すべて解決済み
- 2018年 12月 22日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘韓国
韓国通信NO585
<法事の席で>
叔父の一周忌の食事会で従弟妹(いとこ)たちと同席になった。故人の思い出話をしているうちに、徴用工の損害賠償の話になった。
「解決済みの話がムシ返された」
「こんな非常識な話に付き合ってられませんね」
「このままじゃキリがないわ」
法事の食事会の席である。黙って聞いていた。
日本中どこでもこんな話がされているのかと考えると憂鬱になった。悪びれる風もなく、さりげなく話していることも気になった。
韓国語では「大騒ぎする」ことを「惹端法席(やだんぽぷそく)」という。法事の席で「大騒ぎ」と理解していたが、そうではない。仏教の「真理」について議論し、それが嵩じて「大騒ぎ」というのが語源らしい。韓国人なら、聞き捨てならない発言を聞いたら大騒ぎになるのかもしれない。しかし日本人の私はその場の雰囲気を優先させてしまった。
<閑話休題> 本題に戻そう。
「解決済み」では決してない。自分が受けた許しがたい屈辱、被害を償えというのは人間として当然なこと。「時効」や「条約」以前の、人間の尊厳にかかわる問題だ。国と国が「手じまい」したから我慢しろと云われても納得できるものではないだろう。「つぐない」を求める権利は無くならない。当然だがわが国でもそのような個人の権利は認めてきた。もっとも、我慢するのも個人の自由だが。
<鹿島・西松・ハンセン病>
強制連行された中国人が酷使され400人以上の死者が出た「花岡事件」(秋田県花岡町/現大館市)では和解が成立、被告の鹿島建設は非を認め5億円を支払った(2000年11月)。
同じく強制連行された中国人元労働者と遺族に対して西松建設は謝罪、2億5千万円の和解金を支払った(2009年10月)。
いずれも日本の裁判による法的救済こそ認められなかったが、「解決済み」とはせず、和解で解決した。
ハンセン病患者に対して熊本地裁が国家賠償を認め(1998年)、政府、国会、裁判所は被害者に謝罪した。続いて韓国と台湾のハンセン病患者が国家補償を求めたのに対して、紆余曲折はあったが、政府は日本人と同水準の補償を行った(2006年)。
これらの事例を見ても、今回の徴用工判決に対して安倍首相が先頭に立って「解決済み」と主張する異常さがわかるはずだ。「国際法違反」と主張するのは韓国の最高裁が支払いを命じたからだが、日本の裁判所に門前払いされ、自国(韓国)の裁判所に救済を申し立てたのは当然のことだった。日本政府と裁判所が「解決済み」と、かたくなに解決を拒まなかったら、日本国内での解決は可能だったかも知れない。「国際法違反」などと主張する前に、新日鉄住金と三菱重工の何が問われたのか明らかにすべきだ。わが国では両社の犯罪行為が不問に付されている。
中国、韓国、その他、わが国が占領地域で行った非人道的行為を認めない安倍政権では、今後、責任を追及し賠償を求める動きはさらに活発化すると予想される。
<従軍慰安婦問題>
こじれている従軍慰安婦問題で政府の対応があらためて問われることになった。一体あの10億円は何だったのか。日韓条約で「すべて解決済み」という主張と矛盾していないか。解決済みなら10億円を支払う必要はなかった。10億円払って、今度こそ「不可逆的解決」という理屈は支離滅裂だ。日韓条約の無償3億ドルと有償2億ドルは賠償金ではなく経済協力だった。条約では謝罪はもとより賠償という言葉もない。日本は賠償を経済協力という言葉に置き換え、今頃になって「賠償した」かのように主張するのは言葉の「トリック」にほかならない。慰安婦問題の解決金も賠償金ではない、従って本人たちに謝罪する必要がないというのが日本政府の立場だ。日韓条約でも慰安婦問題でも謝罪しない点は共通している。
これが日韓関係のこじれの原因になっている。
目的、意味不明の10億円。日本の納税者からも批判が出るのは当然だ。過去の侵略、戦争責任を曖昧にして逃げ回っているようでは何も解決しない。けじめのない「未来志向」。責任の「ツケ」は将来に持ち越すことになる。
<「こんな非常識な話」には…>
食事をしているさなかに聞こえた「非常識な話」。その発言からは解決済みを主張する日本政府への同調と、韓国の最高裁所の判決に対する蔑視が感じられた。韓国の最高裁のレベルは「子供以下」と呆れかえっているように聞こえる。安倍首相や菅官房長官、河野外相の口ぶりからも同じものが感じられた。判決内容について正面切った反論はなく、ただ感情に訴えるだけ。
これでは特定の国、民族、主張に対するいわれのない憎悪、「ヘイト」ではないのか。自分(たち)と異なる考え方に対して聞く耳を持たない人たちは、トランプや安倍、ネット右翼といわれる特定の人たちだと考えていたが、身近なところに存在していることに驚いた。
<「このままじゃ キリがありません…」>
食事会で従妹が「キリがない」と頷いたがそのとおりだ。戦時中、日本は戦争遂行のために国内外で現地の人たちを徴用して土木事業などに従事させた。その数は全体で100万人は越すとも言われている。彼女が心配するように、現に訴訟を起こしている人に加えて次々と訴訟が起こる可能性がある。まさに「キリがない」状況といってよい。
「サンフランシスコ講和条約」(1951)、日華平和条約(1952)、日韓条約、請求権協定(1965)のずさんさが露呈したといえる。近隣諸国の人たちに与えた被害に真剣に向き合ってこなかった「つけ」が噴出している。日本政府は韓国の最高裁判決を政治決着で無力化するつもりらしいが、「三権分立」を理解しない政府の動きは恥の上塗りだ。
韓国の李洛淵(イナギョン)首相が14日、日韓議員連盟合同総会の開会式に出席して、「政治とメディアが相手国に対する自国民の反感を刺激して利用しようとすれば、それは無責任で危険なこと」、「難しい問題が起きた時ほど、政治指導者は節制を守って知恵を発揮しなければならない」(12/14「中央日報」日本語版)と、出口のない日本政府とメディアに釘をさした。
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