テロと核で明けた新年、恒久平和の夢に向かって!
- 2016年 1月 16日
- 時代をみる
- 加藤哲郎安倍
2016.1.15 新年にあたって、本「ネチズンカレッジ」のトップページを新サイトに移転しましたが、内部のリンクなどで、つながらない場合もありえます。しばらくご不便をおかけします。その新年は、パリ、イスタンブールからアジアのジャカルタへとテロの波が東に広がり、北朝鮮は、自称水爆実験という暴挙、厳しい時代を予感させます。安倍首相は、北朝鮮の挑発に応えるがごとく、国家機密法・戦争法案から参院3分の2議席獲得=改憲への道を公言、それなのに内閣支持率は50%まで回復、不吉な戦後71年目の船出です。いやひょっとすると、すでに戦前というべきかもしれません。20世紀の第一次世界大戦は、1914年6月28日に、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子が暗殺されたサラエボ事件を契機に、7月25日にオーストリアとセルビアの断交、28日に宣戦布告、それにオーストリアと同盟を結ぶドイツが参戦し、8月にロシアとフランスに宣戦、それを見てイギリスは8月4日に対独連合に加わり、2ヶ月ほどかけて世界戦争に広がりました。日英同盟の日本は、イギリスの要請で8月23日に対独宣戦布告。当時の軍事同盟網が、敵の敵は味方、友の友は友、と芋づる式に世界大戦へと展開しました。そんな一触即発の火種が、いま、世界中に満ち満ちています。
安倍内閣の高支持率は、経済政策=アベノミクスへの期待からとか。本当はオルタナティヴな野党がない消極的支持でしょうが、選挙と世論調査では経済政策で支持を集め、政権に就き安泰とみるや危険な安保・外交政策、歴史認識まで追認された、と開き直るパターンです。安倍首相が、内閣支持率と共に毎日チェックするという株価が、新年早々変調です。夏には参院選ですから、内心では冷や冷やしているでしょう。でも、これは世界的動きで、いまは中国経済の不透明と原油価格低迷が、グローバル資本主義のカジノ金融市場への資金の流れを誘導しています。日本は、グローバル資本の投機と逃避の、あくまで一時的な落ち着き先。今年のアメリカ大統領選挙、難民問題で揺れるEU、中国とインドの成長の行方のほか、サウジアラビアとイラン・ロシアの関係、ISと周辺部族・宗派の憎しみの連鎖も、大きな戦争の火種です。21世紀は、経済と政治・軍事が連動し、最新科学技術と投機マネーの情報が小さな火種を大きな武力衝突に増幅しかねません。それをコントロールする、アメリカ風「世界の警察官」ではない地球政治が求められているのですが、残念ながら、国連も国際機関も、いくつもの火種をその都度調整・火消しするモグラたたきを、繰り返しています。それが無駄だというのではありません。むしろ緊張緩和と、武力紛争を局地化・冷却化する努力が求められます。「恒久平和」は、日本国憲法だけの理想ではありません。グローバル世界市場とインターネット情報戦の時代には、世界のすべての地域で、民族・宗教・イデオロギーを超えた「平和に生きる権利」が切実なものになります。
年度末の試験や採点で忙しい時期ですが、1月23日(土)と30日(土)に、異なるテーマでの講演をすることになりました。私たちの歴史認識に関わる点では、共通していますが。一つは、戦前日本の実力者後藤新平の孫、鶴見和子・俊輔の従兄にあたる演出者・佐野碩を多角的に論じた、菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』(藤原書店)の刊行を記念する、1月23日の桑野塾第36回公開講演会。日本でのプロレタリア演劇運動の出発から、ソ連でのスタニスラフスキーとメイエルホリドからの吸収、亡命先メキシコで「メキシコ演劇の父」とよばれながらも、一度も日本に戻ることなく異郷で終えたコスモポリタンな生涯を、国際的・学際的に研究した決定版で、菅孝行さんの「『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』について」、吉川恵美子さんの「メキシコの佐野碩研究―現状とこれからの課題」と共に、私も「『赤い貴族』の時代と佐野碩の『転向』」を報告します(午後3時から6時、早稲田大学 早稲田キャンパス 16号館5階506号室)。もう一つは、1月30日(土)の早稲田大学20世紀メディア研究所の100回記念公開研究会(午後2時30分、3号館404号室)。川崎賢子(日本映画大学教授)さんの「李香蘭研究の新視角–証言と資料の再読から」、土屋礼子さん(早稲田大学政治経済学術院教授)の「占領軍通訳翻訳部(ATIS)とG-2歴史課」と共に、加藤哲郎(早稲田大学大学院政治学研究科客員教授・一橋大学名誉教授)「シベリア抑留とプリンス近衛文隆の死ーー『異国の丘』『夢顔さん』の実像」という学術報告を行います。昨年10月の講演記録「戦争の記憶:ゾルゲ事件、731部隊、シベリア抑留」のうち、「シベリア抑留」の部分の、米国国立公文書館資料「近衞文隆ファイル」等を使っての再論ですが、劇団四季のミュージカル「異国の丘」、西木正明さん『夢顔さんによろしく』、工藤美代子さん『近衛家 7つの謎』などのファンの皆さんには、新知見となるでしょう。こちらは、昨年12月オーストラリアでの第9回ゾルゲ事件国際シンポジウムの英語報告「ゾルゲ事件と関東軍731部隊」の延長線上にあるものですが、この国際シンポジウム参加記が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第45号に掲載されると同時に、ウェブ上では「ちきゅう座」サイトに転載され、すでに公開されています。ブランコ・ヴケリッチというゾルゲ事件被告と、その妻エディット、長男ポールの流浪の物語で、上記講演には直接関係しませんが、75年前の国境を越えた「恒久平和の夢」と関わります。ご関心の向きは、こちらもどうぞ。本年も、よろしくお願い申し上げます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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