「法学セミナー」に、特集「スラップ訴訟」-「DHCスラップ訴訟」を許さない・第79弾
- 2016年 9月 13日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
本日(9月12日)発売の「法学セミナー」(日本評論社)10月号が、「スラップ訴訟」を特集している。弁護士・学者・ジャーナリストが執筆した、計9本の論文から成っている。
私が、総論として「スラップ訴訟とは何か」を書き、以下各論が充実している。事例紹介、言論への萎縮効果、アメリカでの反スラップ法の紹介、名誉毀損訴訟の理論的検討、スラップ提起を不法行為とする判例枠組みの再検討、そしてスラップ抑止・救済のあり方、立法論の検討まで、充実した特集となっている。
執筆者の一人、紀藤正樹さんは、「ついにいろいろな方々の協力を得て、ここまでこぎつけました。今月号の法学セミナーの『スラップ訴訟』特集。是非お読みください。現時点の日本での最高峰の議論はできていると思います。」と宣伝に努めている。
言論の自由を大切に思う方、民事訴訟制度のあり方に関心をお持ちの方に、是非ご購読いただきたい。定価は税込1512円(本体価格 1400円)、お申し込みは下記URLから。
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazines/latest/2.html
特集の冒頭に、編集部の次のリードがある。
「日本においてようやく認知され始めたスラップの定義、実態、弊害を整理して紹介し、アメリカの反スラップ法を参考に日本における抑止・救済策を整理し、今後の議論を展望する。」
内容は以下のとおり。
Ⅰ スラップ訴訟とは何か……澤藤統一郎
Ⅱ 事例紹介
1 武富士事件スラップ訴訟……新里宏二
2 伊那太陽光発電スラップ訴訟……木嶋日出夫
Ⅲ 恫喝訴訟と言論萎縮効果……三宅勝久
──高額損害賠償請求の「恫喝訴訟」による企業批判のタブー化
Ⅳ スラップ訴訟、名誉毀損損害賠償請求訴訟の現状・問題点とそのあるべき対策(立法論)……瀬木比呂志
Ⅴ アメリカにおける反スラップ法の構造……藤田尚則
Ⅵ 昭和63年判例(最三小判昭63・1・26)の再検討……小園恵介
──抑止・救済のための法的課題の検討1
Ⅶ 日本の名誉毀損法理とスラップ訴訟……佃 克彦
──抑止・救済のための法的課題の検討2
Ⅷ スラップ訴訟の外縁から見る抑止・救済の法的課題の検討……紀藤正樹
──抑止・救済のための法的課題の検討3
上記の各タイトルの内、「Ⅵ 昭和63年判例の再検討」だけが、やや呑み込みにくい。これは、スラップ提起への対抗策として、提訴自体を不法行為とする損害賠償請求反訴(または別訴)の認容要件についての再検討である。この「昭和63年判例」は、「訴えの提起が不法行為にあたる場合」のリーディングケースとなっているが、事案は言論の自由に関わるものではなく、不動産取引に関する提訴である。この判例の判断枠組みを、言論の自由を意識的に攻撃するスラップ訴訟に、そのまま当てはめることの不当と、再検討の必要を論じたのがこの論文。
法律雑誌にこのような特集が組まれることは、スラップの横行が社会悪として看過し得ない事態に至っていることを示している。スラップ被害回復とスラップ阻止、そしてスラップ廃絶への大きな一歩というべきだろう。スラップ常連企業には、こころしていただきたい。
各論文は雑誌をお読みいただくとして、ご購読の意欲喚起のために、私の論文の「結びに」の一部を抜粋してご紹介しておきたい。
「かつては、社会にも訴訟関係者にも不当訴訟の提起を許さない雰囲気があった。真っ当な弁護士なら、民事訴訟をこのような不当な手段には使わないという黙契があった。いま、企業も政治家もスラップ提起に躊躇なく、またスラップ訴訟提起を受任して恥と思わない弁護士が増えてきている。」
「スラップ訴訟は敗訴を重ねているが、その威嚇効果の有効性を否定し得ない。立法措置を展望しつつ、法廷では個別の案件でスラップに成功体験をさせない努力の積み重ねが必要だが、それだけではない。スラップという用語と概念を世に知らしめ、スラップ提起を薄汚いこととする常識を定着させなければならない。スラップ提起者のイメージに傷がつき、ブランドイメージや商品イメージが低下して、到底こんなことはできないという社会の空気を醸成することが重要だと思う。法制度の設計も運用も、社会の常識と離れてはあり得ないのだから。」
(2016年9月12日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.09.12より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=7445
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye3647:160913〕
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