人権に国情ありや! 南南人権論壇の茶番
- 2017年 12月 16日
- 評論・紹介・意見
- 中国人権田畑光永
新・管見中国(33)
去る7日、北京で第一回「南南人権論壇」なる国際会議が開かれた。まず「南南」とは何なんだ?と思われるだろうが、よく発展途上国と先進国との関係を「南北関係」というところからの造語(多分)で、途上国どうしを意味する。つまり途上国だけが集まって人権について話し合おうという会議である。
それにしても中国が人権について国際会議を主催するというのは、前回触れた「トイレ革命」同様、やや意表を突く。なぜなら中国はこれまで「人権」という言葉自体にある種アレルギーを持っていたようだからである。西側(という言い方も古いが)からは中国の人権状況はともすれば批判の対象となった。
今ではなくなった(はずだ)が、かつては当局から睨まれた人間は正式の裁判を経ずに無産階級独裁の名のもとに辺地の収容所に送られて、労働に従事(労働改造)させられもしたし、今でも民衆の言論表現の自由は大きく制限されている。一昨2015年7月9日には全国で200人を超える弁護士や人権活動家が一斉に逮捕された(709事件)。そのうちのかなりの人々はまだ釈放されていない。これらは西側の感覚では大きな人権侵害である。
その中国が人権についての国際会議を開いたのである。8日付け『人民日報』によれば、この論壇(フォーラム)は国務院(内閣)の新聞弁公室(報道担当室)と外交部との共催で70を超える国と国際組織の代表、学者ら300人以上が出席したとのことであるが、第一回というのに、その趣旨とか開催に至る経過などについては何の説明もない。
ただ習近平総書記が祝辞を寄せており、それがこのニュースの目玉である。
その祝辞の内容―「中国共産党と中国政府は人民を中心とする発展の思想を堅持し、常に人民の利益を最上位に置き、人民のよりよい生活に対する熱望を戦闘目標とし、中国人民の各種の基本的権利のレベルを絶え間なく向上させ、尊重してきた。・・・
現在、世界の人口の80%以上は発展途上国が占めている。地球的な人権事業の発展は途上国の共同努力と切り離せない。人権事業は各国の国情と人民の必要に依拠することによってのみ推進することができる。発展途上国は人権の普遍性と特殊性を結合する原則を堅持して、不断に人権保障のレベルを高めるべきでる」(傍点引用者)
至極もっともらしい言葉が並んでいるごとくであるが、注意深く読むと、「各国の国情」、「人権の普遍性と特殊性」といった見過ごせない単語がひそんでいる。実質は、人権の旗を掲げて、人権を守れという圧力をはね返そうという呼びかけである。
しかし、これはきわめて危険な思想である。人権には国の事情によって区別があり、各国の人権には他国と共通する部分もあるが、各国独自の基準もあるということは、つまり「人権にも国籍がある」と言いたいのだ。
この考え方は「国情」を理由に他国からの干渉をはねつける武器にもなるし、時によっては他国の人権に「特殊性」を理由に差別を課すことも可能になる。それはまた人種差別、外国人差別にもつながりかねない。
「習近平新時代」の中国は何事につけても、他国の批判には耳を貸さず、自国流を押し通す傾向が顕著になってきた。世界2位のGDP大国たることをもって批判をはね返す権利が生じたとでも思っているふしがある。そしてそれが政権の威信を輝かせるとでも思っているらしい。
北京では去る11月18日、市南部の出稼ぎ労働者が多く暮らす街で、違法集合住宅から火災が起こり、子供を含む19人の死者を出した。これに対して、市当局は有無を言わさずに違法建築取り壊しに乗り出し、多くの市民がこの寒空に街頭に放り出された。代替の宿泊施設を用意せずにいきなり取り壊しというのも、中國の「国情」により許されるということか。違法建築を消しされば問題は解決するという党官僚らしい発想である。
ここまでで十分衝撃的なニュースであったが、続報でさらに驚かされた。12月9日の『毎日』によれば、路頭に迷った住民のために、市民のボランティアが空き室を提供したりなどの支援に乗り出したが、その情報サイトが市当局によって閉鎖されたというのである。その理由について、同紙は「(共産)党の枠外で、住民の権利を守る活動を許せば、一党独裁体制を脅かす芽となりかねないからだ」と書いている。その通りであろう。
これによって一党支配体制は盤石となるのか、はたまた「盤弱」に向かうのか。中国の「国情」はどちらの答えを出すのだろうか。(171212)
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7188:171216〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。