美しい言葉で飾られた共産党大会だったが(つづき)
- 2020年 2月 1日
- 評論・紹介・意見
- 共産党阿部治平
――八ヶ岳山麓から(305)――
共産党の大会はいつもシャンシャン大会で、私は支持者としてそれが残念である。今回の共産党大会でも、議論されてしかるべきことが、そうされなかった。そのいくつかについて意見と疑問を述べたい。
日本共産党は資本主義を打倒し社会主義を打ち立てようとする革命政党である。中国を「社会主義をめざす新しい探求が開始された国」とした2004年綱領の文言は、中国共産党は、日本共産党にとっておなじ社会主義へ向かう同伴者であることを意味していた。
このたびの綱領改定にあたってこの文言を削除したことは、中国の評価をプラスからマイナスに、親しい友人から赤の他人に逆転させたことを意味した。
だが、大きな路線変更であるにもかかわらず、民主的討論が保証されているはずの党大会では反対意見もなく、さほどの波風が立たずに改定が決まった。共産党の場合これはいつものことだが、今回に限って言えば、党員の多くが中国を「社会主義をめざす国」とする2004年綱領が間違いだと感じてきたことが反映していると思う。議案討議の中でこの提案を「もっと早くしてほしかった」という意見が出たというがそれは当然である。
このたびの綱領改定案は、いままでの2004年綱領と同じく不破哲三氏の主導によって作られたものだと思う。彼は89歳の高齢でありながら、党大会でなおひとり「2004年綱領報告者」として今回の改定部分の「さわり」を説明した。彼が次期共産党最高指導部の常任幹部会員に選ばれたことは当然である。
共産党のトップは政治家というだけでは間に合わない。マルクス主義の古典にことごとく目を通し、それを独創的に解釈し、知識を縦横に駆使して情勢を分析し、政策を立案できなくてはならない。この意味では宗教団体の頂点に立つものに似ている。不破哲三氏は事実上の党首であり、最高のイデオローグである。委員長の志位和夫氏とではゾウとゾウムシ、ノーベル賞学者と一年坊主くらい違う。2004年綱領から改定案への「バック転」は、じつに不破氏でなければやれない芸当であった。
しかし、日本共産党は2004年の綱領によって長い年月を浪費したことを忘れてはならない。日本国民の多くは、日本共産党も中国共産党も名前のとおり、思想基盤は同じだと思っている。「中国は社会主義だ、共産党の独裁だから」というのが一般的な考えだ。同党がいくら民主主義を叫んだところで、これが長い停滞と後退の原因の一つとなったことは明らかだ。
わが村も例外ではない。村人の多くも、共産党が天下をとったら日本も中国と同類の国家になるという考えをなかなか変えない。一時は4人もいた共産党村議がいまゼロになったのも、2004年綱領が一役買っているだろう。
2004年綱領は、中国を「社会主義へ歩む国」とするばかりでなく、東欧ソ連が崩壊してもなお「二つの体制が共存する時代」とするなど、およそ現実離れしていた。しかも、この15年の間に、若者の入党者はごく限られたものとなり、党員は高齢化し、あと10年もすれば党の消滅は避けられないところまで来ている。党改革の必要性はとっくに明らかだった。綱領改定の必要性は党内でもようやく認識されるようになった。
ならば不破氏らは、2004年の綱領は間違いだったと自己批判して改定に取組むのが筋だった。だが彼らは党の混乱と批判をおそれ、また自身のプライドを守るためには、そうすることができなかった。
そこで不破氏らは、その優れた頭脳によって胡錦涛政権の時期に外交・軍事において、中国は覇権主義・大国主義に変節し、習近平政権に至ってそれが目に余るものになったという理由を探し出したのである。
もちろん中共からすれば、わが方の政治経済路線は変わらないのに、不破氏らが突然大国主義・覇権主義が生まれたと言い出しただけ、ということになるだろう。
92年以来、中国経済は資本主義的成長の道を歩み、国営民営の巨大企業を形成し、世界の工場となり、海外進出を遂げ、第二の経済大国になった。中共軍は1988年すでに南シナ海の岩礁に軍事施設を作り、以後一貫して軍拡につとめ、航空母艦を持ち、アメリカと太平洋を二分するという提案を行い、今や南太平洋の島嶼諸国に進出してオーストラリアを牽制する勢いだ。つまり、中共の大国勃興というスローガンによる強大国路線は一貫していたのである。
さて次の問題だが、赤旗の中国報道の少なさをなぜ代議員諸侯は問題にしなかったのだろうか。
私は中国にいて、日本共産党員と赤旗読者は中国情報から遮断されていると、痛いほど感じていた(当時は中国で日本共産党のサイトを読むことができた。今後はわからない)。
中国では公害に抗議したり、土地収用に抵抗する農民の暴動は年間10数万件おきており、それは大体農民の敗北に終わっていた。また民主と人権を要求する人々に対する苛烈な弾圧も絶えず起きていた。
赤旗は北京特派員をおいていたが、民衆の切実な要求から起きる事件をたいてい黙殺していた。志位氏は大会報告の中で、中国に人権問題が起こるたびに抗議や申し入れをしたというが、それはまるっきりとおりいっぺんのものという印象を受けた。「社会主義をめざす」中国の悪口は禁止されていたからであろう。
たとえば党大会への志位氏の報告では、最近の香港とウイグルの人権問題がとり上げられている。だがこれは最近のことではないし、二つの地域に限られたことでもない。文化大革命期はもちろん1980年代から、モンゴル・ウイグルやカザフ・チベットの文化運動や民族運動、宗教への苛烈な弾圧があった。それは一口で言えば、少数民族に対する漢民族への一貫した強制的同化政策によるものである。
志位報告では、モンゴルやチベット、その他の民族問題は意図的に捨象されたが、これには理由がある。まともにとりあげると、中国には覇権主義・大国主義化する以前から民族問題・人権問題が存在したこと、日本共産党がそれを黙認していたことを認めることになるからである。
ウイグルやカザフ・モンゴル・チベットの少数民族居住地域は、中国の事実上の植民地である。それは日本がアメリカの従属国であるのと同じくらい明らかだ。共産党は民族問題にふれることを内政干渉としているが、今どきそんな議論がどこにあるだろうか。アジア・アフリカ・中南米諸国の民族運動をいったいどう理解していたのか。
私は党大会で台湾について討論することを期待していたが、それはなかった。だが日本のどの政党にとっても台湾問題を避けて通ることは許されない。台湾問題は中国の内政問題ではない。東アジア全域の安全保障にかかわる重大問題である。
この間の総統選挙では民進党蔡英文氏が勝利をおさめ、赤旗もこれを大きく報道して歓迎した(赤旗1月13日の「圧勝の背景に若者の危機感」という記事は、短いながらも蔡英文氏の政治実績と支持動向を分析したすぐれた内容である)。
台湾は事実上独立した民主国家である。だが習近平氏は台湾を制圧して「中華民族の大いなる興隆」「中国の夢」を実現し、毛沢東の正統な後継者との評価を得たいと願っている。中国軍部はあまり遠くない時期の武力侵攻を公言してはばからない。
いまや日本共産党も、「一つの中国」という原則によって、台湾問題に触れることを「内政不干渉」とし、問題から逃避することはできない情勢にある。台湾の主権を尊重し、台湾の将来は台湾人が決定すべきこととするか、中共による武力統一を支持するか。早晩態度を決めなくてはならない。いまから準備することをお勧めする。
(2020・01・24)
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〔opinion9407:200201〕
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