「イスラム国(IS)」イラク・シリアで壊滅(2) - バグダーディのカリフ国家樹立宣言も4年間で終わる -
- 2017年 11月 22日
- 評論・紹介・意見
- イスラム国坂井定雄
シリアのラッカ、イラクのモスルを最大拠点として、イラク人のバグダーディが自らをカリフ(最高権威者)として樹立を宣言したイスラム宗主制国家は4年足らずで崩壊した。
バグダーディはすでに死亡したと思われ、後継者もいない。
2003年のイラク戦争で、米軍を中心とした多国籍軍がフセイン政権を打倒、イラクを占領して以来、占領支配と、その後も駐留米軍によって支えられてきた11年にわたるマリキ首相のシーア派偏重統治のもと、スンニ派のフセイン政権残党による反米、反政府反乱が広がった。それに結び付き反米テロを続けてきたイスラム過激派組織「イラクのアルカイダ」(AQ)は米軍撤退完了の2010年にバグダーディが後継者に就任、イラク中部のファルージャなどスンニ派多数の都市を根拠地にして組織を強化した。そのころAQは「イラクとシリアのイスラム国」(ISI)と改称した。すでに、イラク国内だけでなく、シリアはじめ国境を越えた勢力拡大を目指していたのだ。
2011年、シリアでアサド政権と反政府民主化勢力の内戦が始まるとISIはシリアに幹部と戦闘員を派遣、現地で若者たちを2,3千人集め、武器を与え、訓練を施して、政府軍支配が弱体のシリア東部で支配地域を広げていった。2013年、ISIは「シリア北東部の中心都市ラッカを占領、「イラクとアッシャムのイスラム国」と改称した。アッシャムとは、パレスチナからレバノン、ヨルダン、シリア、イラクに至る地中海東部沿岸地域を包括する地域名。ラッカはシリア北東部の産油地域にあり、「イスラム国」は大きな資金源を獲得した。「イスラム国」は原油と豊富な古代遺跡の出土品をトルコ経由、国際市場への密売を拡大した。その資金をもとに、アラブ・マグレブ諸国、欧州さらには中央アジア、中国新疆ウイグル自治区まで、イスラム過激派への人的働きかけと、インターネットを通じた宣伝・募集活動を展開。とくに欧州と中東諸国からは、ユーチューブやネット・システムの専門家を集めた。また、武器・弾薬製造、修理の技術者には、旧イラク軍、バース党の残党を活用した。
そして2014年6月、イラクにシリアから逆侵攻、短期間にイラク第2の都市モスルを占領した。最高指導者のバグダーディの幕僚を構成する旧イラク軍とバース党の残党が、イラク政府軍の弱点とイラクのマリク独裁政権へのスンニ派国民の強い不満を知り抜いていたからこそ、モスルとイラク北部の都市を占領がこれほど敏速にできたのだ。
こうして、イラク、シリアの広い地域を占領し、樹立宣言をした「イスラム国」(IS)は消滅し、主要幹部は姿を消し、最盛時3万人を超えた戦士たちは、戦闘で死亡したか、イラク軍の捕虜になったか、中東や、北アフリカ、欧州諸国、アフガニスタンなど過激派組織に保護を求めたか、母国に帰国しただけなのか、各国は行方の把握に必死だ(続く)
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