いいところもあるのだが ――日本共産党第27回大会決定についての感想
- 2017年 2月 3日
- 評論・紹介・意見
- 共産党阿部治平
――八ヶ岳山麓から(211)――
はじめに
共産党は、私がただひとつ応援している政党である。今は亡き親友のKは生涯をこの党のためにささげた。だから私はどうか頑張ってほしい、という思いで第27回党大会決定を読んだ。
だしぬけで申し訳ないが、共産党のいう社会主義とはどんなものか、私にはよくわからない。1990年前後、ソ連・東欧が崩壊した。それまでソ連を社会主義だといってきたのに、ときの指導者宮本顕治氏は「ソ連崩壊は大歓迎」といい、その後共産党は、「ソ連は社会主義ではなかった」といいだした。じゃ、以前社会主義だといったのはどういう理由なのか?説明もなければ反省もない。
わたしが「共産党のいう社会主義は計画経済か、プロレタリア独裁はやらないのか」などと問うと、Kは「我々は未来社会のこまかな青写真は描かない」と150年ほど前マルクスがいったようなことをいった。
私はKに、生産手段の社会化だの、中国やベトナムやキューバは市場経済を通して社会主義に進むなど、わかりにくいことをいわないで、「北欧型をモデルにして、それよりもっと高度の福祉国家が社会主義だ」としたらどうかといった。それなら誰でもわかりやすいから、国民の支持も得られて、国会で多数をとることができる。共産党のいう民主改革の道も開ける。
彼は「それじゃ資本主義じゃないか。共産党を名乗る意味がない」といった。我々の知識ではこれ以上のことは議論できなかった。――社会主義とは何かについて共産党にご教示を乞う。
経済政策は観念的で空想的である
共産党は、資本のグローバリズムに抵抗しようとしていない。
大会決定は「いま問われているのは、『自由貿易か、保護主義か』ではない。『自由貿易』の名で多国籍企業の利潤を最大化するためのルールをつくるのか、各国国民の暮らし、経済主権を互いに尊重する公正・平等な貿易と投資のルールをつくるのかである」という。
自由貿易とはグローバル資本が国際的に自由に貿易をやることである。だからグローバル資本はトランプの言動に保護主義を見出して右往左往するし、中国の習近平だって中国資本を代弁して自由貿易をとなえるのである。
ところが共産党は、強者の論理である資本のグローバリズムを問題にしない。アメリカ民主党の大統領候補選挙で健闘したサンダース議員はグローバル資本の海外移転を抑制する法制定を主張し、「海外移転の時代は終わり、代わりに国内で良質な雇用を復活させるときだ」といって労働者・若者の支持を得た。トランプ氏はこれを彼なりに捉えて、目立つことばで宣伝を展開し大統領になった(サンダースがクリントンに勝利した州では、本選挙のときトランプが勝利している)。
また「大企業と中小企業、大都市と地方などの格差を是正」する。そのために、中小企業を「日本経済の根幹」に位置づける。そして「中小企業の商品開発、販路開拓、技術支援などの『振興策』と、大企業・大手金融機関の横暴から中小企業の経営を守る『規制策』を『車の両輪』としてすすめる」という。
また「地域振興策を『呼び込み』型から、地域にある産業や企業など今ある地域の力を支援し、伸ばす、『内発』型に転換する」という。
饅頭の皮は左派だが、あんこがない。日本の産業の中心である大企業を無視して、どうやって中小企業の振興をはかるのか、どうやって地域格差をなくすのか、どうやって大資本と中小企業の格差を是正するのか。
大資本は中小資本を引き連れて、海外に低賃金労働力をもとめて移転していった。その結果、各地に「産業の空洞化」が起き、90年代からは不安定雇用の増大、労働条件の悪化、年金・医療・生活保護の増大による福祉制度の危機などが現れた。
地域産業を「内発」型にするといっても、そもそも肝心の企業が減少衰弱していては話にならない。それが地方の貧困の原因だ。わが故郷を豊かにするためには、やはり高い技術と生産力を持った、かなりの規模の企業が複数なければならない。
――共産党にはまともな経済理論家はいないのか。
人事には驚いた
27回大会の決定では、委員長志位和夫、書記局長小池晃は動かなかった。ところが最高指導部の常任幹部会25人に、不破哲三(86歳)と浜野忠夫(84歳)が入っている。私の村の村長は心身ともに健康だったが、もう80歳近いからと辞めたのだが。
1997年21回大会で宮本顕治氏(89歳)が議長から退くとき、高齢を理由に引退をすすめたのは不破氏である。宮本氏は94年に脳梗塞を患い、その後言動に退行現象がみられたという。その不破氏が86歳のいま、常任幹部会にとどまった理由は何か。
不破氏は、「画期的」理論をもって現在の綱領を定めた党内最高の理論家である。彼が常任幹部会に居座ったのは、同僚たちが情勢の変化とともに動揺し、現行綱領を書換えたり、「あやまった方向」に行くのを防ぐ目付け役になるためではないか。
だが時は残酷だ。老衰は共産党幹部といえども避けてはくれない。不破氏が高く評価している中国共産党は、俗に「七上八下」といって、最高層幹部の任期を67歳までとし、68歳は退任することになっている。このあたりで共産党も中共並みの定年制を決めてはどうか。それとも認知症になってから退職するのか?
中国はとっくに「社会主義への道」から外れている
大会決議案に対して、党内からも中国は「社会主義をめざす国」といえるのか、という疑問が寄せられたという。当然の質問だが、志位氏の答えは「このまま大国主義・覇権主義が今後も続くならば『社会主義への道』から決定的に踏み外す危険がある」というものであった。「長い目で今後を見ていきたい」ともいった。
――まったくノーテンキだ。
中国はすでに「道を踏み外し」て久しい。それは中共党員の構成にも表れている。かつての農民と官僚と軍人の党は、いま官僚、企業管理・経営者層が3分の1を占めるようになった。党員の40%を越える大卒のなかのエリートが国家と党と軍と大企業の中枢を占めている。中共は労農人民の党ではない、高級官僚と大資本家と高級将校の党である。
党員構成の変化は、上層幹部が国有資産を私物化し、不完全ながら民営化が進み、国営資本が成立し、腐敗が桁外れに深化した過程と並行している。かくして中華帝国主義国家ができあがったのである。
これでわからなかったら、極めつきを紹介する。
このほど最高人民法院の周強院長は、中国憲法にも民主と人権が規定されているにもかかわらず、「憲政民主や三権分立、司法の独立などという西側の誤った思想を断固阻止する」「敵対勢力による革命のたくらみや政権転覆の扇動、スパイ活動は厳しく処罰する」などと発言した(信濃毎日・共同、2017・01・17)。これでもなお「中国は社会主義を目指す国(日本共産党綱領)」だと言えるのか。
領土問題解決の方向は疑わしい
志位報告に曰く、「日ロ領土問題の解決は、『領土不拡大』という第2次世界大戦の戦後処理の大原則に背いた不公正を正面から是正することを中心に据え、全千島返還を堂々と求める交渉でこそ道は開けることを、私は、訴えたいと思うのであります。(拍手)」
――これは空想である。
たしかに1875(明治8)年樺太千島交換条約が成立した。だが今日の日本を取り巻く国際関係は、ヤルタ会談とポツダム宣言とサンフランシスコ条約で規定されたものである。
共産党の意見は、サンフランシスコ条約の一部を破棄して千島全島を奪還しようとするものだ。だが、敗戦日本の領土を150年前に戻すために、条約の領土条項だけを破棄することなど不可能だ。サンフランシスコ条約に署名したかどうかにかかわらず、どの国がこの提案に賛成するか考えてもご覧なさい。クリミア併合を見るまでもなく、ロシアからは、「もう一回戦争をやって日本が勝ったら交渉に応じよう」という声が聞こえてきそうだ。
第二次大戦後のソ連やポーランドやドイツなどヨーロッパ諸国の領土の変遷をみれば、共産党がいう「領土不拡大」の原則がどのように守られたか、守られなかったかわかる。
安倍晋三氏がどんなにプーチン氏に援助を約束しても、現実には択捉・国後は還ってこない。歯舞・色丹が取戻せれば上々だ。
志位氏のいうように、正しく筋が通る主張で交渉すれば道が開けるなら、ことは簡単容易だ。国際関係は、いまだ力の論理、優勝劣敗の法律が支配している現実を直視すべきである。非現実的な正論をいいつづけても何もならないのだ。
共産党の大会決定にはいいところもあったが、どうしても同意できないところがあった。以上、私のもっとも気になった項目を申し上げた。反論を期待する。
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