周回遅れの読書報告(番外その7)風性の人、土性の人
- 2017年 10月 17日
- 評論・紹介・意見
- 脇野町善造
衆議院選挙も終盤になった。今回の選挙で千葉5区から立憲民主党公認で、山田厚史という人物が立候補している。山田は昔朝日新聞の記者だった。その当時、山田が書いた記事がある。朝日新聞 2008年9月13日(土)「フロントランナー」である。
山田は、佐久総合病院の医師(当時)色平哲郎を紹介し、その中で、色平の好きな詩として玉井袈裟男の「風のノート」から、詩の次の部分を引いている。それを見るだけで、ジャーナリストとしての山田の力量まで信じたくなる。
風は遠くから理想を含んでやってくるもの
土はそこにあって生命を生み出し育むもの
君が風性の人ならば土を求めて吹く風になれ
山田が紹介しているのはこの3行だけである。玉井袈裟男という名は聞いたことがなかった。しかしひどく気になり、この詩の全体がわからないものかと探してみた。なんとか見つかった。そこにはこうある。
風は
遠くから理想を含んでやってくるもの
土は
そこにあって生命を生み出し育むもの/
君 風性の人ならば土を求めて吹く風になれ
君が土性の人ならば風を呼びこむ土になれ/
土は風の軽さを嗤い
風は土の重さを蔑む
愚かなことだ/
風は軽く涼やかに
土は重く暖かく
和して文化を生むものを
「風」と「土」をどう理解するかは、様々であろう。山田が紹介している医師・色平は、「風」を医師、「土」を農民と考えていたようだが、私には、「風」は男、「土」は女のように見える。もちろん、もっと別の解釈もあろう。ただ、「風」と「土」をどのように理解しようと、この詩がいい詩であることに変わりはない。
玉井は信州に生まれ、人生の大半を信州で生き、2009年に世を去った。その著書『風のノート』は、たしかにあるらしいが、入手は長野県人以外には極めて難しいようだ。私もまだ目にしたことはない。本来、そんなものは「周回遅れの読書報告」の対象にすべきではないのだが、選挙戦での山田厚史の奮闘を見ていて、昔彼が新聞に書いた記事とこの詩のことを思い出した。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7036:171017〕
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