PARCが翻訳制作中 映画『ボルネオ事件―熱帯林を破壊するダークマネー』
- 2020年 5月 30日
- 評論・紹介・意見
- NPO法人 アジア太平洋資料センター奥村勇斗
NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)では、クラウドファンディング・キャンペーン「日本とアジアの森林を持続可能に―2つの映像作品の制作プロジェクト」を行っている。日本の森林を守ることと、アジアの森林を守ることが、どう関わっているのか。以下では、プロジェクトで制作中の翻訳ドキュメンタリー映画『ボルネオ事件―熱帯林を破壊するダークマネー』(仮)の内容紹介を兼ねて、ふたつの課題のつながりを提示したい。
日本は、国土の約7割を森林が占める世界有数の森林大国である。だが、1960年に木材輸入を自由化して以来、木材自給率は減少を続け、1990年代から2000年代にかけては国内消費量の7割以上を輸入木材でまかなっていた。その後、消費量のピークを過ぎるとともに、一時は2割を切っていた自給率も増加に転じているが、いまでも自給率は3割台にとどまっている(林野庁「平成30年木材需給表」)。この日本の木材消費のために失われてきたのが、東南アジアの熱帯林だ。
映画『ボルネオ事件―熱帯林を破壊するダークマネー』(スウェーデン、2017年)で描かれるのは、マレーシア・ボルネオ島サラワク州の熱帯林破壊である。この地では、日本を最大の輸出先とする伐採によって、原生林の9割が失われたのである。この急速な伐採を現地側で可能にしてきた州首相タイブ・マハムドの汚職が『ボルネオ事件』のテーマであり、彼の腐敗を調査・告発する活動家たちが物語の主人公である。
物語は、1984年にスイス人青年のブルーノ・マンサーがプナン人のもとを訪れるところから始まる。彼らの生活に魅了され、彼らとともに森で暮らしはじめたブルーノは、やがて大規模な伐採が迫っていることを知り、プナン人とともに抵抗運動を組織し、熱帯林の危機を国際社会に訴える活動を展開する。ところが、活動のさなか、政府から要注意人物とされていたブルーノは2000年にジャングルで行方不明となってしまう。
そこからカメラは、ブルーノの遺志を継ぐ人々の闘いを追う。かつてブルーノとともに伐採阻止運動の先頭に立ったプナン人の亡命者ムタン・ウルド。タイブの腐敗の真相を現地に届ける「ラジオ・フリー・サラワク」を立ち上げたクレア・ルーキャッスル・ブラウンとピーター・ジョン・ジャバン。ブルーノの遺した財団を引き継ぎ、汚職の調査を進めるルーカス・ストラウマン。この4人の苦闘の末に、33年にわたり州首相の座に君臨してきたタイブが辞任に追い込まれるまでの過程が描かれる。
州首相タイブの汚職とは、森林伐採許可の発行権を握り、本来保護すべき森を売り飛ばすことで、企業から賄賂を受け取る、というものだ。州の法律では政治家が民間事業でお金を稼ぐことが禁じられているにもかかわらず、この一見シンプルな癒着を通じて、タイブは150億ドルもの資産を築き上げた。映画では、ダミー会社や外国預金を駆使することで見えなくされてきたこの不正なお金の流れが調査され、タイブとその隠蔽に加担してきた世界の金融機関に対する追及が繰り広げられる。
映画は2014年のタイブ辞任という勝利をもって結ばれ、独立の調査報道のサクセス・ストーリーとなっている。だが、サラワク州の熱帯林はいまも消失の危機にさらされており、日本はその木材の最大の輸出先であり続けている。あるいは、ルーカスが著書で指摘するように、木材をめぐる腐敗はタイブとサラワクにとどまる問題ではない。アフリカ、パプアニューギニア、タスマニア、シベリアといった各地にマレーシア系の伐採企業が進出していることに触れて、ルーカスは次のように述べている。
「これらの企業は皆、サラワクの独裁政権にそのルーツを持ち、タイブの庇護の下、汚職と環境破壊と先住民族の人権侵害の上に一つのビジネスモデルを築き上げてきた。彼らはそのモデルを自ら実践するだけでなく、世界中のさまざまな場所へと輸出した。」
(『熱帯雨林コネクション―マレーシア木材マフィアを追って』鶴田由紀訳、緑風出版、2017年、238頁)
日本の企業と市場が重要な一旦を担ってきたこの森林破壊のビジネスモデルが、世界各地の森を脅かしているのである。
そして、木材の輸入依存と同時に日本国内で進んだのが、森林の劣化だ。大規模な植林後に手入れのされなくなった各地の人工林では土砂災害が起こりやすくなっている。そして自給率アップを謳う政府の現在の政策もまた、短期的な大量供給のための大規模な伐採を招き、山林の荒廃をもたらしているのである。
求められているのは、たんに数字上で輸入を自給に置き換えることではなく、持続可能な木材の利用と森林経営を実現していくことだ。そのためには、森林大国かつ木材消費国である日本に暮らす私たちが、輸入木材の向こうに広がる現実と、国内の課題をともに知っていくことが欠かせない。そのために、クラウドファンディング・プロジェクト「日本とアジアの森林を持続可能に」では、翻訳ドキュメンタリー『ボルネオ事件』と、日本の森林の現状を取材した『壊れゆく森から、持続する森へ』の2作品の制作費の支援を募っている。6月5日までと締切が迫っているが、一人でも多くの方に関心を持っていただきたい。
日本とアジアの森林を持続可能に―2つの映像作品の制作プロジェクト(Motion Gallery)
https://motion-gallery.net/projects/parc2020
また、プロジェクトとも関連してPARCでは、「森林破壊」をテーマに無料のオンライン講座を行う。こちらもぜひご参加いただきたい。
【緊急開催】PARC自由学校オンラインオープン講座
COVID-19時代を生きる―グローバル・クライシスと市民社会
森林破壊が高める新型感染症リスク―私たちの暮らしと危機とのつながり
講師:川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク)
日時:6月3日(水)19:00~20:30
参加費:無料(要事前申し込み)
奥村勇斗(おくむらゆうと NPO法人 アジア太平洋資料センター)
写真 アジア太平洋平資料センター(PARC)ではスウェーデンの映画『ボルネオ事件―熱帯林を破壊するダークマネー』(仮)の翻訳字幕版の作成と、日本国内での森林保護に関する新作映像作品『壊れゆく森から、持続する森へ』の2つのプロジェクトを進めています。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9797:200530〕
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