ランニングブームにも変化の兆し - 「人類の調和のとれた発展」への転機に -
- 2019年 12月 31日
- カルチャー
- マラソン杜 海樹
現在、日本のランニング人口は1000万人余に達していると言われている。フルマラソン・42.195キロを完走する人は年間延べ40万人、東京マラソンのように参加者が3万人を超える大会も数大会ある状況となっている。ランニングブームに伴って、マラソン大会を開催すれれば人が集まり地域が活性化すると、近年、相当多数の都市がマラソン大会を新設し、地域経済活性化のリード役を果たしてもきた。全国ご当地マラソン協議会なども発足し「地域の特色を前面に出したおもてなし趣向」で新たな魅力を打ち出していくこと等も謳われてきた。マラソン大会では、地域の特産品や郷土料理等が振る舞われることもあり人気を得ているところでもあった。
しかし、こうした流れにも東京オリンピックを前にして少し変化が出始めてきている。
マラソン大会の募集を掛ければ数時間で定員オーバーとなった時代は過ぎ去り、今や締め切り日当日を迎えても定員に満たないまま受付を終了しなければならないマラソン大会も珍しくなくなってきた。東京オリンピックのマラソンコースも大会開催1年を切ってから右往左往する結果となり、交通渋滞や物流機能面など総合的に見るとオリンピックの印象も決して芳しいものではなくなってきている。
そうした中、ある地方の老舗マラソン大会が、今秋、突如3年間の休止を発表した。あまりの突然の出来事であったため「いったいどうした?」という声も愛好家の間から聞かれたが、理由には自治体の財政面や高齢化の側面も含まれていた。少子高齢化に伴う問題がいよいよマラソン大会の運営にも波及してきたかという印象を受けた。
現在おこなわれているマラソン大会の少なからずは、スポーツという側面に加えて経済の活性化という側面が加味されている場合が結構あった。マラソン大会に限らず、あらゆるお祭りやイベントは、開催すれば大勢の参加者や見学者等が詰めかけ経済効果が上がるのも事実であった。
しかし、高齢化が進み人口が減少してくれば、来場者を迎えようにも迎える側の人出は不足せざるを得なくなってくる。国土交通省・国土交通政策研究所の政策課題勉強会内においては2040年に消滅可能性都市が896自治体(全国の自治体の約50%)に及ぶとの報告もされていた。各種のイベントにお客の立場で参加するという主催者側に一定の負担をお願いする参加スタイルは見直しの時機ということなのかもしれない。
まもなく、オリンピックが開催されるが、そのオリンピック憲章の中には「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」という言葉がある。また、マラソンの故・小出義雄監督は「メダルのために人生があるのではない。あくまでも人生のためにメダルがある」といった言葉を残している。
各種大会の運営が負担になってくるようであれば、やはり何らかの見直しが必要な時機ということであろう。
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