古の問題は日本の国内問題だとよく言われます。
われわれ県民から見たら、米軍基地の運用について日本政府がほとんど口を挟めないことをよく知っていますから、辺野古の問題についても、県民からは実感として、県民と米軍、県民とアメリカ政府との問題だとも思えます。
ですから、私も近いうち訪米をして県民の思いを米国政府、シンクタンク等さまざまな方々に訴えようと思っています。
このまま政府が地元県民の理解を得ることなしに辺野古埋め立てを強行するようであれば、私は絶対に辺野古への新基地を造らせないということを改めて申しあげたいと思います。
安倍総理には、かたくなな固定観念に縛られず、まずは辺野古への移設作業を中止することを決断され、沖縄の基地固定化の解決・促進が図られることを期待しております。訪米した際には、オバマ大統領へ沖縄県知事はじめ、県民は、辺野古移設計画に明確に反対しているということを伝えていただきたい。よろしくお願いします。」
誰に向かって言う言葉か
官邸、自民党はこのところ、報道機関にあれこれの注文をつけたり、報道機関の幹部を呼びつけて、個別の番組の編集のあり方に干渉したりする発言を繰り返している。挙句は放送界が自主的な番組検証機関として設置した「放送倫理・番組向上機構」にまで非難の矛先を向け、「BPOは全然透明性がない」と非難し、今後、BPOのあり方も問うていくとしている。
「自民党、テレ朝「報道ステ」をBPOに申し立て審理求める考え」
(FNN 2014月17日 18:59)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00290539.html
政府・与党はメディアがもっとも注視すべき監視の対象である。そのメディアを政府・与党が監視しようなどと言うのは本末転倒であり、言論の自由と自立を根本原理とする民主主義国家の成り立ちのイロハをわきまえない傲慢不遜な態度である。
「透明性」というなら、事前の了解を反故にして、沖縄県知事の発言の途中で報道陣を退出させ、翁長知事の発言の模様を国民の目から遮蔽した官邸の姑息なやり方こそ、「透明性」に背く恥ずべき行為である。
本土のメディアは、権力の監視を自らの使命と言うなら、こうした官邸の姑息な振る舞いを毅然と調査し、国民に伝えるべきである。
初出:醍醐聰のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
[eye2964:150421〕
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