圧倒的支持をえた独立への苦難の戦い続く - クルドとカタルーニャ、歴史的住民投票その後 -
- 2017年 12月 23日
- 評論・紹介・意見
- カタルーニャクルド坂井定雄
2017年も、世界中で現在と将来にかかわる重要な、歴史に残る出来事が発生した。この秋、イラクのクルド自治区と、スペインのカタルーニャ自治州では、民族国家独立を目指す歴史的な住民投票が民主的に実施され、どちらも圧倒的多数の賛成で可決されたが、中央政府は独立への交渉を全面拒否、軍、警察力も動員して、独立運動の進展に立ちはだかった。どちらも自治区、自治州として維持されたまま、中央政府とのきびしいせめぎあいが続いている。
スペインでは、ラホイ首相以下の中央政府がカタル―ニャ独立に真っ向から反対、国家反逆罪でカタル―ニャ州のプッチダモン首相以下を追求し始めたため、プッチダモン首相はベルギーに脱出。さらにラホイ首相は、独立支持が多数の州議会を解散、12月21日に州議会選挙を実施した。ラホイ首相は、独立への住民投票は反対派の住民が多く棄権したため圧倒的に支持されたとの判断があった。しかし州議会選挙の結果は、州議会135議席のうち、独立派の3政党が70議席を獲得、僅差とはいえ、独立反対派が敗北した。独立派は大いに活気づいたが、ラホイ首相以下、中央政府のカタル―ニア独立反対は強固で、全国的には国民世論の多数に支持されている。
ここでは、クルド自治区その後について書こう。
再録になるが、9月25日行われたイラク・クルド自治区の国家独立の可否を問う投票は、自治区と実効支配下のキルクーク、ドイツなどの海外在住クルド人が参加。有権者4,581,255人、投票率約72.2%、賛成92.7%だった。独立投票を推進したバルザーニ大統領(自治政府議長)は、イラク政府に独立への交渉を呼びかけ、独立宣言を急がず、交渉期間を2年間と設定した。しかし、イラク政府のアバディ首相は住民投票の撤回を求めて交渉を拒否。10月15日、政府軍とシーア派民兵軍団を動員して、2014年以来クルド自治政府が実効支配している、大油田地帯のキルクークへの攻撃を開始した。これに対して、クルド側はほとんど無抵抗に、強力な準軍隊ペシュメルガを自治区に撤退させ、政府軍との戦闘拡大を避けた。バルザーニ大統領も自治政府も、政府軍との戦闘拡大を避けた理由を説明していないが、もし本格的に抵抗していれば、多数の住民が犠牲になり、自治区全体が残酷な破壊を被る内戦になることを予測していたに違いない。
10月30日、バルザーニ大統領は、同日で終了する任期を延長することなく退任、後任の大統領選挙を予定することなく、いとこのネチルバン・バルザーニ首相に国家の最高権力者を引き継いだ。「イスラム国(IS)」との戦いと難民保護で国際社会の支持を集めて自信を強め、一生の念願である独立への住民投票を果たし、予想通り圧倒的な支持をえて、イラク政府との交渉でクルド国家独立の実現を目指したバルザーニ大統領は、イラク政府とくにアバディ首相への期待を過大にかけたのだろうか。それとも、住民投票での歴史的な独立支持の記憶を未来に残すことだけでも、願っていたのだろうか。
しかし、アバディ首相とイラク政府はバルザーニ大統領とクルド人に対して、冷酷に対応した。キルクークの支配を回復、続いて自治区内の国際空港2か所を閉鎖した。陸地に囲まれた自治区では、人間の出入国と物流が担っている役割は大きい。最も重要な区都のアルビル空港だけで、1日に50~60便が発着、5千~5千5百人が出入国、物流は毎月2,500トンに達していた。
クルド自治区にとって、最大の財政的打撃は、キルクークからクルド自治区経由トルコのジェイハン港に至り輸出されるキルクーク原油の収入が失われたことだ。その結果、自治政府当局者がクルド系通信社に明らかにした数字では、自治区から輸出される原油は、10月以前は日量70万バレルだったが、現在は25万バレルに減少し、政府の収入は月額で5億6千5百万ドルから3億3千7百万ドルに減少したという。
さらに約120万人とされる自治区の公務員の給与支払いが、大きな困難になりつつある。その給与総額は月額7億7千2百万ドルで、一部をイラク政府が負担している。その負担額の支払いをイラク政府が無期限停止したのだ。かねてからイラク政府は、自治政府が公務員数を水増ししていると主張していた。今回停止した理由もそれだった。
クルド自治区政府は、目下来年の予算を編成中だが、公務員給与を33%減額せざるを得ないとみられている。
このような政治・経済状況の中、反政府少数野党の指導下で、反政府デモが一部に広がり、少数ながら死傷者も出ている。
その一方で、自治政府を支持するクルド民族主義の活動も活発だ。12月17日は、国が定めた「国旗の日」。赤、白、緑の三色旗が首都を見下ろす丘の上に多数ひらめき、若者たちが巨大な国旗を掲げて、行進した。
12月1日にクルド自治政府の最高指導者になったネチルバン・バルザーニ首相は、クルド人移民が多いドイツを最初に外国訪問。18日ベルリンで、メルケル首相と会談した。メルケル首相は「イラクの枠内での、クルド自治区の憲法上の権利をドイツは支持する」と表明。バルザーニ首相は「われわれはイラク政府との会談を望んでいる。独立についての国民投票が憲法に反し、無効だとした、連邦裁判所の判断を尊重する。イラク憲法は国家の分離は憲法に反する、としている」と述べたという。
いまは「前」となったバルザーニ大統領の国家独立への熱情とそれを支持した大多数のクルド人の願いは、いまは叶わぬ苦難の戦いを歴史に刻んでいくだろう。
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