続「2020・8・6」広島ルポ 敵基地攻撃能力の保有に反対の声続々
- 2020年 8月 19日
- 時代をみる
- ヒロシマ原爆岩垂 弘核
8月6日に「被爆75年」を迎えた広島での取材で強く印象に残ったことを「広島ルポ」上・下2回で紹介したが、広島で印象に残ったことは、他にも多々あった。その一つは、「8・6」直前に自民党が発表した「敵基地攻撃能力保有」提言と、これを受けた安倍首相の発言に対し、メディアや原水爆禁止関係団体から「懸念」や「反対」が表明されたことだった。
敵基地攻撃能力保有問題は、自民党の国防部会と安全保障調査会が7月31日に「国民を守るための抑止力向上に関する提言」をまとめたことで、にわかにクローズアップされるに至った。その内容は、一言でいえば「陸上配備型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の配備断念を受け、政府に対して『敵基地攻撃能力』の保有を求める」(8月1日付朝日新聞)というものだった。
この記事は、続けて提言の内容を詳しく説明しているが、そこには「提言は従来の弾道ミサイル防衛にとどまらず、中国や北朝鮮の新たなミサイル技術に対応する必要性を指摘。『相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力』と敵基地攻撃能力の保有を求めた」とあった。
この提言は、その後、8月4日に自民党の政調審議会で了承され、安倍首相に提出されたが、これに対し、首相は記者団に「しっかりと新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と語ったと、5日付の朝日新聞は伝えていた。
敵基地攻撃能力の保有は専守防衛を逸脱
広島で5日朝、中国新聞を手に取って目を見張った。一面トップに「敵基地攻撃 来月に方向性」「首相 自民提言受けNSC」という2本見出しの記事が載っていたからである。それまでに私が見た限りの新聞では、敵基地攻撃能力保有問題に関する記事を一面トップで扱ったところはなかった。
加えて、同紙2面に、この記事に関連した、かなり大きな解説的な記事が載っていた。3本ある見出しの一つは「専守防衛逸脱 懸念強く」で、読み進めると、「政府は敵基地攻撃能力に関し、憲法上は許されるとしながら、専守防衛の観点から保有しない方針を堅持してきた。これを尊重する公明党との与党協議は難航必至。中国やロシアといった周辺国が反発し、地域の緊張を高める恐れもある」との記述に出合った。
そればかりではない。同紙8月7日付の投書欄「広場」に「敵基地攻撃 強い懸念」と題する、無職(76歳)の投書が載った。そこには「専守防衛は戦後日本の国家戦略でもある。敵基地攻撃能力の保有は、平和国家の歩みに反するのではないか。攻撃力を米軍に委ねて日米安保体制に変質を迫ることになるだろう。また、敵基地攻撃能力を持つには、長距離巡航ミサイルの導入など防衛費の膨張が避けられない」とあった。
いずれも、中国新聞がこの問題を重視していることの表れと見ていいだろう。その背景には、やはり確たる平和を願う原爆被爆地・広島を踏まえたメディアの信念と決意があるのではないか、と私には思われた。
原水爆禁止運動団体の一つ、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は「被爆75周年原水爆禁止世界大会」の広島大会と国際シンポジウムを6日にオンラインで開催する一方、同日午前、原爆ドームを囲む現地集会を開いた。約200人か参加し、藤本泰成・原水禁副議長があいさつしたが、その中で、副議長はこう述べた。
「被爆から75年。日本は今、どうなっているのか。政府は平和憲法をないがしろにして、米国から大量の武器を爆買いし、そして今、敵基地攻撃の議論まで始めた。人々の暮らしと命を大切にする政治が今こそ必要だ。世界中と日本を新型コロナウイルスが襲っている。なのに、政府は私たちへの休業補償や生活保障をないがしろにして武器を買い続けている。今こそ、力を合わせて日本の政治のあり方を変えようではないか」
また、もう一つの運動団体の原水爆禁止日本協議会(原水協)もオンラインで8月2日に開いた「原水爆禁止2020年世界大会・国際会議」で主催者報告を発表したが、そこには、こうあった。
「アジアと世界の平和を求める流れに逆行する、沖縄・辺野古の米軍新基地建設や憲法違反の敵基地攻撃など自衛隊の任務拡大、さらには憲法第9条の改正など、日米軍事同盟のもとで日本を『戦争する国』にする動きに反対します」
さらに、市民グループが6日に開いた「被爆75年<8・6国際対話集会~反核の夕べ~2020>」で「沖縄から見える核問題―広島、長崎とつなぐ沖縄」と題して講演した琉球新報社の新垣毅・政治部長は敵基地攻撃能力保有問題に言及、同紙の社説を引用しながら「保有を決めれば、日本の安全保障政策は大きく変わる。防衛政策の根幹である専守防衛の原則が形骸化するからだ」と述べた。
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