ドイツの大連立政権は樹立するか?:最後の審判を下すのはドイツ社民党員
- 2018年 2月 19日
- 時代をみる
- グローガー理恵
政権不在
ドイツでは去年の9月24日の連邦議会選挙以来、政権不在の状態が続いているが、政権なしの連邦議会は機能しているようである。2017年12月には連邦議会において大多数の議員が、しっかりと自分たちの給与引き上げに合意したばかりでなく、イラク、アフガニスタン、マリ共和国などに配置されているドイツ連邦国防軍の海外派遣期間を2018年の3月から4月まで延長することにも合意した。その後のさらなる国防軍・海外派遣期間の延長は新政権によって決定されることになるという。
2017年9月24日に行われた連邦議会選挙の結果
2017年9月24日に行われた連邦議会の選挙結果は、メルケル首相の率いる保守派政党キリスト教民主同盟 ・社会同盟(CDU・CSU – Union)にとって、【得票率32.9% (前回選挙結果に比べて8.6ポイント減)】という1949年以来最低の得票率であった。また、ドイツの第2政党、ドイツ社会民主党 (SPD)の得票率は【20.5% 】で前回選挙結果に比べて5.2ポイント減という結果であった。これは社民党にとって第二次世界大戦以後、最低の得票率となった。一方では、反移民/反ムスリムを唱える極右政党、AfD(ドイツの選択肢)が躍進を遂げ、【12.6%の得票率(前回選挙結果と比べて7.9ポイント増)】を得て、ドイツの第3政党に伸し上がった。
難航した連立政権交渉
選挙結果が明かになった9月24日の夜、社民党の敗北を認めたマーティン・シュルツ党首は、社民党がメルケル首相との連立政権を継続せずに野党入りすることを宣言し、その場にいた党員たちの喝采を浴びた。社民党の「下野宣言を」受け、メルケル首相は、彼女の率いるCDU・CSUと自由民主党(FDP)および緑の党(Die Grünen)との連立政権を樹立しようと試みた。しかし、2017年11月20日、連立政権交渉は決裂し失敗に終 わった。
その結果、メルケル氏には少数党政府を形成するか再選挙に臨むかのオプションが残されたのだが、彼女は少数党政府を樹立させるぐらいだったら再選挙に臨むと主張。ここで、政権樹立が長引くのを懸念したシュタインマイヤー大統領(社民党)は仲介に入り、メルケル首相(CDU/CSU)とシュルツ社民党首との会談を行った。大統領は「できるだけ早期に安定した政権を成立させるために、今期もCDU・CSU(第1政党)と社会民主党(第2政党)の大連立政権を継続させるべきである」との提案をした。大統領は、とくに与党入りを拒んでいたシュルツ氏に「大連立政権の形成のために協力してほしい」と訴えた。
そして、1月21日の党大会で、社民党は、CDU・CSUとの大連立政権交渉に入ることを決定した。交渉は難航したが、2月7日、179ページから成る連立政権協定書が完成し、CDU・CSUと社会民主党との大連立政権が正式に合意された。メルケル首相はSPDとの交渉でかなり譲歩しており、重要ポストである財務相をはじめ、外務相、法務相、労働相、家庭相、環境相などのポストを社民党に引き渡した。メルケル首相が第4期目を務めるために必死であることが窺える。
しかし、メルケル首相も社民党幹部もこれで一件落着と安心はしていられない。もうひとつのハードルがあるからだ。この後、社民党の463,723人の党員が「社民党が与党入りしCDU・CSUと大連立政権を組むことに賛成するか否か ( ”Ja ’’ もしくは ” Nein”)の投票を行う。投票は郵便投票形式で実施され、2月20日に始まり月3月2日に終了し、3月4日には投票結果が公表されることになっている。
大連立政権反対 キャンペーンを率いる社民党青年部のリーダー
ドイツ社民党青年部リーダー
ケヴィン・キューネルト氏
(Facebook Photo)
ドイツ社民党にはJUSO(Jungsozialisten – 若い社会主義者)と呼ばれる青年部がある。JUSOに属するのは36歳以下の社民党党員で、現在、およそ7万人のメンバーがいる。その青年部が、2017年12月1日、青年部リーダー/ケヴィン・キューネルト (Kevin Kühnert)氏を中心に、大連立政権反対 ” #NoGroko! “のキャンペーンをスタートさせた。ケヴィン・キューネルト氏(通称:ケヴィン)は28歳の学生である。彼は、現在、ドイツの各地をまわり社民党員にSPDの与党入り反対の投票をするようにと訴えている。
反大連立政権運動は、ケヴィンのリーダーシップのもと、勢いを得ているようである。
ケヴィンは、2018年1月23日、ZDFテレビのトークショーで「長い間、社民党がメルケル首相の率いるCDU・CSUと連立政権を組んできたことで、社民党と保守派CDU・CSUとの区別がつかなくなっている。富が平等に分配されておらず貧富の格差が拡大しているのに何もなされていない。こうした問題こそ社民党が取り組むべき問題である」と、大連立政権に反対する動機を語っている。さらに、彼は、「ドイツ国内のインフラや学校などの公共施設のメインテナンス、デジタル・ハイスピードネットワークの設置などに必要な公共投資額は1500億ユーロ、国は、国家財政黒字であるにもかかわらず、それだけの投資をしようとしない。次の世代は黒字財政を受け継ぐと同時に壊れかかったインフラ、公共施設をも受け継ぐことになる」と、前財務相ショイプレ氏の国家財政黒字/緊縮経済政策を批判している。
「ドイツが受け入れる難民の数を制限すべきか?」との質問に対して彼は「亡命者を保護しなければならない、というのがドイツの基本法であり、国が受け入れる亡命者の数を制限すべきではない」と答え、さらに、「国家財政黒字の金持ちのドイツが難民を援助することはよい。しかし、国は、難民ばかりでなく、ドイツ市民も援助すべきである。国が投資をしないために、崩れていくインフラ、公共教育施設、全日制託児所の不足などは、移民のせいで起こった問題ではない」と、述べている。
社民党員による投票審判の後は…
2013年の連邦議会選挙後、社民党は、今回と同様に、社民党の与党入りに賛成するか否かの決定を社民党員に委ねた。その結果、76%が社民党の与党入りに賛成し大連立政権の樹立が決定されている。
Kantar Emnidインスティチュートが行った最近の世論調査によると、社民党支持者の66%が社民党の与党入りに賛成しており、与党入りに反対したのは30%のみだった、とのことである。なお、この世論調査の回答者は社民党支持者であって社民党員ではない。
もし社民党青年部リーダー/ケヴィン・キューネルト氏の率いる大連立政権反対運動が成功し過半数の社民党員が与党入り反対の投票をしたとしたら、メルケル氏が少数党政権の形成を拒否しているので再選挙となるだろう。再選挙となれば、極右政党AfDがさらに進出することが予測される。INSAの2月12日付の世論調査によると、AfDの支持率は15%であった。AfDが総選挙で得た得票率が12.6%であるから、世論調査は、大連立政権交渉の進行中に、AfDの支持率が上昇したことを示している。同世論調査における社民党の支持率は16%と、社民党が総選挙で得た得票率20.5%をかなり下回っている。
もし社民党員が社民党の与党入りを承認し、大連立政権が樹立されるなら:
メルケル大連立政権は、以前と同様、新自由主義政策を堅持していくことだろう。その結果、ドイツにおける貧富の格差は益々拡大していくことになるだろう。そして相変わらず政府は、軍事力拡大政策を推進していくだろう。
以上
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