「アベ友疑惑」解明に、背任罪告発でメスの試み
- 2017年 3月 14日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
世の中のできごとは、9分9厘までは常識的な理解の範囲にある。ところが、1厘にも達しない確率ではあるが、ときに常識では理解し難い驚くべきできごとが明らかになる。
豊中市では、路線価を基準に値踏みすれば10億円を下るはずのない国有地が、わずか1億3400万円で新設小学校敷地として売却された。しかも、代金の支払いは10年の分割払いだという。それだけではない。国は既にこの土地の土壌汚染除去費用1億3200万円を支払い済みである。ただ同然での払い下げと言って良い。校舎建設にも、6000万円近い補助金が支払われている。いたれりつくせりというほかはない。
今治市では、これまで52年間認可が下りなかった大学獣医学部の開設が国家戦略特区構想の利用で実現し、来年4月開校予定だという。同市は36億7500万円相当の学校敷地を無償で提供した。それだけではない。今後8年間で校舎建設等に補助金64億円も拠出するという。これまた、いたれりつくせりというほかはない。
どちらも、外面だけを眺める限りにおいては常識では理解し難いできごとだ。何かウラがある、と考えるのが健全な思考である。何にも考えようとしない者を愚民といい、あるいは奴隷という。どんな「ウラ」か、さしたる推理力は必要ない。どちらにもアベ・シンゾーとその妻の影があるのだ。いや、これ見よがしにアベと妻が大っぴらに存在感を際立たせている。「なるほど、それなら常識で理解できそうなこと」と合点がいく。合点がいくだけでなく、猛烈に腹が立つ。
前者の件で異例の利益を受けたのは、その極右思想においてアベとの同志的連帯を誇示する真正右翼の学校法人経営者。当初当該土地に新設される予定の校名は、「安倍晋三記念小学校」であり、現実にその校名を売り物にした寄付の募集も行われた。アベの妻は、この法人が経営する幼稚園で3度講演し、その教育方針に大いに共鳴して新設予定小学校の名誉校長職を引き受けて、広告塔となった。
後者の件で、異例の利益を受けたのは、アベの「腹心の友」を喧伝する学校法人理事長。ここでも、アベの妻が、この法人が経営する保育園の名誉園長を引き受けて、今なお広告塔におさまっている。
衆目の一致するところ、両事件とも「アベ友・疑惑」というほかはない。常識的には、アベ自身か、あるいはその取り巻きが、担当者に口利きをしたのだろうと推察される。それが、健全な思考による推認というほかはない。しかし、このような口利きは、通例密室で行われ、表に現れることは稀である。だから、直接証拠はなく、疑惑が疑惑にとどまることが多いこととなる。それをよいことに、アベは激昂して否定する。「失礼だ」「証拠を出せ」「私は一切関与していない」。うろたえて、ムキになるアベの姿は、ますます疑惑を深めるものとなっている。
口利きの事実は、状況証拠を積み上げて推認するしかない。既に積み上げられた状況証拠に基づく国民の心証は、アベ疑惑クロまではともかく、クロに近い濃い灰色の域にまでは行っている。仮に、口利きの事実がないというなら、アベやその取り巻きの側で、立証責任を負担するレベルに達している。積極的に、関係者の参考人招致実現を図らなければならないのは、そちらの側ではないか。
もし、アベやその取り巻きの口利きの事実がなく、関係者の忖度だけで、これだけのことが運んだとすれば、これまた恐るべき事態というほかはない。アベ自身が口も出さず手も汚さず、アベの意思が忖度されて実現したことになる。「アベ友」と思われる者に、自然と不公平な利益が集中するという、不公正きわまる政治社会が完成しているというのだろうか。
さて、今治のアベ友疑惑解明はこれからだが、豊中アベ友疑惑は新たな展開を見せた。前日まで強気一辺倒だった理事長が、3月10日態度を豹変させて小学校設立認可の申請を取り下げた。またまた、ウラに何があるかを推察せざるを得ない。追及の手を緩めることはできないが、この段階で法的手段行使の報である。
この問題に最初に切り込んだ、木村真豊中市議のグループが、刑事告訴を予定しているという。被告発人を近畿財務局の「氏名不詳」とし、「著しく低い価格と知りながら、学園に利益を図り、国に損害を与える目的で売り渡した」とする背任容疑。3月22日に、大阪地検に告発状提出の予定だという。木村市議は、「いびつな契約が結ばれた経緯を、検察に明らかにしてもらいたい」と話した旨、報じられている。
刑法第247条(背任罪)の条文は以下のとおり。
「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
この条文中の「他人のためにその事務を処理する者」が被告発人(近畿財務局員)、「第三者」が森友学園、「本人」が国にあたる。そう考えて、条文を読んでいただきたい。
背任罪の主体は「他人のためにその事務を処理する者」とされているが、本件被告発人(近畿財務局員)は「国家公務員として国のために公務を処理する者」であって、この要件を充足することに問題はない。
「その任務に背く行為」とは、法令に従って国有財産の管理や処理を適正にしなかったことを指すことになろう。森友学園への貸付・売却が適正であったか、売却金額が適正であったかが、問われることになる。
「財産上の損害を加えた」は、国に損害が生じたかということで、結局は背任行為の有無と同じ判断になる。
問題あるとすれば、図利加害目的である。背任罪成立のためには、被告発者である近畿財務局員が、森友の利益を図ったか(図利)、あるいは国に損害を加える(加害)目的をもっていたことが必要とされる。
森友の利益を図ったという判断の過程で、誰か政治家の口利き圧力に屈してのことなのか、あるいは単に被告発人が行政の上層部や政権の意向を忖度した結果として異例のサービスをしたのかが、解明されなければならない。
ここまで解明されれば、国民はあらためて「アベ政治を許さない」との決意を固めることができるだろう。
(2017年3月13日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.03.13より許可を得て転載
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