昭和21年財産税と中東欧の財産再私有化
- 2020年 3月 10日
- 評論・紹介・意見
- 岩田昌征
ここ数年「ちきゅう座」に中東欧諸国、特にポーランドやセルビアにおける再私有化・財産返還問題について何回か書いてきた。第二次世界大戦終了後に社会主義・共産主義政権が断行した巨大私有財産の公有化を、半世紀以上経過した今日になって、再び元所有者・旧所有者の相続権者たち、すなわち、息子・娘、孫・孫娘、そして彼らから相続権を買い取った者たちのために無効化し、旧私有財産を返還・再私有化するという大社会問題である。
ところで、第二次大戦終了後に財産所有関係が根本的に見直されて、革命的変革を経験したのは、中東欧諸国だけではない。我が日本においても敗戦前までの大資産階級は、農地解放、財閥解体、臨時財産税によって大打撃を受けた。天皇家を頂点にする皇族・宮家、貴族・華族、十四財閥家族、大地主層、そして一般の富裕者層。
特に、所有する資産の規模に関しては、財閥家族をはるかに上回る皇室財産は原則として国有化された。日本国憲法第88条に「すべて皇室財産は、国に属する。全て皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。」と定められた。終戦直後の富・資産の平準化過程で昭和21年・1946年の財産税が決定的に効いている。この点で『「土地と財産」で読み解く日本史』(元国税調査官大村大次郎著、PHP研究所、2019年・令和元年)が参考になる。当時の貨幣価値で、財産(土地建物等の不動産、金融資産、書画骨董、貴金属等)を15階級に分け、累進課税する。すなわち、①10万円超~11万円以下 25%、②11万円超~12万円以下 30%、③、・・・・・、⑪150万円超~300万円以下 75%、⑫300万円超~500万円以下 80%、⑬500万円超~1500万円以下 85%、⑭1500万円超 90%。
「1500万円のような大資産を持っていたのは、財閥家や東京に広大な土地をもつ皇族や華族などに限られた。だから、財閥家や華族の財産はこのときに没収されることになった。上野公園の中にある都立庭園の『旧岩崎邸』や、東京都北区にある都立庭園の『旧古河庭園』なども、この財産税の課税時に没収され、公有地にされたのである。」(p.236、強調は岩田)
電子検索をすると、広田四哉著「地主制の解体と財産税」(『土地制度史学』第137号、1992年10月)を簡単に読むことが出来る。そこに国税庁の『財産税大納税者名簿』(1954年)が使用されており、課税価格500万円を超える大納税者は、天皇家を筆頭に394名であり、広田氏の分析する地方地主三家もそれに記録されている。
ここに不思議なことがある。上記の394家の子孫たちは、中東欧諸国の旧所有者集団のように、日本国に対して財産返還や損害賠償を要求してもよさそうなのに、そんな話を聞かない。
日本の華族や資産家の子孫たちの方がポーランドやセルビアの貴族や有産者の子孫たちよりも深いところで社会正義の実質を了解しているということか。中東欧の場合、社会正義はほとんど私的所有権のみに還元されるようである。
令和2年3月5日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://chikyuza.net/
〔opinion9524:200310〕
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