加計問題の行方、これでいいのか~はぐらかしの安倍首相答弁、文科省に責任を振る、二転三転の菅官房長官答弁(4)
- 2017年 6月 22日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
「ワーキンググループのヒアリング」「分科会」っていうけれど
安倍首相は、加計問題に一切関与してないとの説明の中で、参院のどの委員会であったか、「分科会、分科会では、議員はご存じないかも知れないが、ご存じないでしょ」と得意げに前置きをして「分科会には、獣医学の専門の方二人からも意見を聞いて、十分議論をしてもらっているし、私が関与する余地などない」という趣旨の発言をしていた。国家戦略特別区域諮問会議のなかに、区域会議があることは知っていたが、今治市の「分科会」で、何が検討されたかは確認してなかった。早速調べてみると、2016年9月21日、2017年1月12日の2回開催されている。
今治市分科会http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/imabari.html
回数 | 開催日 | 会議関係資料 |
第2回 | 平成29年1月12日 | 議事次第(PDF形式:50KB) 配布資料 議事要旨(PDF形式:284KB) |
第1回 | 平成28年9月21日 | 議事次第(PDF形式:95KB) 配布資料 議事要旨(PDF形式:334KB) |
上記の議事要旨をみればわかることなのだが、首相が、胸を張って民間有識者が参加して議論したというが、その内実は、すでに、事業者が加計学園に決定した後の第2回の分科会で、「民間有識者」2名が、意見というか質問を投げかけている場面があるだけなのである。その2名の有識者は、獣医師養成現場から、加計学園の新設獣医学部のカリキュラムについて、次のような疑問を呈していただけなのである。
植田富貴子教授(日本獣医生命科学大学獣医学部)は「1点だけ教えていただきたいのですが」として、「5・6年でアドバンスト(選択)科目をやることになるということは、1~4年でコア・カリキュラムを全部終わらせることになる。コアからの出題が多い国家試験には、どう対応するのか」の主旨であった。加計側からは、臨床実習前の共用試験後も掛け持ちのスタッフもあるかもしれないが対応できる指導体制をとる、という心もとない答弁であった。
猪熊壽教授(帯広畜産大学畜産学部)は、「今日の御説明にはなかったけれども」との前置きで「1年生のときから獣医師のいろいろな職域について教える、体験させるという取り組みについて、必須科目ということになると、160人という学生を具体的にどういうところで参加型臨床実習をさせるのか具体的には述べられていない、就職先についても、ライフサイエンス、公務員獣医師産業動物獣医師などへの対応にも不安がある、との発言がなされていた。その答弁といえば「カリキュラムを組みながらなら、なかなか難しいところ」「参加型実習は、難問で」とか、就職先は広域的に ということらしいが、回答にはほど遠い。
獣医学専門の民間有識者の発言は、それぞれこの1回きりである。安倍首相は、専門家からのお墨付きをもらったかのような口ぶりだったが、すでに、応募事業者が加計学園だけであることが確定した17年1月11日の翌日に開催された今治市分科会でのやり取りだったわけである。
質問した野党は、首相の答弁に「おかしいじゃないですか」とクレームをつけるだけでなく、問題の核心に迫る「事実」を突き付けて、切り返さないといけない。例えば、諮問会議の議長たる首相が任命する民間有識者のたった一度の発言、それも、上記のような疑問を持っていたことを指摘するべきではなかったか。内閣府のHPを検索すればすぐ出てくる資料だ。首相に「知らないでしょ!」と言わせる手はなかった。
そもそも、分科会設置の根拠は?
そもそも、「分科会」設置の根拠はどこにあるのか。自分で調べたり、内閣府や今治市に問い合わせたりしているのだが、いっこうにラチがあかない。明文での根拠がないのだ。今治市分科会のみならず、各分科会の第1回で、運営規則の細則は提示されるが、分科会自体が何を根拠に立ち上げられるのかは不明のままである。
その後、今治市の担当者からは、回答があって「たしかに明文の根拠はないが、第1回の区域会議で了承されている」というのだ。もう一度検索してみる。
2016年3月30日の第1回の区域会議の議事要旨によれば、「資料3」を提示して「『今治市分科会』の設置について」として、「今治市固有の具体的な事業、今治市で御活用いただける可能性のある項目につきまして、新たな制度改革、規制改革について重点的、集中的に取り組む仕組みを、こういった分科会という形で議論いただくという趣旨で、その成果を区域会議に提案をしていただく」とあった(12頁)。
その「資料3」「今治市 分科会の設置について」では、趣旨として「広島県・今治市国家戦略特別区域の区域方針の早期実現に向け、今治市において、区域会議の下に「今治市分科会」を設置し、区域方針に記載している7つの項目に資する、新たな制度改革・規制改革について重点的・集中的に検討し、その成果を区域会議に提案する」とある。その7つの項目の一つが「国際教育拠点の整備(獣医師系(ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野)であったわけである。その構成員としては、基本的に、国(内閣府)、自治体(今治市)及び民間事業者の三者によるものとするが、必要に応じ、オブザーバーを参画させることができることとする、としている。
第1回の今治市分科会について、上記の「議事要旨」を見ると、その出席者は、以下の通りで、国会審議の参考人としてしばしば登場した、会議の進行役の藤原豊内閣府地方創生推進事務局審議官や佐々木基内閣府地方創生推進事務局長の名もある。*
* 第1回今治市分科会出席者
<国> 山本 幸三 内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革)
佐々木 基 内閣府地方創生推進事務局長
<自治体> 菅 良二 今治市長
<民間事業者> 加戸守行 今治商工会議所特別顧問
<民間有識者> 八田達夫 アジア成長研究所所長 大阪大学社会経済研究所招聘教授
<オブザーバー> 浅野敦行 文部科学省高等教育局専門教育課長
林 政彦 農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課調査官
山下一行 愛媛県地域振興局長
渡部 浩忠 越智今治農業協同組合代表理事専務
西原孝太郎 公益社団法人今治青年会議所理事長
<事務局>藤原豊 内閣府地方創生推進事務局審議官
上記、菅市長、加戸元愛媛県知事はじめ地元の人たちと八田(民間有識者)特区議員の「獣医学部新設の要望」の熱意は伝わってくるものの、それを裏付ける獣医学・医学・薬学的などの具体的な提案がなく、創薬、危機管理人材育成、獣医師の偏在、教育カリキュラムの特色などに言及するものの、それまでの1~2頁程度の提案書をなぞる程度のものであった。
アドバイザーとして参加している文科省の浅野専門教育課長は、当日配布資料の2015年6月30日の閣議決定、いわゆる「石破4条件」*の要件が満たされるかが重要だと述べた。
*獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討 ・現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサ イエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が 明らかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年 の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。
農水省林調査官は、獣医学部の新設は、学校教育法に基づく文科省の告示により規制されている中、引き続き獣医師の需給に関する情報等を収集・整理して、必要に応じて文科省等に提供する、と述べた。
前回の「加計問題の行方、これでいいのか(3)」(6月19日)の末尾の「加計学園獣医学部構想資料の推移」でもわかる通り、今治市は、2015年6月の特区ワーキンググループのヒアリング以来、1~2頁の資料しか公表していない。少なくとも、京都府・京都産業大学は、2016年10月17日におけるヒアリングで、詳細な提案書を公表している。繰り返しになるが、加計学園、京都産業大学両者の提案書は、以下をクリックして欲しい。
〇愛媛県・今治市提案資料(提案書1頁・添付資料2頁)
ワーキンググループのヒアリング(2015年6月5日)(16分)
(提案書)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h27/150605imabari_shiryou03.pdf
(添付資料)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h27/150605imabari_shiryou02.pdf
〇 京都府提出資料「京都産業大学 獣医学部設置構想について」(21頁)
ワーキンググループのヒアリング(2016年10月17日)(32分)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/teian/161017_shiryou_t_1.pdf
それまでは、1~2頁の獣医学新設構想でしか進めてこなかった今治市・加計学園側、内閣府・官邸は、かなり慌てて、焦ったに違いない。今回、国会閉会後、新しく文科省から出た10月21日「萩生田副長官ご発言概要」がそれを推測させるに十分ではないか。異様な“スピード感”をもって11月9日の諮問会議への「加計」絞り込み作戦が、強行されたことが伺える。
加計側の新獣医学部構想は、事業者が加計学園に決まった今年の1月12日に、初めて公表されたことは前述のとおりである。
ワーキンググループだ、分科会だと、あたかも厳密な議論や協議がなされているかのような口ぶりで、安倍首相や内閣府や首相官邸レベルの関係者は語り、議事録を公開しているからという。だが、その実態は、会議中に配布の、あらかじめ内閣府地方創生推進事務局が作成した添付資料や参考資料の説明すらなく「異議なし」で進行する場面があまりにも多すぎる会議であったのである。
役所内で交わされる文書やメール、ある時は口頭でなされたときのメモ、すべてが公文書である。内閣府や官邸の周辺は、記録がない、記憶にないと突っぱりながら、文科省から出てきた公文書は、承知してない、虚偽だ、不正確だと言い募るのは見苦しい。
文科省では、すでに内部からの義憤で、明らかになった文書があるが、内閣府の関係者も勇気をもって、明らかにしてほしい。
閉会中の国会審議も、あるいは第三者によるチェックもぜひ実現して欲しい。6月20日、松野文科相が追加発表した後に、義家副大臣ととも、不正確な情報も混じっている文書を発表したことを「詫び」ていたが、いったい何なのか。官邸からの圧力だったのか。謎は深まるばかりである。
初出:「内野光子のブログ」2017.06.22より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2017/06/post-4431.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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