バラク・オバマは広島へ何しにくるのか(3) ―戦後を水に流す日本が見える―
- 2016年 6月 8日
- 時代をみる
- 半澤健市
バラク・オバマ米大統領の広島訪問は2016年5月27日に終わったのだから「何しにきたのか」とするのが正確であろう。しかし「続きもの」だからタイトルは変えない。
予想どおり私は失望した。オバマの言動と日本側の歓迎一色の双方にたいしてである。
《「だまし討ち」論では原爆投下を正当化できない》
広島、長崎への原爆投下を非難する日本人に対して米国人は、真珠湾「だまし討ち」への報復だと言って正当化し、それに対して日本人は沈黙する。
本当に「だまし討ち」だったのか。それは自明ではない。
近年の傑作小説『東京プリズン』(河出書房新社)の著者赤坂真理は、『愛と暴力の戦後とその後』(講談社現代新書)に次のように書いている。(■から■まで)
■ちなみに、アメリカ人の正義の旗印とされた「真珠湾だまし討ちしたんだから日本が悪い、『リメンバー・パールハーバー』だけれど、当のGHQが主宰した極東国際軍事裁判(東京裁判)で、「だまし討ちではない」という判決が出ている。「だまし討ち」の論拠は、「宣戦布告から攻撃まで時間をおかねばならない」というハーグ条約の取り決めの中にある。だけれど、その条約に「どのくらい時間をおく」という記載がなく、「条約自体に構造欠陥がある」とみなされたため。■
真珠湾攻撃より早く、日本陸軍は英領マレー半島のコタバルに上陸した。英国首相W・チャーチルは、在英日本大使へ送った手紙に「十二月七日夜、日本軍が宣戦も布告せずにマレー半島に上陸し、シンガポールと香港を爆撃したことを、イギリス政府は知りました」と客観的に表現している(『第二次大戦回顧録』)。寡聞にして英国から、コタバル「だまし討ち」という非難を聞いたことがない。
《政治情勢論に対峙する原則論の強さ》
かりに「だまし討ち」だったとしても、その作戦はハワイの軍事施設攻撃に限定されていた。原爆という無辜の人々を大量・瞬時に殺害する兵器の正当化には論理の飛躍がある。私が過去二回述べてきたオバマの謝罪必要論は、核兵器が絶対悪であるという素朴な戦争観から出たものである。毒ガスが禁止されていて原爆が埒外だという法はない。
メディアに出たオバマ歓迎論は、殆どが政治情勢または外交情勢論であった。ドレイの論理に等しい発言が多い中で、私が同感したのは田中利行広島市立大元教授(『東京新聞』2016年5月18日)と、平岡敬元広島市長の発言だ。ここでは平岡発言を紹介する。
彼はどう言ったのか。オバマ訪広前の発言だが、今でも全く意義をうしなっていない。2016年5月17日の『琉球新報』のインタビューから抜粋して以下に掲げる。(■から■まで)
■「広島市と広島県、政府も謝罪を求めないとしているが、そう発言するのは死者の声と被爆者の苦しみに向き合っていないからではないか。そう発言した彼らにとっては、被爆がすでに歴史になっている。謝罪問題を素通りして、ただ来てほしいというのは、原爆で亡くなった死者への冒涜だ」。
「謝罪を表明するのは外交上、難しいだろう。ならば原爆慰霊碑の前で、そこに書かれていること、つまり『過ち』を認めるべきだ。『あの投下作戦は間違っていた』と。過ちでない正しい行為であったとするなら、再び核兵器を使ってもいいということになりかねない」。
「被爆地は正当化論を絶対に認められない。そして力による平和も認められない。平和は核抑止論でなく外交力に頼るべきだ。特に近隣外交だ。日本は戦争のできない国。原発をこれだけ抱えて戦争できると思う方がナンセンスだ」。
「米国は(原発を)手放したくないという。力による平和を信奉しているからだ。(略)核を放棄できない。これでは、北朝鮮と同じ論理ではないか。オバマ氏は被爆者と向き合い、核廃絶へ向け具体的に何をするのかを示してほしい」。■
《「水に流す」同調圧力は我々をどこへ連れて行くのか》
ところで、世論調査によればオバマ訪広歓迎が98%だったという。
私はこれにも驚いた。ただ一人、評論家の東谷暁が、文化放送のニュース番組(2016年6月5日)で、「私(東谷)は謝罪なしの訪広にはオバマ反対だった。その意味では私は2%に属する」という発言をしていた。
いまこの国に起こっている状況は、「済んだことは水に流す」という我々の精神が、自己表現をしているのではないか。私には異様に見えるこの状況は、戦後日本の道程を正確に再現し同時に先を見通しているのではないか。核の傘に依存した「平和国家」が、自ら核で戦う「戦争国家」に変身してゆく。その国家は廊下の右奥に立っている。(2016/06/06)
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