トランプ、負けたら市街戦
- 2020年 6月 6日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
十一月三日の大統領選挙まで、あと五ヵ月。トランプの言動と状況を見ていると、このままいけば発展途上国の選挙のようなことになりかねないと心配になってくる。アメリカの財界人も富裕層も過激なトランプを走らせて美味しい思いをしてきたが、予想していたこととはいえ、度が過ぎたことには気がついているだろう。
このままソシオパス(sociopath)のトランプにまかせていたら、金儲けの構造的な欠陥(新自由主義)に取り返しのつかない瑕疵が生じる(環境破壊など)可能性が高くなってきた。財界人も富裕層もバカでもなし、トランプの問題は最初から分かっている。目先の利益をただき出す汚れ仕事をと思ってやらせた大統領でしかない。ちょっと派手にやりすぎてもう消費期限も過ぎてるし、早々に穏やかなヤツに挿げ替えなきゃって思っているところに、民主党にちょうどいいぼんやりしたのがいる。危機的状況から這い出す能力には欠けるが、暴れ馬を放っておくわけにもいかない。
ソシオパスなんてカタカタ、使いたくないが、使い易い日本語が見つからない。反社会的な言動を繰り返す気質というのか性格の精神疾患を患っている人のことなのだが、なんといっていいのか分からない。トランプみたいなヤツといった方がわかりやすい。そのうち、どこかの辞書に例として、アメリカ合衆国の第四十五代目大統領だったドナルド・ジョン・トランプとでも載ってくるかもしれない。
SpaceXの打ち上げにでかけて、英雄気取りで派手な選挙戦をと思って帰ってきたらミネアポリスの暴動だ。あんなもの警察と軍でどうにでも抑えられるのに根性のねぇやつらのせいで、あちこちに広がっちゃったじゃないか。いざとなりゃ軍を送って制圧すりゃいいだけぐらいにしか思っちゃいない。ミネアポリスのデモに対するツイッター「”when the looting starts, the shooting starts”」がオツムの程度を語っている。
愛犬をテレビドラマ「名犬ラッシー(邦題)」の犬と勘違いして、ラッシーと呼んだ大統領がいたが、トランプは荒っぽい戦闘映画の見過ぎで、映画のなかのヒーローを自分と重ね合わせているんじゃないかと心配になる。
アメリカ中どこもSpaceXなんかに浮かれていられるような状況じゃない。新型コロナウィルスで十万人以上の死者をだして、終息の気配は一向に見えない。四人に一人(もっと多いか?)が失業して、失業保険申請が四千万件を超えている。伝統的な大手企業の倒産も続いて、大恐慌以上に厳しい状況にある。
財界や政治屋は、上手く儲かるからトランプの後ろにいるだけで、大統領なんてのは所詮すげ替えのきく部品でしかないとしか思っちゃいない。自分たちの利権や資産が侵されることもなく儲かれば、大統領なんてのは誰でもかまわない。
ところが当のトランプはそんな悠長なことを言ってはいられない。どんなことをしてでも大統領選挙には負けらない。トランプの立場は取り巻きの利権集団とは違う。大統領でなくなったとたんに山のような訴訟にさらされて、常識(?)で考えれば、身内も含めて刑務所で人様の税金で衣食住を保証される名誉にありつくことになりかねない。
ロシアでもキリストでもアラーでも使えるものならなんでもかまわないが、そんな本心は見せられない。何を今さらと思うが、呆れるほどの武装警官に守られながら、聖書片手にプロテスタント系保守キリスト教の一派で、トランプの熱い支持層であるエバンジリカル向けに敬虔な平和主義者の恰好をしてみせた。
毎日あきずに嘘八百を垂れ流して選挙にと走り出してはいるが、頭の近視に乱視がはいったアメリカ人でもさすがにトランプの嘘に対する免疫ができてきて、今までのようにはいきそうもない。そこで早々に自分に有利な選挙体制をと、そして不利な体制は強権を持ってでも阻止する動きにではじめた。それでも戦況不利とみて、負けたときには不法選挙だと主張して大統領の座にいすわり続ける策を練り始めた。
とんでない想像をしているとは思わない。今日にいたるまでのトランプの言動から順当に考えれば、まるで発展途上国で選挙に負けても現職にしがみついた大統領や首相がやってきたことと同じことが起きる。選挙戦から投票まで、白人の極右集団を煽って選挙制度そのものを破壊しようとするだろう。
考えてみればいい。白人の極右集団が重火器、なかにはロケットランチャーまで持ち出して、市街に繰り出しては一般市民を威嚇してきた。トランプはそれを愛国者と称賛してきた。その痴れ者どもがトランプが選挙に負けたとき、おとなしく家でテレビを見てるかビデオゲームでもしているか?
黒人に対する白人警官の暴力には目にあまるものがある。それもトランプは立派な行為だと主張している。黒人のデモがしばし焼き討ちや暴動に発展することがあるが、歴史的に虐げられ貧困にあえいできた人たちが新型コロナウィルスで人口比でみれば最も大きな死者をだしている。過激化を良しとはしないが、自分でも同じような行動をとるだろうと思う。なんのバイアスや先入観念なしに、黒人や少数民族に対する差別を知れば、あって当たり前としか思え得ない。
人種差別に呻吟してきたアフリカ系アメリカ人の怒りがどれほどものか、「Democracy Now!」というニュースサイトの動画とスクリプトを見れば実感できる。
英語の動画に付いていくのはと思う方もいらっしゃるだろう。動画の下に話を書きだしたTranscriptが付いているから、これを見ながら聞けばいい。どういうわけか、つながりにくいこともあるから、時間を変えて何度か試してみることをお勧めする。
“America Has Looted Black People. We Learned It from You” Says Women’s March Activist Tamika Mallory
https://www.democracynow.org/2020/6/1/tamika_mallory_speech_police_brutality
デモも暴動も銃やライフルをもってのものではないが、トランプが賞賛している白人極右集団の威嚇デモは重火器を振りかざしている。トランプが選挙で負けたとたん、アメリカのあちこちで市街戦が勃発するだろう。その時の大統領は誰か? 選挙が終わっただけで次期、第四十六代大統領は、来年の一月二〇日にならないと就任しない。選挙に負けても、それまではトランプが現職大統領で、アメリカ全軍の最高司令官の立場にいつづける。トランプが市街戦を平定すべく軍を派遣したら(既に国防省代表、マーク・エスパーは否定しているが)、軍の銃口は空手でデモをしている人々に向けられるのか、それともトランプの熱い支持者でありつづける白人極右集団へなのか。アメリカが最も豊かな発展途上国にすぎないことを証明することになる日が近い。
仕事でかなりの数のアメリカ人と長年付き合ってきた。アメリカ人は概して表裏の少ない、付き合い易い人たちだった。ある意味裏か表か分からない日本人より、階級社会のなかで建前と本音を使い分けすぎるヨーロッパの人たちよりも気持ちがよかった。
仕事を離れ、要らぬしがらみもきれさっぱりなくなった。おかげで見える景色も随分違うものになってきた。散々ドルを垂れ流して、どこにも行きようなない自分たちの借金でしかないドルをかたに、ギャンブルのような金儲けに走って金融崩壊で世界中に災禍をまき散らして、挙句の果てが金儲け目的で人様の国に乗り込んでやりたい放題のアメリカにはうんざりしていた。そこにトランプという痴れ者がでてきて、アメリカは発展途上国に過ぎないことがはっきりしてきた。
いい人もいっぱいいるんだけど、どうしてもトランプみたいのが目立つアメリカ。付き合いが長い分、人種差別にはいやというほどあってきた。アメリカ本社の手抜きにごまかしの尻ぬぐいを散々させられて、いい加減にしろこの馬鹿野郎がって、「mfsob」って怒鳴りたいのを我慢して「I told you, didn’t I」で押し込んでも、神に誓って自分(たち)の非であることを分かっていても「I am sorry」とは言わない。二十代の中頃からかれこれ四十年の付き合いになるが、一度も聞いたことがない。
「下げた頭を叩くヤツはいない」と言っても分からない。文化の違いといってしまえばそれまでだが、良心や節度、人としてのありようにそんなに大きな違いなどあろうはずがないと思うのだが、そろばんが勝ちすぎるのだろう、そうでもないと思い知らされることがままある。
久しぶりにNPR(National Public Radio)の五月十日付けの「All Things Considered」をみて、ここまでやるかというのに呆れた。
「Amid Pandemic, Hospitals Lay Off 1.4M Workers In April」
urlは下記の通り。
https://www.npr.org/2020/05/10/853524764/amid-pandemic-hospitals-lay-off-1-4m-workers-in-april
記事によれば、パンデミックの最中、四月ひと月で百四十万人もの医療関係者がレイオフされた。三月には四万人レイオフされているし、五月も続いているだろうから二百万人以上が失業しているだろう。医療関係者、COVID-19で寝ずの勤務で疲弊していると想像している人も多いだろうが、それはCOVID-19に関係する部署だけで、感染を防ぐためもあって通常の医療サービスを制限、あるいは中断しているところも多い。
要は仕事がない。ならば解雇。実に合理的というのか、はっきりしているというのか、資本主義の資本主義たる面目躍如というところだが、それで終わらないところがまたすごい。
経営に支障をきたすところもあるということで、病院などは政府から$100billion(一ドル百円換算で10兆円)の融資を受けている。確かに、今年はもう二九もの病院が破綻しているが、それでも、解雇できる従業員は解雇して利益を捻出する。立派すぎる経営で、できればそんなところで働きたくはないし、そんな国は御免蒙りたい。
まあ、アメリカに限らず日本でも、どこでもあることだろうが、こうもあからさまにやられると、いい加減にしろと一言いいたくなる。
中国がどうのこうのと言う前に自分たちが蒔いた種、たまには自分たちできれいにしろや。何を偉そうに新自由主義だ。垂れ流した借金でしかないドルをうまく使うにはという、都合のいい後智慧じゃないか、といったら言い過ぎか。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9816:200606〕
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