世界史は動いた! 日本の歴史認識が問われている!
- 2018年 5月 2日
- 時代をみる
- 加藤哲郎北朝鮮韓国
2018.5.1 中東は不安定ですが、東アジアは、緊張緩和に大きく動きました。日本の首相は、国会での公文書改竄・背任疑獄追及をおそれて中東へ、 UAE、ヨルダン、イスラエルとパレスチナに「和平に貢献」のため、出掛けたそうです。世界のメディアが、一月遅れの悪い冗談(May Fool)と受け止めるでしょう。トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めた問題から、パレスチナとイスラエルの衝突は激化し、連日のように死者・負傷者を出す「戦闘状態」が続いています。そこにトランプの番犬でしかない安倍晋三が出かけていっても、紛争激化に「貢献」できるだけです。 第一、自国が最も積極的に関わるべき東アジアで、南北朝鮮の対話と和平を一貫して妨害し、トランプ大統領からも情報をもらえず「蚊帳の外」に置かれてきた国に、いまさら「和平への貢献」と言われても、相手国が戸惑うだけでしょう。この1月から劇的に動いた朝鮮半島和平の動きに、国会から逃れて「対話より圧力」の外交をセールスしてきたのが、世界で日本の安倍内閣だけだったのですから。これは、「独自外交」でも「自主外交」でもなく、「孤立外交」「迷走外交」です。
韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長の板門店南北首脳会談は、大きな世界史的意味を持つものです。日本のメディア論調では、北朝鮮の「非核化」が不明確で 「核隠し」ではないかとか、「拉致問題」が入っていないといった議論が支配的ですが、軽薄で感情的なアメリカ大統領トランプの直感的ツイートさえ認める「KOREAN WAR TO END! 」が、素直な世界的反響でしょう。4月27日の板門店宣言は、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一の為の板門店宣言」です。「1.南と北は南北関係の全面的で画期的な改善と発展を築くことで、途切れた民族の血脈を繋ぎ、共同繁栄と自主統一の未来を早めていくことである。南北関係を改善して発展させることはすべての同胞の一様な願いであり、これ以上延ばすことのできない時代の切迫した要求である」、「2.南と北は朝鮮半島で尖鋭な軍事的緊張状態を緩和して戦争危険を実質的に解消するために共同で努力していく」、「3.南と北は朝鮮半島の恒久的で堅固な平和体制構築のために積極的に協力していく。朝鮮半島で非正常的な現在の停戦状態を終息させて確固たる平和体制を樹立することは、これ以上延ばすことのできない歴史的課題である」が3本柱で、その3本目の下に「(3)南と北は停戦協定締結65周年になる今年に終戦を宣言して、停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で堅固な平和体制構築のための南北米3者もしくは南北米中4者会談開催を積極的に推進することにした。(4)南と北は完全な非核化を通じて核なき朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認し」とあるのです。 「完全な非核化」の内実は、次に予定されている米朝会談、米韓会談、中国・ロシアの対応等核保有国との交渉に委ねられます。 アメリカの「核の傘」に安住する日本に、ほとんど発言の余地はありません。成果ゼロだった4月の日米会談同様、いや「成果だ」と騒ぐ拉致問題の米朝会談での言及への代償は、起こりうる経済的取引の相当部分を負担することだけでしょう。
なぜそんな結果になったかを、1月平昌オリンピック以来の情勢の読み違い、中朝会談も米朝秘密交渉も事後に知った情報収集の貧しさに帰するのも、不十分でしょう。それは、安倍首相と日本政府の歴史認識の貧しさによるものです。板門店宣言も、トランプの直観も、米ソ冷戦時代の1950-53年朝鮮戦争の終結、同一民族の南北分断国家固定化の歴史を清算する民族統一への歩みを、謳っています。そしてその民族分断の背景にあったのは、日本による朝鮮半島の併合・植民地支配でした。今眼前で進むのは、日本軍国主義の侵略戦争の敗北によってようやく「解放」された朝鮮半島の人々の、東西冷戦に振り回され引き裂かれた歴史の取り戻し、「38度線の壁(軍事境界線)」の「開放」なのです。ちょうど、1989年のベルリンの壁の崩壊と90年東西ドイツ(再)統一が、第一次世界大戦とロシア革命以後のヨーロッパの歴史を大きく変えたように、いま私たちが眼前で目にしているのは、日清・日露戦争に始まり、日本帝国主義の東アジア侵略と米ソのアジア支配によって作られた秩序の再編過程であり、「アジアの長い20世紀」の最終局面なのです。そして、その主要なアクターから日本が排除され、米中関係を基軸とした大きな枠組の中で、南北朝鮮の新しい指導者が、主体的に新秩序を志向し構築しようとアピールしている姿が、テレビやインターネットを通じて世界に同時中継された、事実なのです。もちろん30年近く前の欧州冷戦崩壊・東西ドイツ統一の歩みとは、相当異なる形をとり、バックラッシュを含む紆余曲折を経るでしょうが、南北両国はそれに学びつつ、基本的には不可逆的な、長い民族統一過程が始まったと見るべきでしょう(ワシントン・ポスト4.28の「南北朝鮮はドイツの再統一から何を学びうるか」が示唆的です)。
いま、日本政府と国民に求められているのは、安倍首相の改憲案や森友学園問題の背後にある一国主義的・戦前回帰的歴史観とは正反対の、20世紀東アジアで果たした日本の植民地支配と侵略の時代を率直に認めて反省し、その後の米国占領下の復興と対米依存の経済大国化の歴史をも相対化して、中国・朝鮮民族を蔑視することなく、21世紀世界の中で生き残る国のあり方を、自主的・主体的に練り直すことです。ファッショ化する安倍内閣や「国民全体への奉仕」を忘れた官僚たちに頼ることなく、主権者としての国民と、国論を決定する民主主義・立憲主義を、再構築することです。それは同時に、新しく開かれた世界史の中で生きる覚悟を、試されることでしょう。北朝鮮は韓国に合わせ、5月5日から時計を30分早める「時間の統一」を決定しました。この国も、次の改元元号をあれこれすることよりも、「世界史の時間」に合わせて公文書を含め西暦年号に統一するような覚悟が、求められています。私なりの歴史認識の再構築の一環として、連休明けの5月9日(水)から明治大学リバティアカデミーで始まる「731部隊と戦後日本」と題する市民向け連続講座にあわせ、同題の書物『731部隊と戦後日本ーー隠蔽と覚醒の情報戦』(花伝社)を、5月中に刊行します。 昨年刊の学術書 『「飽食した悪魔」の戦後』 を平易に要約し、前回更新で紹介した 1945年1月作成731部隊「留守名簿」3607人の発見等 、その後の研究の進展による修正・追加を書き加えたものです。アマゾン等で予約できますので、ぜひご笑覧ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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〔eye4377:180502〕
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