「貧しい国」ニッポン、世界戦争の足音が聞こえる!
- 2015年 12月 11日
- 時代をみる
- 加藤哲郎政治
2015.12.10 しばらくぶりの更新です。オーストラリアに行ってきました。日本の旅行社特約ホテルのwifiは、24時間10豪ドル(約1000円)とうたっていましたが、一回切れるとまた10ドルの請求が出る欠陥システム、メールチェック中心の最低限の使用にとどめました。オーストラリアは、かつて本ネチズンカレッジ客員名誉教授故ロブ・スティーヴンのいた国で、1990年代に何度か訪れましたが、ロブが2001年に早逝して以来、その墓参にシドニーに行っただけで、15年ぶりでした。大きな違いは、まずは物価の高さでした。いや正確には、円安による日本円の海外での弱さです。オーストラリア経済が大きく良くなったわけではないですから、日本経済の沈没が実感されます。日本経済の救世主のようにいわれる中国・中産階級の「爆買い」は、何も日本に限られたものではありません。かつて日本の観光客であふれていたオーストラリアのスポットは、中国人でいっぱいでした。もともとチャイナ・タウンのあったシドニーで、ジャパンの存在感は薄くなる一方です。ちょうど1年前に、シドニー中心部でIS関連とみられた人質立て籠もり事件が起きましたが、パリのような厳重な警備はみられません。イスラム諸国からの移民や難民も住み着いて、よく街でもみかけますから、テロへの戦いには、ISへの報復爆撃よりも、日常生活をきっちり守り続けることの方に、意味がありそうです。
日本についての情報は、一日一回Google Newsを覗く程度でしたが、外から見ると、この国の日常生活が根底から覆されるような、市民社会の脆弱性・劣化が目につきます。かつて1990年代に、オーストラリアのロブ・スティーヴンと共に、『日本型経営はポスト・フォード主義か』の国際論争を組織した際、私たちの念頭にあったのは、日本における労働組合・労働者政党の弱さであり、過労死・過労自殺に対する社会的バリケードの欠如でした。その際、一つの鏡にしたのが、オーストラリアの労働党政権と労働者の権利・福祉でした。高度成長からバブル経済期に諸外国からもてはやされた「日本の成功」は、家族や地域社会を犠牲にしての企業社会への奉仕・埋没、自由時間や人権を切り詰めた物質的豊かさ、総じて「ポスト」どころか「ウルトラ」なフォード主義ではないか、と問題提起しました。それからロブの死と同じ時期に、世界経済のグローバル化、日本的経営の終焉と非正規雇用・不安定雇用の激増、それに隣国中国の「世界の工場」化という劇的な変化がありました。家族の崩壊と個人化、地域社会の高齢化と孤立が、いっそう進みました。オーストラリアは、北欧のような福祉大国ではありません。でも最低賃金や健康保険・年金制度などでは、日本よりもはるかに権利が守られており、豊かな自然環境の中で、まだ多文化共生社会が生きています。異国で痛感するのは、日本の「貧しさ」です。米国のみに頼り軍事化する国家、萎縮して偏狭なナショナリズムに染まる社会です。戦争法案強行採決からまだ数ヶ月で、安倍内閣支持率は急速に回復し、40−50%の水準に戻りました。オーストラリアの友人が言うように、異様です。
もっともこれは、日本のみの問題ではなく、グローバル市場経済に浸食され、格差が拡大した、地球社会全体の転換期でしょう。人権宣言発祥の地、自由・平等・友愛のフランスが「対テロ戦争」の名で戦争状態に。かつて「人種のるつぼかサラダボールか」といわれたアメリカで、共和党の大統領選最有力候補がイスラム教徒入国禁止の暴言。いたるところで、社会が壊れています。核兵器も原発も廃絶できぬままで、第3次世界大戦の接近が、体感できるようになりました。シドニーの国際会議で私が報告したのは、10月に日本で講演した「戦争の記憶:ゾルゲ事件、731部隊、シベリア抑留」の英語版。特に731部隊と近代科学技術の問題を、日本が抱える東アジア歴史認識の一つの焦点として、強調してきました。その滞在中に、本サイトについての新たな問題。本トップページほか、主要ページの扉を入れてきた日本のIT・インターネット業界の老舗、IIJ4Uが、来年春には、ホームページ提供事業から撤退するとのことです。シャープの液晶テレビ、東芝の白物家電と似た、旧型ビジネスモデルの再編・縮小のようです。メール・アドレスは、IIJmioをプロバイダーとして引き続きそのまま使えるとのことですが、本サイトの設計も、やり直さなければなりません。次回更新を、12月15日ではなく、2016年1月1日に設定して、データベースを含む大移動に取り組みます。1−3月は、これまでのブックマークでもアクセスできますが、新トップページに飛ぶように、組み替えます。リピーターの皆様には、大変ご迷惑をおかけしますが、なにとぞご容赦ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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