チェルノブイリを超える日は近い?
- 2011年 5月 27日
- 時代をみる
- 宇井 宙放射性物質総放出量
「DAYS JAPAN」6月号の編集後記(広河隆一氏執筆)を読んで驚いた。首相官邸HPに長瀧重信・長崎大学名誉教授(元放射線影響研究所理事長)と佐々木康人・日本アイソトープ協会常務理事(前放射線医学総合研究所理事長)連名の発表が掲載されており、そこには、チェルノブイリ原発事故による死者数は、事故直後の28名と小児甲状腺がんによる死者15人だけで、それ以外には被曝による死者は出ていない!としているという。調べてみたら、確かにそのように発表している。
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html
これを驚くべき情報操作と言わずして何と評すればよいだろうか!? 今日、世界の多くの研究者がチェルノブイリ原発事故による死者数はおよそ100万人に達すると推計しているのである。
http://www.counterpunch.org/giambrone05032011.html
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tsuushin/pico_master.html
1994年に亡くなった瀬尾健氏(京大原子炉実験所助手)も、すでに94年以前の時点で70万人以上の死者が出ると予測していたのである(『完全シミュレーション 原発事故の恐怖』風媒社)。
ちなみに、この長瀧大先生は事故直後の3月16日、読売新聞の取材に対して、「今回の福島第一原発事故に対する東電や政府の対応には、『住民の健康が第一』という視点が欠けている」などと立派な批判をしているのである。しかもこの長瀧大先生も佐々木大先生もともに重松逸造大先生の弟子である。重松氏は「米核戦略と放射線「科学」」という記事
http://chikyuza.net/archives/9558でも述べたように、放影研理事長、ICRP委員などを歴任し、チェルノブイリ事故調査団の団長として、「住民は放射線が原因と認められるような障害を受けていない。今後もほとんど有意な影響は認められないだろう。最も悪いのは放射線を怖がる精神的ストレスである」というトンデモ報告を行った人物である。
さらに官邸HPを調べてみると、原子力安全保安院が福島原発の事故評価尺度INESをそれ以前のレベル5からようやくレベル7に引き上げた4月12日、「よくあるご質問」というコーナーで、「福島第一原発事故「レベル7」の意味について」という項目を設け、「チェルノブイリと同じ深刻度の事故ということですか?」という質問に対して、「違います。事故発生以来の放射性物質の総放出量で比較すると、現時点で、今回の事故はチェルノブイリ事故の時の約10分の1です。ただ、原子力施設事故の指標として用いられている「INES評価」という物差しでは、レベル分けは「7」までしか分類が無いため、福島もその10倍のチェルノブイリも同じランクに入ってしまうということです」という白々しい回答を載せている。
http://www.kantei.go.jp/saigai/faq/20110412genpatsu_faq.html
そして、参照指示された「右図」を見ると、放出された放射性物質の総量がチェルノブイリは520万テラベクレル(1テラベクレル=1兆ベクレル)なのに対して、フクシマは37~62万テラベクレルだから、チェルノブイリの10分の1に「すぎない」ということを強調したいようなのだ。しかし、レベル7の基準は「数万ベクレル以上」なのだから、フクシマはその時点でレベル7の最低基準を10倍も上回っている、というのが事態の真相なのである。
しかもこれは4月12日以前の評価なのであり、しかも海に垂れ流し続けている大量の汚染水に含まれる放射能はここには計算に入っていないのである。『週刊現代』6月4日号によれば、原子力村の大御所御用学者である石川迪夫・日本原子力技術協会最高顧問は5月18日に『電気新聞』に寄稿した論文の中で、福島原発から漏出した汚染水に含まれる放射能量は1000万キュリー(37万テラベクレル)に達するだろう、と書いているという。これを政府の発表した37万~62万テラベクレルに加えれば、それだけで74万~99万テラベクレルに達する。一方、上記DAYS JAPANの編集後記によれば、4月5日までの放出放射能値はすでにチェルノブイリの3分の1に達したという。政府・御用学者でさえ、すでにチェルノブイリの5~7分の1の放射性物質を放出してしまったというのだから、広河氏の推定ははるかに信用に値するだろう。それからすでに50日以上が経過した。そしてつい最近、東電は1号機から3号機まですべてメルトダウンしていたばかりか溶融した核燃料が圧力容器ばかりか格納容器まで突き破って地下に溶け落ちていたことを認めた。そしてそこから地下水にしみ込んだ放射能汚染水が海に漏出し続けていることはもはや明白である。
事故は収束に向かうどころか悪化の一途を辿っていることがもはや隠しようもない事態となっているのである。もともと1号機から3号機の原子炉と4号機の使用済み核燃料プールに貯蔵されていた核燃料の総量は破局的事故を起こしたチェルノブイリ4号機(炉)の10倍くらいあると言われていた。まもなく福島も梅雨になるだろう。そのとき福島第一原発に降り注ぐ大量の雨は高レベル放射能で汚染されて太平洋に流れ込むだろう。私は4月3日に書いた「チェルノブイリは我々の未来である」http://chikyuza.net/archives/8179という記事の中で、「フクシマから放出される放射性物質の総量は、最終的にはチェルノブイリをはるかに上回ることはほぼ確実だろう」と書いたが、梅雨が終わることにはフクシマから放出された放射性物質の総量はチェルノブイリを超えてしまうのではないだろうか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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