宮城県の民共政策協定を全国へ
- 2016年 3月 25日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2016年3月25日
宮城県での画期的な民共政策合意
3月2日、民主党宮城県連と日本共産党宮城県委員会は定数1となった今夏の参議院宮城選挙区の候補者を民主党現職の桜井充氏に一本化することで合意した。私が注目するのは候補者1本化にあたって両党が交わした以下のような6項目の「政策協定書」である。
政策協定書
(1)立憲主義に基づき、憲法違反の安保関連法廃止と集団的自衛権行使容認の
7. 1閣議決定の撤回を目指す。
(2)アベノミクスによる国民生活の破壊を許さず、広がった格差を是正する。
(3)原発に依存しない社会の早期実現、再生可能エネルギーの促進を図る。
(4)不公平税制の抜本是正を進める。
(5)民意を踏みにじって進められる米軍辺野古新基地建設に反対する。
(6)安倍政権の打倒を目指す。
民主・共産、政策協定調印式(ニュース録画)
https://www.youtube.com/watch?v=ss3fMgYdRHw
(2016年3月2日、FNN Local)
なぜ、私はこの「政策協定書」に注目し強い賛意を表すのか? 私は無力を承知で、昨年12月15日に野党5党の党首宛てに次のような要望書を提出した。
「目下の重要課題を共通公約に掲げた選挙協力を」~来年の参議院選に臨む野党各党への要望書~
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/yobosho_yato_toshu_ate20151215.pdf
要望書の骨格は、野党の選挙協力の前提となる政策合意を「安保関連法の廃止」に絞るのではなく、
2. 移設条件なしの普天間基地閉鎖、辺野古基地建設阻止
3. 出口がふさがった原発再稼働は認めない
4. 税制・財源に関する具体的対案
も含めるよう求めるというものだった。その時アップしたブログ記事に、それぞれの項目、特に4について肉付けした説明を書いているので、ご覧いただけると幸いである。
「参議院選挙の共通公約について野党党首に要望書を提出」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-4299.html
今回の宮城県での民共両党の政策協定書は、私も要望した安保関連法廃止からさらに踏み込んで「集団的自衛権行使容認の7. 1閣議決定の撤回を目指す」と明記しているのはたいへん意義深い。「安倍政権の打倒を目指す」が協定書に入っているのも合意の基礎を固める上で意義深い。
と同時に、安保関連法廃止に加え、私も強く要望した「辺野古新基地建設反対」、「不公正税制の抜本改革」も含まれていることにむろん賛同する。さらに、私が、野党間の合意可能性を考慮して、「原発再稼働を認めない」とした点について、再稼働反対からさらに踏み出して、「原発に依存しない社会の早期実現、再生可能エネルギーの促進を図る」と謳ったのは貴重な合意であり、強く支持したい。
また、民共両党の政策協定の2つめの「アベノミクスによる国民生活の破壊を許さず、広がった格差を是正する」も時宜にかなった合意であり、今後はその具体化が求められる。
宮城県の「政策協定」を全国へ、全野党間へ
日本共産党の中島康博県委員長は、「政策協定」調印式の場で、「安倍内閣が締結しようとしている環太平洋連携協定(TPP)には反対」、「安倍内閣が進める消費税10%への増税に反対」の2点を、今後の政策協議の中で検討することを求めていくと発言している。
私は既成の6項目だけでも大きな意義があると考えるが、さらにこれら2点が合意に加わるなら、いっそう価値ある政策協定となる。かつ、それは、選挙時の政策協定にとどまらず、今後の政権構想を協議する時の土台にもなると思われる。
維新の会と合流して民進党となった旧民主党が当面は宮城県レベルで、この「政策協定書」を誠意をもって実行することが求められる。
と同時に私が強く要望したいのは、この6項目(ないしは8項目)の政策合意を宮城県にとどめず、また、民主党・日本共産党2党間にとどめず、①全国化すること、②全野党の合意に広げること、である。
今回の宮城県における民主・共産両党の6項目の政策協定は、どれも宮城県に固有のものではなく、全国の選挙区、ひいては国政レベルにも当てはまるものであり、各地域、各党間で合意が可能なものばかりである。なによりも各地の市民団体、野党各党に要望したいのは、宮城県での先駆的な政策合意を全国に、全野党間に広げる努力である。
問われる税制改革の中身
なお、今回の宮城県での政策協定の4番目の「不公平税制の抜本是正を進める」は、2番目の「アベノミクスによる国民生活の破壊を許さず、広がった格差を是正する」という政策を実行する上での財源確保という意味を持っている。多くの国民は野党が掲げる格差是正、社会保障の充実という公約に共感は持っても、直ちにそれが野党支持につながらない最大の壁は「財源の目途があるのか」という疑問である。
この疑問を解消するためにも、「不公正税制の抜本的是正」という政策合意の中身を具体化することが不可欠である。そこで私は、
①消費税10%への引き上げの(延期ではなく)撤回
②法人税減税の中止、当面、安倍政権下で進められた不合理な法人税率引き下げをもとに戻す(40.69%→32.11%)、それによって約4兆円の税収を確保する、
という税制改正案を提案してきた。
①の消費税10%への引き上げは、景気低迷の中、安倍政権もためらいを見せているが、10%への引き上げ「延期」ではなく、「撤回」が重要である。でないと、不公正税制の根は残るばかりでなく、個人消費底上げの効果も乏しくなる。
しかし、①だけでは、「穴が開いた財源をどうするのか」という議論が起こるのは必至である。そのような議論に備えるためにも、②を①と併せて政策合意する必要がある。
ただ、さらに言うと、消費税率を8%に据えおくことによって税収見込みは4.4兆円ほど減少する。これをまかない、かつ今後も増加していく社会保障財源を確保するには、別途、規模の大きな税収が必要となる。
留保利益税の創設に向けた議論を
そうした財政需要面からのニーズと不公正税制の税制という面からの要請を共に満たす税制改革案として、私が提案しているのは、約343兆円(金融・保険業を除く全規模の法人計、2015年度第一四半期末現在)に上る留保利益への課税である。提案の骨子は、資本金1億円以上の法人が保有する留保利益に当面2%の税率で課税をするというものである。この提案でいくと当面、約5.4兆円の税収を確保できる。
留保利益課税の根拠、二重課税論への反論など詳細は、日本科学者会議東京支部『個人会員ニュース』No.106、2015年12月10日発行、に寄稿した次の拙稿をご覧いただけるとありがたい。
醍醐 聰「留保利益課税の提案」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/ryuhoriekikazei_no_teian.pdf
企業が労働分配を抑え、低賃金の非正規雇用を増やしながら、内部留保(留保利益)を増やし続ける現実について、麻生財務相も「守銭奴」と批判し、安倍首相もたびたび経団連首相を呼んで、賃投げに回すよう要請した。しかし、企業業績が堅調に推移している今春闘でも賃上げは低迷した。
そもそも労使の賃金改定交渉に政治が介入することに問題があるばかりか、政府の要請が実効性を持つ保証はどこにもない。また、給与は年々の税引き前の企業利益を算定する手前で差し引かれる費用であって、その大小・変動は税引き後の利益の累積額である留保利益を減じるものでもないし、留保利益の活用を意味するものでもないことは会計学のイロハである。
留保利益の活用というなら、直截に留保利益を課税対象とした法人税の補完税(過去の不公正な税制・社会保険料負担・労働分配などによって適正に課税されなかった企業利益に対する補完税)を課し、それによって増加した税収を社会保障財源などに充てるのがもっとも適正で公正な税制である。この点を政府、野党を問わず、熟慮されるよう強く求めたい。とりわけ、現政権に代わる政権を目指す野党には強く検討を要望したい。また、この留保利益課税は、理解さえ行き届けば、多くの国民の支持を得ることが十分可能な税制だと私は考えている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3352:1603125〕
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