新型コロナをめぐるテクノロジーと人権の問題
- 2020年 5月 5日
- 時代をみる
- 浦田賢治
東西冷戦の終結直後1990年11月初旬、ベルリンでのことである。NATO高官や外交官らを含む専門家会議が開かれたとき、実践するアメリカの国際法学者リチャード・フォーク(Richard Falk)が現れた。彼は「Abolish Nuclear weapons(核兵器廃絶)と背中に書き込んだティシャツを着ているではないか。ぼくは、この勇気と仕草に痛く衝撃をうけた。
[補筆]「 東日本の原発震災(2011年3月11日)の直後に、米国の核政策法律家委員会(LCNP)の知人二人からそれぞれの「メッセージ」が、ぼくに届いた。ピータ・ワイス(Peter Weiss:同会長)は一言「勇気を出せ」と言ってきた。フランシス・ボイル(Francis A.Boyle:国際法教授)は「政府や原発を信頼するな。民衆が信頼できる専門家を探せ」と言ってきた。こうしてぼくは、反原発の働きで勇気を出し知恵を絞ることにした。」
さて憲法学も、みずからの形而上学と諸科学の成果に依拠しなければならない。ということを承知したうえで、現在緊急でかつ最も重要な新型コロナをめぐるテクノロジーと人権の問題に絞って発言したい。二つの事例をあげよう。
コロナウイルスが中国に初めて現れる、わずか三カ月前、2019年9月、マイクロソフトが創設メンバーの一社である生体認証企業ID2020が、「幼児予防接種」に基づく、「最も成功した手法」のみを使う「幼児のための複数の生体認証技術研究」の新しいプロジェクトに着手したと、発表していた。
「新しいインタビューで、我々が大量ワクチン接種をするまでは、大規模な公共集会は「決して」復活しないと、ビル・ゲイツは威厳たっぷりに述べた。一体誰が彼を世界の王様にしたのだろう」(注https://t.co/siW7bZ9yGc…pic.twitter.com/ivaCI8eAEl)マサチューセッツ工科大学(MIT)研究者が、皮膚下の見えない染料にデータを格納するハイテク「入れ墨」を開発したのだ。
この「透明な入れ墨」問題に言及してイスラエルの歴史家ハラリは、NHK特集:パンデミックが変える世界(2020年4月25日放映)の中で、こういった。こうした個人生体の情報については、決して治安機関や安全保障機関に渡してはならない、と。この説にぼくも賛成である。医療機関だけに、匿名化して渡すのだ。だが、こうした情報管理の仕組みを作り、運用する力量をもった(権力の)担い手に、憲法学者はいかに貢献しうるだろうか。
さて第二の事例は、ぼくの身近な最近の実践事例である。「PCR検査会場を区民に知らせるな!」世田谷区健康企画課からの電話(2020年4月27日)という事件、これである。ぼくは、区独自での抗体検査を検討中という保坂展人氏にあてて、つぎの番組を見てくださるように要請文を送信した。「デモクラシイタイムス」の「新型コロナの真実:5月6日以降に備える」(注 https://www.youtube.com/watch?v=biRtZzoM9NA)(児玉龍彦=金子勝氏出演、2020年4月28日)である。
[補筆]「早川由美子・映画監督がコロナ検査問題で市役所と闘っていることを偶然知った(4月30日)。曰く。 2020年4月27日、世田谷区健康企画課、課長のオオタニさんより、私個人の世田谷区PCR検査の体験を書いたブログとツイッターに対して、会場部分への言及と写真について削除を求める電話を頂きました。(当該ブログはこちらです⇒ https://www.petiteadventurefilms.com/setagaya_pcr
当該ブログを読むと、表現の自由と公益を守るために、電話のテープ起こしに痛ましくも長い時間と精神力を消耗している様子だった。彼女は粘り腰で対話をつづけて、決して削除するとは言わなかった(現在ウェブサイトを見ると「空き家に住んで映画を作ろう!」という奮闘記もある。)」
現在まで日本政府が採ってきた学説は、新型コロナの真実をとらえていない。これまでの戦略:「外出の自粛型」は正しくない。今回の新型コロナの真実に照らして、「感染者の個別追跡型」(手法)でなければならない。「感染者の個別追跡型」の手法を採るさい、歴史家ハラリのいうとおり、個人生体の情報は、匿名化して医療機関だけに渡すのである。
おわりに「中国の武漢」で得た現在の教訓に触れておく。文明とは、社会のなかの弱者を一番大事にすることである。「パンデミックが変える世界」が、この教訓の真偽を明らかにするだろう。
*この稿の初出は「憲法ネット103」(憲法記念日のメッセージ)。ただし「こどもの日」の現在、2個所に[補筆]した(浦田賢治)。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4719:200505〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。